179―ダンジョン-19―
神殿へと戻る頃には空は綺麗な夕焼けであった。
さて、今日の探索はここまでにしよう。
残りは1個なので明日中に見つかるといいな。
神殿へと入り、灰色の宝玉の横にオレンジ色の宝玉を設置する。
すると灰色の宝玉はオレンジ色の宝玉の光を受け、柔らかな黄色の光を反射している。
これはまるで……。
「凄いね。まるで太陽と月の様だ」
そう、僕もそう思ったよ。
「もう寂しそうには見えないね」
「そうだね、ユウ」
良かったよ。
寂しいのは辛いからね。
それにしても、これはオレンジ色の宝玉を持った状態で移動すれば灰色の宝玉がその光りを反射して簡単に見つけられるという事だろう。
そしてオレンジ色の宝玉の位置から神殿まで直線に戻ると丁度灰色の宝玉の上を通るはずだ。
まあそこで逃すと灰色の宝玉の発見は難しくなると思うけどね。
夜とは言ってもこの部屋の中は何故か明るいので問題無く夜ご飯を食べる事が出来た。
そして明日は日が昇る頃には探索再開の予定なので早く寝る事に。
さて、ここで登場するのは万能寝袋!
地面へと置き、そっと中へと入る。
その温かさ、柔らかさは非常に心地よく、流石どこでも快適に眠れそうな良い寝袋だけはある。
……あの部屋の布団よりも心地いい気がするのは気のせいだろうか。
まあいい、寝てしまおう。
横を見ると、少しは慣れた位置でマイさんが寝袋に入っているのが見えた。
マイさんは隣でいいと言っていたのだけど、流石に女の子と同室、さらに近くで寝るのはダメな気がすると説得したところ、渋々了解してくれた。
まあ、マイさんは今の僕を異性とは見ていないのでこうなるとは思っていた。
だからこそ僕の方が気を付ければいい。
理由次第では近くで寝る必要もあるのだけど、それは起こらない事を願うよ。
それではおやすみ~。
「うぅ……なんで……」
……。
「皆、なんで……」
……その悲しい声を聞いてしまった以上、放置は出来ない。
「私達は……」
立ち上がり、静かにマイさんの傍へ移動する。
「私は誰を……」
そして虚空へのばされたその手を握る。
「大丈夫、ここにいるから」
言葉はそれだけでいい。
それだけ、伝わる。
「~~~~~」
さあ、ゆっくりとおやすみ。
おっと、そろそろマイさんが起きるな。
マイさんの手をそっと寝袋の中に戻し、自分の寝袋へ戻る。
そして狸寝入りを開始する。
さあ、マイさんが起きて少し経過するまで寝ていようか。
「ふわ~。いい夢が見れたね。これもユウと寝ているおかげかな?」
そうとも言えます。
「おっと、ユウはまだ寝ているね。静かに行動しよう」
まあこの程度の声量ならば多くの人は起きないだろう。
おっと、こちらに近づいてきているね。
「あの時はユウに寝顔を見られたけど、今回は私が見えるね」
狸寝入り顔で良ければどうぞどうぞ。
「普段と違って、寝ている時の表情も可愛いな~」
大体同じ表情に見えるはずなんだけどな。
まあその辺は流石と言うべきか。
ただ、これは起きているか確認しているだけだね。
「……起きていないね。これで安心して寝顔を堪能できる」
大丈夫、僕の狸寝入りは半分寝ているから。
だからこそばれない。
「……君は何故、私の過去が分かったんだろうね」
あ、本格的に起きるタイミングを失ったよ!
「もしかして、私と同じなのかな? ……なんて、こんな事聞けないよね」
誰かが僕の頭を撫で始めた。
それ、結構起きるものですよ?
「そうだ、膝枕をしよう。あの時は途中だったからね。けっしてお返しでは無い。けっしてユウの驚く顔が見たい訳では無い」
何が凄いって、ここまで全てとても小さな声量で話している点だ。
それも意識を通り抜けるような声で。
これは無意識なんだろうね。
「いや、起きる可能性を考えると止めるべきかな……」
頭を動かすと流石に起きますよ?
「ハイリスク、ハイリターンか。望むところだね」
……まあお相子だからね。
頭がゆっくりと少しだけ持ち上げられ、数秒後に下ろされた。
……ゴメンね、万能寝袋の方が感触が良いと思う。
この寝袋凄いよ!
数十分経過したのでそろそろ起きようと思い、ゆっくりと目を開けるとマイさんの顔が出迎えてくれた。
その表情は穏やかなものだ。
しかし、すぐに悪戯を成功させた子供の様な表情へと変わった。
まあこちらも嫌いでは無い。
「おはよう、マイさん。そして素敵な笑顔でお出迎えありがとう」
「……もしかして君はこの状況に慣れているのかな?」
そう言うマイさんの表情は少し不満げだ。
まあ状況が分かっていたのだから当然驚きはしないよ。
「どうなのかな。まあ残念ながら驚きはしないね」
「はぁ……。おはよう、ユウ」
ハイリスク、ローリターンでしたね。
さあ、朝ご飯を食べよう。
朝食後、外に出てみると既に日が昇っていた。
そう言えばゲーム内に季節はあるのだろうか?
まあその内判明するかな。
「もう日が出てるね。出発する?」
「うん、出発しようか」
今日は昨日行けなかった場所からだ。
海の奥と砂浜の先にエリア境界があるのは確認しているので、残りの場所に無かったら他の方法を試していくしかないかな。
さあ、頑張ろう。
神殿前の海を全て探索したが、残りの1個は見つからなかった。
そうなるとあちらか。
まあ最初から可能性は示されていたからね。
「マイさん、森の奥に行こう」
「……ああ、そうか。ここは島なのか」
そう、森の奥に海が無いとは限らない。
そして神殿の声は目の前の海では無く、海としか言っていなかった。
ならば目の前の海以外に海があり、そこに宝玉が存在する可能性がある。
森を抜けたその先は砂浜があり、その先はやはり海であった。
だが、こちらは森に囲まれた小さな海、入江だ。
そして残りの宝玉を探す必要は無かった。
視線の先、入江の中央には赤い宝玉が浮いているのだ。
海面からの高さも低く、本当に少し浮いているだけ。
あれならば海面から取る事が出来るだろう。
赤い宝玉の近くまで移動し、その宝玉へと手をのばす。
しかし、その手が届くことは無かった。
少し確認してみたが、どうやらこの宝玉は見えない結界に包まれている様だ。
まるでこちらを拒む様に。
「ユウ、どうする?」
「う~ん……」
可能性として考えられるのは時間、アイテム、特定の魔物の撃破、特定の場所でのイベント。
時間はまあ夜までここにいて確かめればいい。
次にアイテムだけど、まずは宝玉から試そうか。
そして特定の魔物の撃破だけど、これは宝玉が失敗してからこの周囲を探そう。
最後に特定の場所でのイベントだけど、これも宝玉が失敗してから魔物と同時に探せばいい。
そうなると、僕としてはまず6個の宝玉を持ってくるべきだと思う。
「マイさんはどう思う?」
「私は残り6個の宝玉をここに持ってくるべきだと思う。オレンジと灰色の宝玉の事もあるからね。それが失敗したら周囲に怪しい点が無いか探したいかな」
「僕もその意見に賛成だよ。とりあえず宝玉を持ってこようか」
「うん」