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仮説が間違っていたのだろうか?
使役者なんて実際はいなくて、ゴーレムは他の理由で行動範囲が限定されているのだろうか?
そうすると、使役者ではなくてもゴーレムの行動範囲を限定している要因はあるはずなのだ。
実際にゴーレムは反対側でも立ち止った。
少なくとも行動範囲は限定されているはずなのだ。
そうなると、ゴーレムは何か物を守っているのだろうか?
だからその物から一定距離以上離れることは無い?
いや、この考えも使役者の考えも結局のところは中心に何かがあるという点については同じで、対象が人か物かの差しかないだろう。
だが、中心を通過したにもかかわらず何も怪しいものは見当たらなかった。
やはり中心に何かがあり、それによってゴーレムの行動範囲が決められているという説は間違っていたのだろうか?
う~ん……もう一度中心を探してみよう。
どうしてもこの説が間違っているとは思えない。
いや、間違っていたらあのゴーレムは普通に倒さなければいけないことになってしまうが、今の火力では倒すことはできないだろう。
もう1つのゴーレムを境界の外へ無理やり押し出す方法はできればやりたくない。
そうなると、今の説が合っていることを信じるほかないのだ。
うん、もう一度今度は方向だけじゃなくて中心の大体の位置も割り出してみよう。
そして、中心付近をじっくりと探してみることにしよう。
そう決めて、再度ゴーレムの境界移動経路の確認を始める。
先程と同じ方法で地面に線を引いた。
問題はここからだ。
どうやって中心までの距離を測るかだけど……何も測る必要は無いよね。
今度は先程とは違う位置から中心を目指す。
ただそれだけでいいのだ。
「イナバ、ルビーもう一度後ろからついて来て」
2人に再度指示をだし、中心へと向けて走り出す。
ゴーレムの腕を潜り抜け、目印を探しつつ全力で走る。
少し走ったところで、待望の目印……ゴーレムの足跡が見えた。
先程中心を通ってきたはずなので、別の方向から再度中心を目指し途中で交わる点があればそこは中心のはずだ。
あとはここの地面に目印を付けて、周囲を探索だ!
いや、念の為に……。
「ルビー、ここで待っていて。ただし、魔物が来たら逃げてほしい。それと僕が呼んだら吠えて場所を知らせてほしい」
ルビーは吠えて了承を示してくれた。
ルビーに中心に残っていてもらい、僕とイナバで周囲を探索する。
もし中心が分からなくなっても、イナバがルビーの位置を感知できるだろう。
念のために、大声でルビーを呼べば吠え返してくれるように指示も出した。
あとは見つけるだけだ!
周囲を見渡すが気になる点は何もない。
イナバとルビーが感知できないので魔物では無く、物である確率が高い。
ならば木だろうか?
そう思い、周辺の木に注意しつつ周囲を一回りする。
だが、何もおかしな点は無かった。
こうなるとすべての木を壊してみるか?
幸いここは木が他の場所よりも少し少ない気がするので不可能ではないだろう。
だが、もうゴーレムはすぐそこだ、ゴーレムの攻撃を避けながらそれができるだろうか?
いや、やるしかないだろう。
その前に木が破壊できるか確認しておこう。
木を魔法銃で撃ち、イナバに体当たりしてもらい、ルビーに引っ掻いてもらったが、どうやら破壊はできるようだ。
ただ、イナバの体当たりは効果が薄いらしいのでゴーレムの注意を引いてもらおうと考えている。
その間に僕とルビーで中心から木を破壊していく。
そして、確認が終わったところでゴーレムは追い付いてきた。
「イナバ、すまないけどゴーレムの相手をお願い。ルビーは周辺の木を破壊していってほしい」
2人に指示を出し、自らも木を破壊する。
魔法銃では一点を集中して攻撃することで木を破壊できる。
問題はMPだが、この際気にしてはいられない。
最初から全力で連射していく。
辺りの木を少し破壊したところでMPが切れてしまった。
だが、まだ物は見つかっていない。
ゴーレムは最初にイナバが体当たりして、そのまま引きつけてくれている。
そのおかげで木の破壊に集中することができていたのだが、MPが切れた今木を破壊することはできない。
ならば今自分にできることは、少しでも違和感がある点を探すことだろう。
この状態で無理に攻撃をしてもゴーレムの注意も向かないだろうし、木の破壊も中途半端になってしまうだろう。
ならば、MPの回復を待ってから攻撃を再開したほうがいい。
そして、回復を待つ時間を使って違和感がある場所を探すべきだろう。
先程は見つけられなかったが、見逃しがあるかもしれない。
また、この少しの時間で変わった点があるかもしれない。
そうと決まれば全力で違和感を探し出そう!
