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それにしても、この店舗もおかしいな……。
木工屋もだったが、どうしてなのだろうか?
でも、2箇所ともあるとは言っているんだよね。
ならどうして……。
「お待たせしました。ユウさん、先日はありがとうございました」
おっと、集中していたからか近づいてきたのに気が付かなかった……。
そして、どうやら探していた彼で合っていたようだ。
「こんにちは、急に訪ねてきて申し訳ありません。そして、どういたしまして」
「それで、今日はどのような御用ですか?」
「依頼をお願いしたいと思っているのですが……念の為聞いておきたいのだけど、鍛冶のスキルは取得していますか?」
「ここで修業しているのですよ?」
「すいません、念のため確認しただけです。そこで鍛冶スキルを取得しているあなたに依頼をしたいのですが、魔法銃を強化するか、新たに作成してもらえませんか?」
「魔法銃ですか?ですが、現在私に入手できる素材では初期のものを少し超えるかどうかですが……」
「素材はこちらで用意しています。これでお願いしたいです」
そう言い、マジックポーチから第2類2種金属を取り出す。
「それは!?どこで入手しましたか!?」
見ただけで分かるのだろうか?
「入手場所は西の森です。見ただけで分かるのですね」
「まあ、すぐに鑑定を使用しましたし」
流石生産職。
「どうでしょうか?」
「……少し考える時間をください」
「分かりました」
やはりほぼ初対面でお願いするのは難しいかな?
まあ、ダメなようなら鍛冶屋の方に頼もう。
勿論あの人以外に。
そういえば、金属って入手方法あったのか。
職人ギルドで売っていたりするのだろうか?
でも、初期の魔法銃を少し超える程度ということは、同じ素材なのだろうか?
ん?
職人ギルド……。
そうか!
気づかなかった……そこならあれが売っているのではないだろうか。
まあ、今はどうせ時間もないから、暇ができてから行ってみようかな。
「お待たせしました。お受けします。まず、強化を試みて、それが無理そうなら作成でいいでしょうか?」
おお、良かった。
強化でいいかな?
うん、問題ない。
「ありがとうございます、それでお願いします。そうすると、依頼料はいくらくらいになりますか?」
「依頼料ですか……いくらでしょうね?」
こちらに聞かれましても。
「すいません、何分初めて個人の作成依頼を受けたもので……ちょっと待っていてくださいね」
そう言い残し、彼は店の奥へと行ってしまった。
きっと工房の誰かに聞きに行ったのだろう。
それにしても、初めてか……ちょっと手伝った方がいいだろうか?
まあ、今は木材を提供するくらいしかできないけどね。
いや、そういえば先程の……。
「お待たせしました。今回は依頼料は要りません。私も鍛冶のスキルレベルがかなり上がると思いますので」
誰の差し金だろうか?
流石に依頼料無しは勿体ないだろう。
いや、そうか……。
もしかして、先程の人に聞いたのだろうか?
経験は財産。
ここで貴重な素材を逃す方が勿体ないという考えだろうか?
でも、流石にタダはダメだろう。
ということで……。
「ありがとうございます。ですが、無料はやりすぎです。なので、持ってきた手土産を受け取ってください」
そう言い、マジックポーチから木材を取り出す。
「木材ですか?ちょうど木工スキルもレベル上げたかったので嬉しいです!」
木工スキルまで持っていたのか。
あれ?
戦闘スキルは大丈夫なのだろうか?
いくら生産特化と言っても戦闘も必要だと思うのだけど……。
ああ、そういえば生産活動でもレベルが上がるのだっけ。
となると、素材は全て買取で集めるのか。
そんなことを考えつつ、次々とマジックポーチから木材を取り出し、手渡していく。
「え?え?ちょっと待ってください!」
ん?
どうしたのだろうか?
「多くないですか!?流石にこんなには貰えないですよ!」
そう言われても、どうせ手土産用だったのだし……。
「また取りに行く予定なので問題ないですよ。それよりか、マジックポーチが溢れてしまう方が問題なので貰ってください」
適当なことを言ってしまったが、マジックポーチって溢れるのだろうか?
今度調べておこう。
「え、それなら……待ってください、マジックポーチって溢れるんですか?」
気づいてしまったか……。
惜しかった。
「溢れるかもしれませんよ?それに素材は使ってこそ素材です。マジックポーチで待っているだけでは悲しいと思いますよ?」
「うっ……確かにそうですね」
勿論、正しく使えてこそだけどね。
そうでなければ待っていた方がはるかにマシだろう。
そう思いつつ、さらに木材を取り出し、渡していく。
「って、なんでさらに渡してくるのですか!」
「え?だって、マジックポーチで待っているのは悲しいでしょう?」
「私が使わずに売るって考えないのですか?」
「それでもいいですよ。そうすれば素材は市場に回って、使用されますよね?それにあなたはそのお金で何か道具か素材を買うのでしょう?結局は私が依頼した魔法銃の役にも立つのですよ」
「え?あれ?そうですね。確かにそうです。分かりました、お受け取りします」
よし、気づかなかったな。
道具や素材を買うと言っても、それが魔法銃に役立つとは限らないのだけどね。
道具と素材が魔法銃に使用できなければ、それは魔法銃の役には立たない。
「おいおい、鍛冶屋で修業中の子に木材はねぇんじゃねえか?」
「木工も持っているので問題ありません」
「いや、鍛冶屋としては微妙な気分なんだがな」
「大丈夫です。槍にも矢にも木材は使います。木材の特性を知る意味で鍛冶にも貢献できます」
「まあ、そうだがな……あれ?おい、それだとまほうじゅ」
「そういえば、先程後回しにした謝罪をしてくださると言っていましたね?」
「確かに言ったな」
「それでは、彼に直接鍛冶を指導して頂けませんか?」
「……おう!確かに請け負った!」
危なかった。
ここで木工もしていたら、魔法銃の作成が遅れるなんて言われてしまったらまた受け取って貰えなくなる。
そうなると、報酬の代わりにならないじゃないか!
あれ?
何故に彼はこちらを恨めしそうに見ているのだろうか?
おかしいな……技術を上げるチャンスだと思うのだけど?
おっと、木材がもうちょっとあるな。
どうせなので全部渡しておこう。
「まだあるんですか!?」
「大丈夫です、これで最後です」
よし、今持っている木材は渡し終わった。
あとは……。
「それでは魔法銃お願いしますね」
強化を行って貰う為に、ギフトで貰った銅の魔法銃を渡す。
「分かりました。最高の物を仕上げます。あと、フレンド登録お願いできますか?」
フレンド登録?
ああ、そうか。
「確かに、連絡のために必要ですね。お願いします」
フレンド登録承認と。
これであとは待つだけだ!
「それでは、失礼しますね」
「はい、完成を楽しみにしていてくださいね」
「安心しろ、俺が教えるんだ。高品質の物を作るまで完成は無い」
うん、安心だ。
恨めしい顔で見ている彼は見えないことにしておこう。