198―ダンジョンB5―
1時間ほど経過し、姉さんが捕まって終わってしまった。
「ふふふ。これでばら撒けまい」
「メールに添付して送れるって知ってるかな?」
……おっと、メールが来ているね。
これは混ざれ、という事かな?
僕が逃げ切れるわけないのに。
いや、2人で逃げ切るのか。
リンカさんがこちらに歩いてくるのを見つつ、メニューからメールを開き、姉さんから届いたメールをそのまま返す。
勿論、添付は無かった。
「ユウ君、すこしメールを見せてくれないかな?」
「ミドリさんやマイさんの可能性はどうかな?」
「この状況を楽しみたいメルが君以外に送るわけがない」
良く知っていらっしゃる。
まあ当然か。
「やった~、返ってきたよ~!」
「君も敵。そうなのだね?」
「やだなリンカさん。味方に決まってるじゃないか」
「メルの味方、だね」
正解です!
すぐに立ち上がり、右に逃げる。
「逃がさないよ」
「元が2つあると大変だね」
メニューは出したままだ。
そうでなければ、ばれる可能性があるからね。
2人とも捕まったよ!
僕を抱えたまま姉さんも捕まえるとは思わなかった。
ステータスポイントを筋力に振っているのだろうか?
「やっと終わったか。ウルフリーダーよりも厳しい戦いだったよ」
やったね!
2人合わせてウルフリーダー越え!
「お疲れ様、リンカさん」
「大変だね、リンカちゃん」
「誰のせいか」
「ところで姉さん、予想を聞いてもいいかな?」
「フウちゃんとアーネちゃんは無理だと思うな~」
「魔力感知を取得できるかどうか、かい?」
あれ、魔力感知だったのか。
完全に確認を忘れていたよ。
先程もすぐにメールの方にいったので確認は出来ていない。
「ユウ君、確認してなかったの?」
「うん」
メニュー画面からステータスを開き、確認する。
◇ステータス
種族:ヒューマン Lv19
名称:ユウ
筋力 :15+3
生命力:15+3
器用さ:16+7(26)
素早さ:15+3
魔力 :18+7(28)
精神力:15+3
知力 :27+10
残 :2
◇メインスキル(3枠)
魔法銃:20+6、魔歌8+3、従魔魔法:22+6
・EX
魔力感知:XX、汎用系特殊魔法:XX、魔力体外放出:XX
・控え
付加術:3、支援魔法:14、歌:XX
◇サブスキル(5枠)
MP強化:20+3、魔力強化:20+3、器用さ強化:20+3、知力強化:20+3、識別:16+3
・控え
鑑定:11
◇所有スキルポイント
17
◇加護
神のギフト・従魔魔法、神のギフト・支援魔法、神のギフト・魔法銃
◇称号
勝利の女神
おお、EXスキルに魔力感知と魔力放出が追加されている。
だけど、レベルXXか……これは予想が外れた。
何か他の理由でレベルXXになるのだろうね。
まあ今は置いておこうか。
「感知と放出が追加されてるね」
「私と一緒だ~!」
「という事は、ユウ君は右を選んだのだね。私は左を選んで魔力体内循環を取得したよ」
魔力体内循環か。
きっと身体能力が上がるのだろうね。
「戦乙女がさらに強く。これは戦女神?」
「……君には話していなかったはずだが?」
「私が話したよ~」
「称号名までは言っていないだろう?」
「まあ、それを命名したのは僕とも言えるからね」
称号の取得条件。
多分だけど、多くのプレイヤーにその名前が定着する事。
あるいは特定条件下で多くのプレイヤーにその名前として認識される事。
その際、姿を見せる必要は無く、それがその名前、と認識すればいいのかな。
例えばその声が勝利の女神である、とね。
そして両方に共通する条件として、特別な名称である事。
なのでリーダーや槍の人、ではダメなんだ。
これは称号では無く、呼び名。
……今考えてみたら名称に込められた何かが足りないのかな?
呼び名、では無く特別な存在として認識される必要があるのかな?
