176―ダンジョン-16―
6時間が経過しようとした頃、突然ログレスの核が光り輝いた。
その光は黒く、不思議と力を感じさせる光であった。
そしてその光はすぐに治まり、中から出てきたのは漆黒の玉。
引き込まれそうな程の黒。
それは鎧騎士の時とほぼ同様の変化。
これは成功と見ていいかな。
そう思っていたところに突然、漆黒の玉が紫色の光を纏った。
そしてその光は強くなり、近くに置いてあった金属の塊を纏う。
……成功とは言い切れないか。
金属は紫の輝きに包まれ、紫色の玉の周りへと移動し、次第に鎧を形作っていく。
その形は今日敗北したあの姿。
輝きが消えたそこには――光沢のある紫色をした未武装で細身の戦闘用ロボットが存在していた。
「ログレス、調子はどう?」
ログレスは動かない。
「……ログレス、大丈夫?」
ログレスは動かない。
これは失敗の可能性が高い。
そして動かないだけであればまだ良い。
「ログレス、動けるのならば頷いてほしい」
その言葉に、ログレスは、いや、紫騎士は体当たりで答えた。
咄嗟に左後ろへと飛ぶ。
「送還、ログレス」
その速度は黒騎士程ではないが突然、目の前から体当たりされては避けられない程には速い。
だが、向うもまだ動きに慣れていないようで相手の腕がこちらに掠る程度で済んだが、それでも吹き飛んでしまい、口から紡がれていた詠唱は中断された。
これは不味いかもしれない。
僕では無く、ログレスが。
「送還、ログレス」
再度音声で送還を実行する。
そしてすぐに体勢を整えて立ち上がり周囲を見渡したところ、紫騎士は神殿の柱にぶつかったようで止まっていた。
<従魔>??? Lv???
種族:魔装ゴーレム初期型
召喚主:ユウ
状態:???
識別で何か分かればと思ったが、これではね。
まあ識別が出来ただけでも良かった。
これで異常な事は理解できたから。
詠唱が終わり、視界に映る紫騎士が消えたのを確認して次の行動へ移る。
「従魔の書」
すぐに現れた従魔の書の中を確認する。
ゴーレムがあった位置には紫色のカード。
それをすぐに取り外そうとしたが、目の前でカードが黒に染まる。
それでも取り外すことを続けつつ、周囲を見渡すと紫騎士が眼前に召喚されていた。
そしてカードは固定されているようで取り外すことは出来ない。
こちらは諦めよう。
「ログレス」
紫騎士の右手には鎧騎士の時に使っていた剣が握られている。
どうやら鎧騎士を合成に使用したらしい。
その剣が振り上げられる。
それを見た瞬間、左に飛んで避ける。
着地したところで紫騎士の剣は目の前を通過し、地面すれすれのところでこちらに切り上げられた。
それをしゃがむことで回避しようとするが頭に痛みが走る。
「ログレス」
HPバーを気にしている暇は無い。
幸い体勢は崩さなかったのですぐに左側、紫騎士の右後ろ側に飛ぶ。
剣を戻した紫騎士はこちらを振り返った。
それに合わせて右へと飛び、紫騎士の左側へと移動する。
やはりログレスの動きでは無い。
ログレスならば剣を投げていたところだ。
そうなると狂気状態だろうか?
ならば鎮静を試そう。
「~~~~~~」
紫騎士がこちらを振り向きのに合わせ、1歩踏み込む。
「~~~~~」
そして左前方へと飛ぶ。
これで何とか紫騎士の右後ろに移動できた。
だがこの方法もすぐに対策を取られるだろう。
出来てあと1回か。
「~~~~~~~~~~~~」
やはりログレスでは無い。
そして紫騎士は動きを変えない。
これはログレスの感情による狂気状態では無く、操られている感じに近いのか?
