194―ダンジョンB1―
「ユウ君、ユウ君」
集合場所に移動したところ既に姉さんとリンカさんが待っており、姉さんがにこやかに話しかけてきた。
「分かってるよ」
メニューから装備を変更し、巫女服を着る。
「これでいい?」
「ありがとう~。やっぱりバーチャル世界は最高だね!」
そう言い姉さんは僕に抱き付いてきた。
これは仮想世界だからこそのお願いなのだろう。
現実では家以外で着てとは言われないからね。
それに趣味が少し混ざっているとはいえ、この装備は必要になる可能性があるのだろう……多分。
まあ、趣味が100パーセントの可能性も否定は出来ないけどね!
そしてこの状態で何も言わないリンカさんは、やはり姉さんをよく理解している。
たった数年でここまで仲良くなれるとは、流石と言うべきかな。
さて、フウさん達が来る前にあの事を掲示板に書き込んでおこう。
「姉さん、少し掲示板に書き込みたい事があるから動くね」
「ん? 何か面白い事?」
そう言い抱き付いたまま後ろに回る姉さん。
まあ、面白くは無いね。
「面白くない事。でも、フウさんには読んでもらった方がいいかな」
「そうなると従魔魔法関係かな。成長の失敗?」
「大体そんな感じかな」
メニューから掲示板を開き、従魔スレを作成して予め考えておいた文章の入力を開始する。
それにしても、同じイベントエリア限定の掲示板しか使用できないのか。
まあイベントエリアを超えてフレンドチャットが出来ないのだから当然か。
そうでなければフレンドチャット代わりに使用できてしまうからね。
「それは確かにフウちゃんは読むべきだね。詳細も教えてくれるの?」
「姉さん達になら教えるよ」
「ありがとう」
書き込みが終わり少し経過したところでフウさんとアーネさんが、さらにそれから少し経過したところでアオさんが到着した。
「皆集まったね。それでは出発しよう!」
「ああ」
「分かりました」
「出発~!」
「うん」
「うん」
そう言えば場所はどこなのだろうか?
まあ姉さんの事だから知っているか、見当がついているのだろう。
なので僕はついていけばいい。
村から出たところでイナバを幸運の白兎、ルビーをアクセラレーションホーク・ウィンド、ログレスをパペットで召喚する。
「おお、綺麗な白い鷹だね。ほら~、こっちにおいで~」
姉さんのその言葉に、ルビーは姉さんの前に移動した。
そして姉さんに頭を撫でられて気持ちよさそうに目を細めている。
「イナバちゃん、こっち」
その言葉にイナバがアオさんの目の前に移動し、腕の中に抱き込まれた。
でも大丈夫、僕にはログレスがいる!
「ラッキーラビットかと思っていたのですが、幸運の白兎なんですね。ラビットの成長先ですか?」
やはりフウさんは気になるよね。
病院で出会った時に従魔魔法に興味を持っていたので、取得している可能性は高い。
まあ姉さん達と行動する機会が多いはずなので使用機会は少ないとは思うけどね。
「幸運の白兎は進化先。成長先はラッキーラビットだったよ」
「アクセラレーションホーク・ウィンドよりも後ですよね? それに成長のあととなると、進化はかなり先になりそうですね」
「フウさんは取得したの?」
「ソロの時ように取得しましたが、まだスキルレベル10もありません。確かアクセラレーションホーク・ウィンドの成長時でスキルレベルは17プラス3でしたよね?」
10か。
マイさんがそれくらいだと思うけど、成長していないみたいだったからそれ以下では難しいだろうね。
「そうだよ。進化時は……19か20だったと思う」
「……私に教えてよかったのですか? アクセラレーションホーク・ウィンドの事も含めて掲示板にも書かれていない貴重な情報ですよ?」
「自分で進化を確認するかどこかで情報が出始めるまでは内緒にしておいてもらえれば問題無いよ。皆も出来ればお願い」
一応、僕が発見をした事は隠しておきたいからね。
まあそれだけでは無いのだけど。
「うん」
「分かったよ~」
「それは承知しているよ」
「分かりました」
「ありがとう。ああ、そうだ。フウさんにはこのイベントエリアの掲示板で従魔スレを見ておいてほしいな。まだ大丈夫だとは思うけど、一応ね」
「従魔スレですか? 分かりました」
「こんな事があったのですね。注意しておきます」
「ちなみに成長以外で起こった事だよ」
「進化、ですね。それでも、成長で起こらないとは限りませんよね」
うん、僕もそう考えている。
それに成長と進化、どちらを実行しているかは完了するまで分からないからね。
常にその可能性は考えておいてほしい。
「まあ成長も進化も完了するまでは見分けがつかないからね。どちらだとしても気をつけておいた方がいいと思う」
「そうですよね、気をつけておきます」
ルビーが姉さんから解放され、村とは反対側へ向かって出発した。
イナバはアオさんの腕の中だけどね。
「……ユウ君、気になっていたのだけど、その服装は趣味?」
隣を歩いていたアオさんはそう言い、首をかしげている。
まあ趣味と言えば趣味なのだろう。
姉さんの、だけどね。
「ある人からの贈り物だよ」
「似合ってる。問題無い」
どうやら似合っているようだ。
「それは良かった」
「わ、私はユウ君がどんな趣味でも気にしませんよ?」
「私も似合ってるから問題無いと思うよ?」
これは知らない人が見れば女の子6人パーティに見えてしまうだろう。
まあマイさんならば初見でも気づくかもしれないけどね。