まあ、あまり興味が無いので置いておこう。
「命名……あの声は君だったのか」
「勝利の女神みたいに聞こえた?」
「待て、君もそのまま称号名がついたのかい?」
「そうだよ。まあ僕の場合は自分からそれを狙ってした事だから仕方ないね。それに悪い名称ではないから問題無いよ」
もしかしたら、拒否する感情があれば変わったかもしれないね。
「大丈夫だよ、リンカちゃん。この事に関してユウ君は気にしていないから」
「そうなのかい?」
「うん。心配してくれてありがとう」
「それならばいい。どういたしまして」
リンカさんは相変わらずだね。
自分が辛い状況なのに、こちらを心配する。
本当に、ありがとう。
「それで話を戻すけど、やはりあの2人は無理なの?」
「まず今回は突破できない。相性が悪かった、としか言えないかな」
やはりそうだよね。
そして僕よりも2人を知っている姉さんが言うのだからまず突破できないだろう。
「アオはどうなんだい?」
「余裕、とはいかないけど最終的には突破できると思うよ。まあフウちゃんやアーネちゃんも条件次第では突破できると思うけどね」
そうだろうね。
アオさんは焦っていない。
だからあの悩みは逆に力となる、かな。
「ミドリちゃんも呼ぼうかな~。多分すぐに終わるだろうから」
「それならばマイさんも呼んだらどうだい?」
「ダメだよ、マイさんは突破できない。それに少し問題が発生するから止めておいて」
「そうなのかい? まあそれならば止めておこう」
マイさんが一番不味い。
例え内容を知っていたとしても、あの空間がいけない。
いくら魔力を感知しようとしても、あれが邪魔をする。
そしてログアウトを選択したとしても、その時点で既に影響が出てしまう。
さらにイベント後、少しの間ログインが出来ないのも問題だ。
「ミドリちゃん~。遊びに来ない?」
即断即決。
まあ生産関係にも有利そうだから早めに取得しておくべきだよね。
マイさんは……まあ今回は諦めてもらおう。
そう言えば、30時間か。
あの空間の中ではお腹が空かないのだね。
それにトイレも問題無い。
最大、何日籠っていられるのだろうね。
いや、最大何日出られないのだろうね。
やはりふるいにかけている?
まあそこは気にしても仕方ないか。
「ミドリちゃん来るって。なら待ってる間にご飯を作っとこうかな~」
おお、姉さんの料理か。
これは楽しみだね。
「それでは私は迎えに行ってくるよ」
「お願いね~」
「行ってらっしゃい」
そう言い立ち上がり、出入り口へと向かっていくリンカさん。
まあミドリさんならば1人でも問題無いとは思うけどね。
少し経過し、リンカさんとミドリさんが出入口から入って来た。
そして姉さんの料理も丁度、出来上がった。
流石姉さん、僕にはここまでは上手くは出来ないよ。
「お待たせしました。おや、メルが作ってくれたのですか?」
「そうだよ~。さあ、これを食べて頑張ってきてね!」
「ありがとうございます。それでは頂ますね」
「メル、ありがとう。頂きます」
「頂きます」
お皿に盛ってある野菜炒めを箸で掴み、口へと入れる。
うん、やはり美味しい。
あの調味料と材料だけでここまでの味が出せるのだから、やはり普通に作っても料理が上手い。
「美味しいよ、姉さん」
「相変わらず美味しいな、メルの料理は」
「いつも通り美味しいです」
「好評なようで嬉しいな~」
「それでは取得してきます。私は無理に待っていなくても構いませんからね」
「いつまでも待ってるね、ミドリちゃん」
「……それではメルだけは10日ほどお願いできますか?」
「冗談だよ、まあミドリちゃんならすぐ終わるから気楽にね~」
「ありがとうございます。それでは行ってきます」
「ああ、頑張ってきてくれ」
「行ってらっしゃい、ミドリさん」
さて、この後はどうしようかな。
ログレスと模擬戦でもして遊んでいようかな?
「ログレス、軽く素手で戦ってみない? 体勢を崩した方が負けで」
そうログレスに問いかけると、ログレスは少し悩む様子を見せた後頷いてくれた。
「それじゃあ私はイナバちゃんを撫でておくね~」
「それでは私はルビーちゃんを撫でさせてもらおう。それに君とログレス君の戦闘を見るのも楽しみだ」
「おっと、これは緊張するな。ログレス、頑張ろうね」
そう言いログレスと握手を交わす。
そして少しだけ離れた。
「それではこの位置から始めようか」
その言葉にうなずくログレス。
さてさて。
僕に有利な条件で申し訳ないけど、少し特訓しようか。