まあこれで他の歌は効き目が無い事が分かった。
僕の歌の弱点、ベースが分からなければ効果を発揮しない。
今目の前にいるのはログレスであり、ログレスでは無い。
再度1歩踏み出す。
そして振り向きに合わせ、左前方へと飛ぶ。
紫騎士は先程と同じ方向を予想していたようで左手を振り回していたのが少し見えた。
これで何とか、紫騎士の右後方へと移動して時間を作れた。
もうこの手段は使えないな。
まあこれで今の僕が実行できる手段は2つと判明した。
1つは紫騎士を倒す方法。
だが、実行は可能であっても達成は無理だろう。
例えイナバ、ルビー、マイさん、ミーがいたら防御力しだいでは倒せるだろうが、違う。
これは僕1人で解決したい。
召喚者として。
だからこそ、もう1つの手段を使う。
……少し悔しいな。
考えられる可能性を全て試してあげられないのは。
「送還、ログレス」
歌を止め、送還を開始する。
もう1度、送還しなければいけない。
振り向いた紫騎士に向かって飛び、ギリギリて前で着地する。
これで剣は使えない。
着地してすぐに右側へと飛ぶと同時に紫騎士は直前までいた場所を通り過ぎて行った。
そして詠唱が完了し、視界から紫騎士が消えた。
「従魔の書」
現れた従魔の書を開く事無く、1つ唱える。
「解放、魔装ゴーレム初期型」
今の僕に出来る事はこれしかなかった。
2つ目の手段は識別で知る事が出来たカード名を使って、魔物カードを解放する事。
これをすれば魔物カードは消滅する。
それが失敗であったとしても、ログレスが頑張った結果が消滅する。
倒せば成功へと導けたかもしれないのに。
周囲を見渡しても黒騎士は出現しない。
そして従魔の書を開き、魔装ゴーレム初期型があった位置を見てるとそこには何もなかった。
解放したので当然だ。
「召喚、ログレス、パペット」
目の前にパペットでログレスが召喚された。
手に握られていた槍は地面へと落ち、ログレスは彼方の空を見上げて動かない。
「ログレス、僕は君の努力を消してしまった」
ログレスに動きは無い。
「僕がついているから安心して、そう言ったのに僕は君に、思いつく限りの可能性すら与えられなかった」
ログレスは顔をこちらに向けた。
僕は従魔使いとして、従魔に多くの可能性を与えたかった。
でも、それは叶わなかった。
「済まない」
ログレスに向けて、深く頭を下げた。
しかし、すぐ肩を握られた感触がした。
ゆっくりと顔を上げると、僕に手を伸ばしているログレスが視界に映った。
ログレスは顔を横に振っている。
まるで僕に、そうではないと言うように。
ログレスは手を僕の肩から離し、一歩下がった。
そして僕に右手を差し出す。
これは……そうだよね。
君はともに戦う対等な仲間。
言葉を間違えたのは僕だったようだ。
差し出されたログレスの手を握り、言葉を放つ。
「ログレス、過ぎたる力は毒だ。克服できなければ体を蝕むだけ。それでも、勝つ為に危険な賭けを実行してくれた事は嬉しいよ。ありがとう。次はお互い勝とう」
これで良い。
これでログレスには伝わるはずだ。
ログレスは握った手を離し、槍を拾った。
そしてそれを天へと掲げる。
どうやら心配せずとも伝わったようだ。
ログレスはともに戦う仲間。
時には助け合い、時には切磋琢磨する。
なので今回はお互い謝る必要は無く、次はお互い今回以上に頑張ればいい。
それだけだ。
ログレスと部屋に戻り、安眠の歌で眠ってもらった。
今日は疲れただろうからね。
朝まで時間は少ないだろうけど、ゆっくり眠ってほしい。
それにしても、嫌な方の予想が当たってしまった。
やはり合成進化にはリスクがあった。
帰りに従魔の書を確認したがゴーレムと鎧騎士が消えていた。
やはりゴーレムをベースに鎧騎士を合成して進化したようだ。
そしてそれは失敗。
まあ過ぎたる力を得ようとしたのだから仕方ない。
ルビーはやはり、危険があるから行わないのだろう。
……封印の神殿の女性。
やはりあの人はログレスを見ていた?
そうなるとあの人も従魔使い系なのだろうか?
そしてあの時召喚していたパペット型で先程のログレスと同じような事が起こったのだろうか?
まあ、次に出会えたら聞いてみよう。
さて、今日の事について合成進化はまだ広めたくないが他の人に同じ経験はしてほしくない。
ならば合成進化の部分だけをぼかして広めよう。
さらに1つの対策として送還からの解放も。
まあそれは掲示板が解放されてからかな。
それかマイさんにお客さん相手に広めてもらうとか?
いや、それは無いな。
マイさんが出所だと知った場合、質問の問い合わせがあっては困る。
うん、掲示板にしよう。
それでは僕もそろそろ寝ようかな。
おやすみ、皆。