197―ダンジョンB4―
申し訳ありません、感想におきまして私の勘違いで長い間放置状態になっていた感想がありました。
現在は返信を行いましたが、折角ご指摘いただいたのに長い間放置状態にしてしまい申し訳ありませんでした。
正座。
そしてただただその空間を感じる。
それを実行して一体どれほどの時間が経過しただろうか。
周囲にうっすらとだが、何かを感じられる。
……これは適性、決まったかもしれないな。
まあ続けよう。
この空間には数多のそれが存在していた。
数多、は違うか。
まるで空気中の酸素の様に、一定量が空間中を漂っている感覚だ。
近くのそれは僕の体に吸い込まれるように溶け込んでいく。
勿論全てでは無い。
一部、だ。
そして左前方の一部、その場所だけが異様にそれが濃い。
さて、どうしようか。
もう少し続けたいが、皆をあまり待たせるわけにはいかない。
体内に感じるこの感覚、多分こちらもそうなのだろうが、外と比べてあまりにも感じられない。
これがあったからこそ、僕の適性が決まったような気がしたのだ。
いや、最初からこちらの適性になる事は分かっていた。
なので出来れば、体内のこれも強く感じられるようになりたい。
だが、どれ程の時間が掛かるかわからない。
それに別の何かが決定的に足りていない気がする。
なので今回は諦めよう。
目を開け、立ち上がって歩き出す。
目指す先は先程異様に濃く感じたあの場所。
それは一定時間が経過するごとに場所を移動している。
これは感じられなければ見つからないだろう。
そして運よく見つけたとしても、一定時間触る必要があるのだろうね。
そうでなければ新たな力を得る前に出られてしまう事になる。
目的の場所へと到着した。
目の前には異様に濃いそれが存在している。
その場所へ手をのばし、触れる。
さらに動き始めたそれを追いかけ、触れ続ける。
結構な時間触れ続けていると、それが突然消滅した。
そして景色が一転する。
目の前には最初のダンジョンで見た試練の間。
しかし、そこに存在するのは2つの台座と2つの黒い宝玉。
<冒険者よ、よくぞ修練を経て力を得ました。ですがその力は初歩。そこで私から、次への道しるべを授けましょう>
道しるべ。
多分あの宝玉の事かな?
そして得られるのは新たなスキルか技能?
<左の宝玉は内へ、右の宝玉は外へ導きます。さあ、貴方はどちらを選びますか?>
迷う事無く、右の宝玉へと足を進める。
今の僕はきっと、こちらに適正があるのだから。
その宝玉へと右手を伸ばし、触れる。
すると宝玉が黒色と白色の光を同時に放ちながら輝いている。
それと同時に、僕の手からそれが宝玉へと注ぎ込まれているのが分かる。
そうか、これが道しるべか。
手を少し宝玉から離すと、光は治まった。
そして先程と同じ感覚で、宝玉から少し離れた位置から宝玉へそれを注ぎ込む。
すると宝玉は先程と同様に紫色と白色の光を同時に放ちながら輝き始めた。
確認は出来たので注ぎ込むのを止めると、光は治まる。
……光の色が気になるな。
あの色は黒白と言うよりも、暗いだけと明るいだけ。
そこに色は無い。
そんな感じがする。
<冒険者よ、道しるべを理解できたようですね>
「はい。ありがとうございます」
<それでは元の場所へ。冒険者に幸あれ>
その言葉を聞き終えた瞬間、景色が変わった。
目の前には大きな魔方陣が見える。
周囲を見渡すと、どうやら姉さんとリンカさんは既にクリアしていたらしく、部屋の隅でじゃんけんをしている。
勝率は五分か姉さんが6割ではないだろうか?
まあそれはいい。
「お、ユウ君、お帰り~」
「お疲れ様」
2人ともこちらを向き、さらに姉さんはこちらに向かって手を振り始めた。
「ただいま。そして2人ともお疲れ様」
僕も手を振る事でそれに応える。
メニューを開いて時計を見てみると、どうやら30時間ほど経過していたらしい。
これはかなり待たせてしまったかもしれない。
「2人とも、待たせてしまったごめんね」
「いや、問題無いよ。それに私も待たせてしまっていたからね」
「私が一番! いえ~い!」
姉さんが一番なのは分かっていた。
いや、そもそも修練の間に入ったかすら怪しい。
まあ聞く必要は無いので聞かないが。
「ユウ君、どんな光だった?」
「暗い光と明るい光だよ。姉さん達は?」
「私は紫色の光だったよ」
「私はいろいろな光だったよ~」
リンカさんが紫色で、姉さんが多色か。
うん、どう考えても得意魔法に関係しそうだよね。
もしかして、使っていたスキルが関係しているのかな?
「ちなみに勝率は?」
「6対4で私の勝ちだよ。やったね!」
「何故見てから出しているのに負けるんだろうね」
それはそこまで読まれているからだよ。
まあ姉さん相手に勝率4割まで持っていけている時点で凄いと思う。
「ユウ君、もしかして君も強いのかい?」
「やってみれば分かるよ、リンカちゃん」
「それでは勝負といこうか。10回勝負で頼むよ」
「受けてたつよ。ちなみに僕が勝ったら可愛い声でEXスキルを取得した時の語尾を聞かせてもらえるの?」
「……どこからその話になったんだい?」
「僕も同条件でいくから、どうかな?」
「……こちらから挑んだのだから、受けてたとう」
やったよ!
録画機能か、録音機能が無いのが惜しい!
「あ、その前に従魔達を召喚させてほしいな」
「構わないよ」
「ありがとう」
イナバを幸運の白兎、ルビーをウルフ、ログレスをパペットで召喚する。
いくらこの場所が安全に見えて、姉さんとリンカさんがいるとは言っても安全地帯ではないのでキャラピラーは流石に止めておいた。
キャタピラーは夜だけでいい。
それに北の森のキャタピラーを見る限り、夜から朝にかけてキャラピラーからバタフライになる可能性が高そうだからね。
「……くっ。100連敗……」
「ちなみに私はユウ君相手に勝率1割を切るからね。私と五分のリンカちゃんが勝つのは難しいと思うよ?」
姉さんがこの提案をした時点で、何か期待していたのは知っていた。
ならば楽しい事を、だ。
「リンカちゃん、10回なの? 10回言っちゃうの?」
「勝負は勝負。10回言おうじゃないか」
「1回でいいよ。その1回に全力を込めてくれればね」
「ユウ君、実は性格が悪くないかな?」
「やだな~、リンカちゃん。ユウ君はいい性格をしてるよ?」
「……確かにいい性格、だな」
そんな褒めないでほしい。
「それではいくぞ」
「ごくり」
「ごくり」
「訂正するよ。姉弟そろっていい性格をしてるな」
「もう、褒めないでよ~」
「……それではいくぞ」
律儀に開始の合図をしてくれるあたり、真面目だよね。
僕も姉さんも、別に見逃してしまっても文句は言わないのだけどね。
まあ見逃す可能性はとても低いけど。
「にゃ、にゃん」
「SS取ったぞ~! やった~!」
「な!」
流石姉さん。
全力で楽しんでいる。
逃げる姉さんを追うリンカさん。
直線だけならばリンカさんの方が早いのだが、姉さんが移動経路を考え、さらに直前で巧みに避けているので捕まらない。
壁の近くに座り、イナバとルビーを撫でながらその光景を見守る。
どうせ最終的には姉さんが捕まり、SSを消すのだろう。
結果が決まっている追いかけっこ。
本当に楽しそうで、羨ましい。
本当に。