やはり、周辺の木には違和感が見つからない。
MPも少し回復してきたので、木の破壊を再開しようか?
それともイナバに少し休憩してもらう為に、ゴーレムを引きつけたほうがいいだろうか?
そう思い、イナバとゴーレムが戦闘をしている場所を見てみる。
地面はゴーレムの足跡で殆ど窪んでいる。
イナバはまだ余裕そうに見えるが、1度でも回避に失敗したらお終いの状況だ。
精神的に疲れている可能性も否定できない。
AIだから疲れないかもしれないが、このゲームの場合はAIにも精神の疲れがありそうな気がするのだ。
どうしようか……1度休憩して貰った方がいいだろうか?
あれ?
何か違和感がある。
何だ……イナバの動き?
いや、違う。
ゴーレムの動き?
いや、違う。
何か違和感があるのだが、その正体が分からない。
一体何なんだ……。
まず違和感がある場所を大幅に把握しようと思い、一点を集中して見ずに広い範囲を見た瞬間、その正体が分かった。
地面の一部だけが窪んでいないのだ。
周りはイナバとゴーレムの戦闘で窪んでいるが、その一部だけ窪んでいない。
そういえば、地面はプレイヤーの手で変化を加えられるのだったね。
「イナバ、ゴーレムをその場所から引き離して!」
そう指示を出し、自分も少し離れた位置から魔法銃で撃ち始める。
「ルビー、今ゴーレムがいる場所の近くで地面が窪んでいない場所を掘ってみて!」
さらにルビーに地面を掘ってもらうよう指示を出す。
イナバは指示通りにゴーレムを目標の地点から引き離していく。
こちらも他の方向からゴーレムに攻撃を加えて、できるだけルビーに目標が行かないようにしておく。
ルビーは……行動していない!?
もしかして指示が複雑すぎたのかもしれない。
そういえば、ルビーにここまで複雑な指示を出したことは無かった気がする。
そうなると自分で掘ろうか?
いや、流石にイナバ1人に任せるわけには……いや、ここは早く終わらせてしまったほうがいいだろう。
魔法銃で攻撃しているが攻撃目標がイナバから移る気配はないので、イナバの負担は変わらないだろう。
ならば早く終わらせて、イナバを休ませてあげたほうが良いはずだ。
そう思い、攻撃をやめ、急いで目標の位置まで移動する。
「ルビー、ここを一緒に掘ってくれ!」
そう指示を出し、自らは地面を手で掘り始める。
掘っているとすぐにルビーも駆け付けてくれて一緒に掘り始めた。
やはり指示が複雑すぎたのだろうか?
まあ、今はそれは置いておこう。
それよりも早く見つけないと!
あれ、実は魔法銃の方が早いのではないだろうか?
そう思い、魔法銃で地面を撃ってみるが、弾の大きさの細い穴が開くだけで合った。
それに、深さもあまりないようだ。
現状の物を見つけるということならば広範囲を掘ったほうが良いだろう。
ならば手で掘った方が効率がいい。
そう思い、再度手で掘り始める。
50㎝程掘ったところで、何か出てきた。
これは……宝石だろうか?
その付近を掘って宝石らしきものを掘り出してみる。
その正体は半透明な紫色をした水晶玉だった。
すぐに認識を掛けてみる。
<魔物>ゴーレムの核
これだ!
どうやら考えていた説は合っていたようだ。
すぐに核に魔法銃を密着させて連射すると、核のHPバーは減っていくが、ダメージは微々たるものだ。
魔力系の攻撃が効き難いのだろうか?
そう思い、手に持って近くの木へ全力で投げつけたが、ダメージは無い。
そこへ、ルビーが爪で引っ掻くが、これもダメージは無い。
ゴーレムに加えて、核までも硬いのか!
あれだけ攻撃してもHPバーはまだ殆ど残っている。
引っ掻きが効かないと分かったルビーは核に噛みつき、思い切り噛んでいる。
大丈夫だろうか?
核が硬かった場合、ルビーの牙が欠けてしまわないだろうか?
そう思っていたが、どうやら杞憂だったようだ。
核には見事にヒビが入り……割れた!
そして核のHPバーは空になり、同時にイナバと戦っていたゴーレムは倒れ込み動かなくなった。
「イナバ、一旦こちらに来て!」
念の為にイナバをゴーレムから離れさせて、核とゴーレムを観察する。
だが、どうやら再度動き出す様子は無いようだ。
20150404:修正
誤字を修正しました。
20140819:修正
字下げをするように修正しました。