―――31―――
ログインして早速、西の森へ向かいたいところだが、その前に確認をしておこう。
まず、アイテムなどの確認を行う。
銅の魔法銃とローブは耐久値が少し減っていたが、問題のない範囲だろう。
アクセサリー類は耐久値は減っておらず、ポーション系のアイテムは昨日補充したので問題は無い。
次にイナバとルビーを召喚しておく。
イナバはラビット、ルビーはウルフと昨日と同じメンバーで問題ないだろう。
あとは何かあったかな?
……無いな。
よし、出発だ!
森の中に入ったが、暗闇の壁までの道中はできるだけ戦闘を避けて行く予定だ。
人形はルビーに感知してもらい、どうしても避けられない場合や避けると大幅に遅れる場合のみ倒していく。
ゴーレムは全力で逃げればすぐに範囲外に出られるので問題は無い。
さあ、急ごう!
暫く移動して、暗闇の壁に到着した。
道中はほとんど戦闘も無く、予想より少し早く到着することができた。
さあ、さっそく……いや、その前に休憩をしておこう。
今回は試練があることは決定しているのだ。
ならば万全の状態で挑むべきだろう。
休憩を取り終わり、HPバーとMPバーを見て満タンであることを確認した。
よし、これで準備は万端だ。
それでは、試練に挑もうか!
念の為に銅の魔法銃を左手に握り、暗闇の壁へ触れる。
<試練への資格を満たすものよ、汝は試練への挑戦を望むか?>
その言葉と共に、目の前にウィンドウが開き、"YES"と"NO"を表示している。
勿論"YES"だ!
"YES"を選択した瞬間、目の前の景色が一変した。
目の前からは暗闇の壁が消え、代わりに森が広がっている。
前方以外は西の森とあまり変わりはないようだが、少し違うような気がする。
試練専用のフィールドだろうか?
イナバとルビーを探すと、2人とも傍にいてくれた。
もし従魔は無しで1人で挑戦だったら最初から諦めていたかもしれない。
<第1の試練を開始する。準備はいいか?>
辺りを見回していると、試練開始の確認をする声が聞こえてきた。
第1の試練ということは、2や3が存在するのだろうか?
でも、明らかに次がありますよとヒントをくれるだけありがたい。
これで第1でアイテムを使い切ってはいけないことが分かった。
休憩も十分にとっているので、もう開始してもいいだろう。
「はい、お願いします」
<それでは第1の試練の内容を説明する。第1の試練の内容はこの周辺にいるウッドパペットを全て撃破することだ>
おお、人形さんを倒せばいいのか。
簡単なように聞こえるのだけど、どうせ数が多いのでしょう?
<ウッドパペットは基本的に攻撃を受けるまでは動くことは無い。だが、攻撃を受けて動き始めたウッドパペットは近くの仲間を呼び寄せる。勿論呼びかけられたウッドパペットは動き始める。これで説明を終了する。それでは第1の試練、開始!>
さて、どうするか。
攻撃をするまで動かないのであればじっくり考えても問題は無いだろう。
とりあえず、動き始めたら仲間を呼ぶということは一撃で倒してしまえということだろう。
ただ、今の攻撃力では一撃で倒すどころか、弱点を露出させることもできないだろう。
一撃でなくても動き出す前に倒せればいいとは思うが、どのタイミングで仲間を呼び寄せるかが分からない。
攻撃が当たった瞬間に仲間に呼ぶのかも知れないし、攻撃が当たった後に何かの動作をしてから仲間を呼ぶのかもしれない。
前者であった場合、完全に一撃で倒すしかなくなる。
後者であった場合、イナバとルビーと協力して、連続攻撃で倒せる可能性もある。
一度仲間を呼ばれてもいい覚悟で試してみてもいいのだが、どうしても連鎖的にすべての人形を呼び寄せるとしか思えないのだ。
あそこまで情報を教えてくれた以上、これ位の事はありえそうだ。
確認を行うリスクはかなり高い。
なので、できるだけ完全に一撃で倒す方法を取った方がいいと思う。
そして、方法は一応はあるのだけど……あまりしたくない方法なのだ。
だが、これ以外に方法を思いつけない。
こういう時瞬間火力のない自分が恨めしい。
仕方がない、もし反動で大ダメージを受けるようなら他の方法を考えよう。
ルビーを一旦送還して、ホークで召喚する。
次にイナバを一旦送還して、ウルフで召喚する。
そう、イナバに感知で発見してもらい、ルビーが高速移動からの攻撃で一撃で倒す方法だ。
ただ、この場合はルビーが受ける反動ダメージが分からないのが問題なのだ。
南の森ではルビーが攻撃方法を工夫していて掠らせるように当てていた為、反動ダメージは受けていなかったが今度は掠らせるではなく、直撃しなければならないのだ。
ならば反動ダメージは当然あるだろう。
そう、イナバがゴーレムに体当たりした時のように。
そして、森のホークを倒す際に地面に激突させた時のダメージはかなり大きいものだった。
ならばより速い攻撃できるルビーの場合の反動ダメージもかなり大きいのではないかと思っている。
ゴーレムを押し出す計画をしていた際にもこの方法は思いついていたが、反動ダメージが大きそうだったため後回しにしたのだ。
だが、今はこの方法しかないだろう。
もしこの方法でルビーが反動ダメージで死んでしまうようなら、この試練は確実に失敗だろう。
それよりも、あまり無茶をさせたくない……。
どうしようか……。
そう思い、ルビーを見てみると、ルビーもこちらを見ていて目と目が合った。
その瞳は自信に満ち溢れているように見える。
そして、なぜかルビーは頷いた。
もしかして僕の不安を感じ取って、元気づけてくれているのだろうか?
