184―ダンジョン-24―
少し休憩を取った後、皆を手招きする。
皆が近づいてきたのを確認し、地面へ"休憩を終えて探索を開始していい?"と書いた。
皆が頷いてくれたのを確認し、次に"イナバ、お願い"と書くと、イナバはこちらを向いて頷き、移動を開始した。
すぐに立ち上がり、イナバのあとについていく。
イナバやログレスが感知した動くウッドパペットを倒しつつ、イナバの案内で薬草を採取して回っている。
そして十数ヶ所目の採取後。
マイさんが今回採取した薬草を全てをマジックポーチにしまい、こちらに手招きをしている。
そこで近づいてみたところ、マイさんはしゃがんで地面へと文字を書き始めた。
その文字は"100個集まったから祭壇へ奉納しに行こう"だ。
それを読み終えて、マイさんの方を向き頷く。
そしてイナバへと手招きし、地面へと"イナバ、無事集まったみたいだ。ありがとう"と書いた。
書き終えてイナバの方を見てみると、イナバは嬉しそうに目を細めていた。
さて、薬草集めの途中で祭壇は発見しているので集まった今、あとは奉納するだけだ。
<冒険者達よ、ありがとうございます。これであの魔物がいる場所への道を開くことができます>
どうやら回復草以外は混ざっていなかったようだ。
そして開くことができる、か。
<そしてその道ですが祭壇の前に魔方陣を用意します。その魔方陣に乗ると魔物がいる場所へと転送されますので、準備が完了しましたら上にお乗りください。どうか、よろしくお願いします>
その言葉を聞き終えると、祭壇の前の地面に草原エリアと同じ様な魔方陣が現れた。
さて、西の試練と同じだとするとゴーレム2型が相手なのだろうけど、草原エリアでは3体同時に出現している。
こちらも同時に出現するか、それ以上の何かが出現すると考えておこう。
マイさんの方を見てみると、マイさんが槍を持たない左手を差し出してきたのでその手を握った。
そして自然に握り返された。
うん、大丈夫だね。
マイさんに手を引かれ、魔方陣の上に乗る。
<冒険者達に一度限りの祝福を>
視界が変わる直前、そんな声が頭の中に響いた。
視界が変わると、目の前にゴーレムが見えた。
すぐに手を離して後ろに飛ぶが、ゴーレムは動かない。
すぐに周囲を見渡す。
周囲には膝丈ほどの草が生い茂っており、少し先に見える森までそれは続いているようだ。
そこにゴーレム以外の魔物は見えない。
マイさんは僕と同様に後ろの飛んだのが確認できていたのですぐ傍にいる事は知っていたが、すぐ近くにイナバ、ルビー、ログレス、タマも確認できた。
改めてゴーレムを見るが、まだ動く気配無いので、ここも西の試練と同じ可能性が高い。
まずは識別をしておこう。
<魔物>メタルゴーレム Lv20
状態:通常
レベル20とは強いね。
ただ、1体か。
これならば問題無く倒せるだろう。
次に気になる事を確認しておこう。
視界が変わる直前に聞こえたあの言葉、以前に聞いた時は1度だけ以前のメニューを使用できるようになった。
ならば今回もこちらに有利な何かが発生している可能性は高い。
そして予想通りならば声を出すことができる。
ただ、問題はその回数、あるいは時間。
それならばどちらであっても良いように魔歌を使用するべきか。
さて、これを地面に書いて伝えるべきかとも思うが、あのゴーレムが動き出さないとは限らない。
そして森からはウッドパペットが近づいてきている可能性が高い。
ならばいきなり使用してしまおう。
まずマイさんの方を向いて、人差し指を自分の唇に当てた。
マイさんは首をかしげているので伝わってはいないだろう。
まあ少しでも可能性を高める為の行動なので、今伝わっていなくても問題無い。
次に皆を見渡してからゴーレムを指さす。
さらに皆を再度見渡して、全員が頷いたのを確認した。
そしてルビーが空へ飛び立った後、技能を発動する為にその名を声に出す。
「射止め歌」
どうやら大丈夫だったようだ。
マイさんがこれに驚いて声を上げる可能性を考えて、先程静かにとジェスチャーで伝えたのだがマイさんならば元から声を上げなかった可能性の方が高い。
「~~~~~~」
口から歌詞の無い歌が紡がれる。
ゴーレムに効果があるかは分からないが、効果を発揮すれば絶好の攻撃チャンスとなる。
目の前では4人がゴーレムへ向けて進み、空からルビーがゴーレムへと急接近している。
そしてゴーレムはその足を上げ、こちらへ向けて動き出した。
「~~~」
ルビーの風切羽がゴーレムを切り裂き、HPバーを少し減らす。
さらにログレスのランスがゴーレムへと突き出された瞬間、ゴーレムがこちらへと倒れてきた。
それを見て地上の4人はすぐに後ろへと飛び、倒れ込みを回避した。
そして初めての行動に、ルビーも含めた全員が攻撃を止め、その様子を観察しているように見える。
「~~~~~」
数秒ほど経過したがゴーレムは動く様子が無い。
そこでルビーが急降下し、風切羽による攻撃を開始した。
それを境に地上の4人も攻撃を開始する。
「~~~~~~~」
少し経過し、ゴーレムのHPが4割を切ったところでゴーレムが立ち上がり始めた。
しかし、完全に起き上がって右手を後ろに引いたところで再度こちらに向けて倒れてきた。
……もしかして、ゴーレム2型は魔歌に対する耐性がとても低い?
まあそれは後で検証しよう。
2度倒れたゴーレムが再度立ち上がる事は無かった。
HPバーが無くなったゴーレムにマイさんが剥ぎ取りナイフを突き刺し、体が消えて出現した核をログレスが上空へ放り投げ、それをルビーが風切羽で破壊した。
そうだよね、ランスも槍も体当たりも核の破壊には向いていないよね。
それならば一撃で壊せなかった場合に少し遠くへ吹き飛ぶ可能性を考慮しても、ルビーの攻撃で破壊したほうがいいだろう。
<冒険者達よ、ありがとうございます。おかげで力が戻り、このエリアを元に戻す事が出来ました>
どうやらボスはこのゴーレムだけで終わりらしい。
<エリアが元に戻った事で今後このエリアでは声を出すことができます。そして森には以前の様に強力な魔物も出現するでしょう>
これはウッドゴーレムかな?
<さらに先程移動に使用した魔方陣から、強力な魔物に挑戦する事ができます>
これはもしかして、西の神殿と同じく、複数の種類のゴーレムに挑戦できるのかな?
そうなるとダンジョンクリア後に再度このエリアに来られたならば、魔物カード作成まで挑戦しよう。
<そしてその魔方陣のすぐ近くに元の場所とその場所を行き来できる魔方陣を設置し、魔方陣周辺に魔物が近寄らない様にしました>
これは移動の時間が省けるので嬉しいな。
<それでは魔方陣の場所へとお送りします>
その言葉が終わった瞬間、景色が変わった。
目の前には祭壇、そして魔方陣が見える。
周囲を見渡すと、すぐ近くの地面に先程乗った魔方陣とは別の魔方陣が確認できた。
あれが安全地帯と行き来できる魔方陣だろう。
<これで安心してこの地から去る事が出来ます。本当にありがとうございました。冒険者達に祝福あれ>
「ユウ、とりあえずあの魔方陣に乗ってみるかい?」
そう言いマイさんは先程乗ったのとは別の魔方陣を示した。
まああれに乗るしかないよね。
「そうしよう」