―――39―――
闇が晴れると元の森の中に戻っていた。
位置は元通りなのだろうか?
辺りを見渡してイナバとルビーを探すと、両隣にいてくれた。
そして、どの方向にも暗闇の壁は見えない。
どうやら黒色の宝玉を破壊して情報を解放したことにより、このエリアの暗闇の壁は無くなったのだろう。
だが、代わりに妙なものが出てきたようだ。
いや、西の森全てを見回ったわけではないから代わりに出てきたとは言い切れないのだけど、明らかに怪しいものが存在しているのだ。
それは小さめの神殿ともいうべき建物で、床、柱、屋根だけで作られていて外から内側が見えるような作りだった。
そして、真ん中には台座とその上に青色の玉が置かれていた。
興味を惹かれて、神殿の中へと足を踏み入れる。
建物自体は特に変わった様子もなく、罠などもないようだ。
やはり怪しいのは真ん中の玉だろう。
玉へと近づき覗きこんでみると、海をそのまま閉じ込めたかのように錯覚してしまうほど、きれいな青色をしていた。
いや、どちらかというと深海の方が近い感じがする。
一瞬触れようと思ったが、すぐに手を戻した。
明らかに怪しい。
触れた瞬間に何かイベントが起こったりしたら、先程の試練で疲れている今の状態ではクリアは難しいだろう。
ならば、明日にでも体調を万全にして挑むべきだろう。
そう思い、調べたい気持ちを抑えて町へと帰還を始める。
……その前に町はどこにあるのだろう?
以前は暗闇の壁を基準に反対方向へ向かえば町へ帰ることができたが、今はその暗闇の壁が無い。
これはかなりまずいのでは……。
いや、まて。
僕は従魔魔法使いだ。
そして、頼れる仲間がいる。
ルビーさんお願いします。
ルビーを一旦送還し、ホークで召喚する。
西の森ならば空の敵はいないはずなので単独行動しても問題ないだろう。
そう、ルビーに空から町の方向を探してもらうのだ。
「ルビー、空から町の方角を探してほしい」
ルビーにそう指示し、自分は神殿を調べておくことにした。
下手に動くよりは目印となる神殿で動かず待っていた方がいいだろうし、何もしないのももったいないので、神殿を調べておきたい。
やはり真ん中の台座と玉以外には特に変わった仕掛けも無いようだ。
神殿を作っている材料も、見て、触った感じは石材のようだが、特殊な物には見えない。
やはりあの玉を調べてみないと分からないか。
多分情報が解放されたことに関係はしているだろうから、もう一度試練を受けられるとかだろうか?
それともまだ試練をクリアしていない人が試練を受けられる場所かもしれない。
できればもう一度試練を受けられる場所だと嬉しいな。
そう、あのゴーレムに用事があるのだ。
ドロップも魅力的なものだとは思うが、戦闘自体もかなり魅力的なのだ。
再度戦うことができればいいな。
まあ、どちらにしても今はここまでか。
そう思い、空を見上げるとちょうどルビーがこちらに向けて飛んできているところだった。
流石ルビー。
あまり時間は経過していないがもう発見したようだ。
僕も一緒に空を飛びたいな。
帰って来たルビーに町の方角を示してもらい、森を進む。
町へ出発する前にイナバにはウルフで召喚しなおしてもらった。
流石にこの森で感知能力無しは怖いです。
それに、ルビーは案内があるので、戦力としては数えられない。
僕とイナバでも1~2体程度なら人形の相手も可能だと思うが、もし追加で人形が加勢してきて3体以上になると少し危ない。
その為、できるだけ戦闘は避けたいのだ。
ようやく町まで帰ってこられた。
人形を避ける為に少し回り道をしてしまったが、戦うよりは早く帰ってこられたと思う。
ゴーレムは事前に感知できないので、遭遇したら全力でダッシュだ!
さて、まだログイン可能時間は残っているのだけど、どうしようか?
このままドロップアイテムの鑑定と掲示板への書き込みをしてもいいのだけど……。
うん、今日は疲れていることだしログアウトしよう。
アイテムは逃げない。
掲示板も逃げない。
よし、ログアウトだ!
それにしても今日は楽しかった。
これからのボス戦もあのように楽しいのだろうか?
本当にわくわくさせてくれるゲームだ。
「優君、情報が解放されたって聞いた?」
おお、丁度良かった。
「聞いたよ。解放したの僕だし」
「え!?そうなの?」
「うん。暗闇の壁に触ったら試練を受けられるのは知ってる?」
「知ってるよ。確か東西南北で証明するものが違うのだっけ?」
やはり姉さんは掲示板の確認は怠ってないようだ。
「そうそう。それで西の条件を満たしていたみたいで、試練に挑戦できたんだ。それをクリアしたら封印の神殿に飛ばされて、封印されていた情報を解放したんだ」
「そうだったのね。もう、誘ってくれれば一緒に行ったのに!」
「ごめんごめん。西の森に行ったのもメインは試練じゃなかったからさ」
まあ、メインは西の魔物と戦うことだったからしょうがない。
「ぶ~」
うっ……機嫌を取らなければ。
な、何かないだろうか……あ!
そうだ、まだ試練は残っているじゃないか。
それに西の森の神殿もあるじゃないか!
「で、でも、他の試練が残ってるからさ」
「うん。他の試練はいっしょに行こうね!」
「うん。あと、封印の神殿から戻った時に、西の森に神殿みたいな怪しい場所があったよ」
「神殿?確かそんな情報は無かったから、新しくできたのかな?」
「多分そうだと思う。そうすると、タイミング的に情報の解放が関係していると思うから、もしかしたらもう一度試練を受けられるかもしれないよ」
「そうなの!?明日行ってみるね!」
やはりすぐに行くのか。
まあ、姉さんだから準備はきちんとするだろうから心配は要らないだろう。
「うん。そうしたら、試練の情報を教えとこうか?」
「う~ん……お願い!」
少し迷ったということは、情報が無い状態で挑んでみたほうが楽しいかもしれないと考えたのだろうか?
「分かったよ」
それから試練の情報を姉さんに伝えて、その日は眠ることにした。
本当は色々考えたいこともあるけど、今日はこの満たされた気分のまま眠りたい。
考えるのは明日でもできるからいいよね?