そうだね。
過保護では意味は無い。
ともに戦う仲間を信じなくてどうするんだ。
それに、考えた中での最善の方法なのだ。
もし失敗したら、イナバと一緒に全力でルビーの仇討ちをしよう!
「イナバ、人形を探してくれ」
決心して、イナバに人形を探してもらう。
イナバはすぐに走り出し、人形の元へと移動した。
人形は伝えられた通り動かずに止まっているが、少し不安もある。
この人形はどこまでを攻撃と判断するのかだ。
もしかすると風で舞った木葉が当たってしまっただけで攻撃と判断されるかもしれない。
そうなるとできるだけ早く倒す必要が出てくるのだ。
また、ルビーに攻撃してもらう際にも近くに他の人形がいた場合は注意が必要になる。
だが確認することはできないのだ。
その為できる限り何も触れさせないように攻撃を行うしかない。
「ルビー、ここを狙って攻撃をお願い」
人形の頭を触れてしまわないように気を付けながら指さし、ルビーに指示を出す。
槍人形の核の位置は頭なので、最初の相手としてはいい方だと思う。
もし頭から攻撃を外してしまっても、下方向以外に外したのならば人形に攻撃は当たらず、攻撃判定にならない可能性が高い。
まあ、あくまで可能性が高いだけで風圧で攻撃判定になってしまう可能性も否定はできないけどね。
ルビーは空高く舞い上がり木々に隠れて見えなくなった。
速度をつけるために空高くへ上がったのだろう。
そして、ルビーの攻撃を確認するために意識を人形へと向ける。
ドンッ!
真横を突風が突き抜ける。
すぐにルビーを探すが見当たらない。
失敗してしまったのだろうか……。
やはり無茶だったのだろうか?
ならば、決めていた通り人形を相手に奮戦しないとね。
そう思っていると、前方からルビーがゆっくりと飛んできた。
「ルビー!」
良かった!
どうやらルビーは成功していたようだ。
だが、その代償としてHPバーが半分程まで減っている。
近くに着地したルビーにすぐに従魔手当てを使用する。
1度では足りない。
2度目を使用してようやくHPバーは満タンに戻った。
やはり反動によるダメージは有ったようだ。
それもかなり大きなダメージだ。
だが、ルビーは生きている。
つまり……。
人形を見てみると、頭の部分が吹き飛んだ状態で地面に倒れている。
勿論HPバーは空になっていた。
「ルビー、ありがとう。少し休憩をしておいてくれ」
こんな無茶なことを成功させてくれたルビーに感謝を伝える。
そして、足に寄って来たルビーの頭をしゃがんで撫でる。
さて、ルビーが休憩している間に倒した人形を確認しておこう。
「イナバ、人形を確認しておきたいから警戒をお願い」
イナバに警戒の指示を出してから、倒れている人形を木にもたれさせて座らせる。
そして、各所を確認していく。
どうやら頭が吹き飛んでいる以外におかしな点は無いようだ。
そうなると、頭はどこに飛んで行ってしまったのだろうか?
流石に消滅させたということは無いはずなのだが……。
そう思い、周囲を見渡すが頭が見当たらない。
もしかして、本当に消滅させたのだろうか?
それとも、ここからでは見えないほど遠くへ飛んで行ってしまったのだろうか?
仮に飛んで行ったとすれば、人形から核が引き離された時点で倒すことができることに……。
いや、飛んでいった先で木や地面にぶつかり、その衝撃で核が壊れたと考えるべきか。
一応人形を見てたのだが、速すぎて何が起こったのか見えなかったのだ。
こういう時動体視力のいい人がうらやましい。
だが、もしも人形本体から引き離し遠くへ飛ばしたのだとしたら、核が体の中央付近にある場合はまずいかもしれない。
核が体の中心にある場合、その部分を引き離すのは当然ながら不可能だろう。
そして、引き離せないとなると衝撃による反動ダメージが今回よりも大きくなってしまう。
今回でさえ半分程も反動ダメージを受けたのだ。
さらに大きなダメージとなると……。
これは対策を考えなければいけないか。
だけど、木葉等が当たり動き出す可能性を考えるとできるだけ早く倒していきたい。
そうなると、頭が弱点の槍人形だけを倒してもらいつつ、ルビーの休憩とMP回復待ちの時間で考えることにしよう。
そうすればできるだけ時間を無駄にせずに考えることができるだろう。
20140916:修正
おかしな表現を一部修正しました。