174―ダンジョン-14―
視界が変わり、どこかの天井が見えた。
周囲を見渡すとドアが3つある壁が1方向、1つある壁が3方向見える。
どうやらここは安全地帯の中央部屋らしい。
まずは絶対にやるべき事からだ。
マイさんへの報告はその後でいい。
「召喚、ログレス、パペット」
目の前にパペットでログレスが召喚された。
まずログレスに説明しておかないとね。
「ログレス、先程はゴメンね。君はまだ戦えた。僕はそれは知っていた」
そう、ログレスは戦おうとしてくれていた。
それを僕が邪魔したのだ。
「だけどあのままでは何もできずに負けるだけだと判断した。僕はそれよりも、次の機会は勝つ為にそのHPを使ってほしいと思って送還したんだ」
ログレスは動かない。
「ログレス、僕と共に次も挑んでくれるのなら、この手を取ってほしい」
そう言い右手を差し出す。
するとログレスは迷う事無く、すぐにその手を握り返してくれた。
「うん、ログレスならそうしてくれると思っていたよ。次は勝とうね、ログレス」
ログレスは頷き、その意志を示してくれた。
さて、次だ。
イナバを幸運の白兎、ルビーをウルフで召喚した。
「皆、負けちゃってごめんね」
そう言いイナバとルビーの頭を撫でる。
「次は勝ちたい。だから、また力を貸してほしい」
その言葉に、イナバとルビーは頷いてくれた。
「ありがとう、皆」
一応作戦はある。
鍵はログレスになるだろう。
だが、出来ればさらに2つ欲しい。
片方は無くても勝てるかもしれないが、片方は必須と言っていいと思う。
やはりこちらの鍵もログレスだ。
それでも強制はしたくない。
だからこそ先に進みながら経験を積んでいく。
さあ、頑張ろうか。
マイさんの部屋の前です。
伝えておかないといけないからね。
コンコン。
「マイさん、今いいかな?」
「入ってきて大丈夫だよ、ユウ」
それでは失礼しますね。
目の前のドアを開け、部屋の中に入る。
部屋の中は予想通り、洋風の部屋であった。
床は板張りで、ベットと小さな机がある。
そして奥にはクローゼットか押入れなのかは分からないが、扉が存在している。
「どうしたんだい、ユウ? 材料の補充かな?」
「それもあるのだけど、その前に1つ聞いてほしい」
「何かな?」
「まず、ゴメンね。死に戻りしたよ」
「え……え!? 草原でユウが死に戻り!? 相手は何だったのかな?」
まあ、そうだよね。
僕も草原エリアで死に戻りするとは思わなかったよ。
まあ正確には別エリアだけどね。
「まず、死に戻り場所から言っておくね。死に戻り場所はこの安全地帯の中央部屋、ドアが沢山ある部屋だよ」
「村では無いんだね。それは便利かな」
「次に相手だけど、黒いロボット風の鎧騎士かな? 草原エリアの森を抜けたあたりで、突然別エリアに転移させられて勝負を挑まれたんだ。そこで断る事も出来たけど、受けた。そして負けた」
「ユウが負ける程の相手か。イベントボスかな?」
イベントボス。
多分そうなのだろう。
でもあの強さならば南の試練のボスウルフよりも強いかもしれない。
「そうかもしれない。一応動きなども説明しておくね」
「お願い」
マイさんに黒騎士の動きや技などを説明した。
「それは……かなり強いね。レギオン級のボスなのかな?」
「違うと思う。そうであればマイさんも一緒の時に転移させられたはずだから」
「やっぱりそうだよね。まあ明らかに時期が早いイベントだと思うから負けても仕方ないよ」
本当に負けても仕方ないのだろうか?
勝負の後だからこそ分かるのだけど、勝てる道筋が極僅かだけあった気がする。
……まあ負けてしまった結果は変わらない。
次勝てるように頑張ればいい。
「ありがとう。それで今日の残りはステータスペナルティがあるから、ポーション作りを手伝いたいと思うんだ。材料は大量に確保してきたから失敗しても材料が無くなる心配は無いと思う」
「ユウは調薬スキルは? いや、調薬をした事はあるのかな?」
「スキルも経験も無いよ。だから近くで作業を見せてほしい。それで出来そうならばやってみて、無理みたいなら昼食を作ってくるよ」
そう、色々とやっていればすぐ昼食の時間です。
次は朝よりも美味しくできるよ?
「分かった。まずは1度見て、その後に一緒にやってみようか」
「ありがとう」
ポーション作り難しいですね。
取りあえず一番簡単な処理だけ教えてもらいました。
薬草を乾燥させ、それをすり潰し、水に溶かし、適温で数分温め、器具で魔力を流し、容器に入れて完成です。
この作業でさえも各工程で少しでも失敗すると品質に影響し、何度も失敗するとポーションにならない。
初回では低品質すら難しい様です。
そう言えば容器はどうするのかと思っていたのだけど、どうやら容器があれば液体のまま容器に納め、容器が無ければ固体のグミ状に固体化させるらしい。
そして固体化した場合は振り掛ける事は出来ず、食べるしかなくなるとの事。
そうでなければみんな固体化を選ぶよね。
でも、振り掛けられる事の重要性は高いからこそ、液体状態で売っているのだろうな。
ギルドには両方とも売っていても良かったと思うけど、プレイヤーが見つけろと言う事だったのかな?
まあこの辺りは僕が気にすることでは無い。
さて、そろそろ昼だ。
昼食だ!
ポーション作りに慣れていない僕が作ろう。
「マイさん、昼食を作ってくるね。食べる場所はここでもいいかな?」
「ありがとう。だけど他の場所がいいかな。見ての通り、ここは少し散らかっているからね」
散らかっていると言うよりかはマイさんが並列作業を行っていて工程途中の材料であふれている状況かな。
マジックポーチにしまう方法も思いつくけど、それで何か変化があり、せっかく作ったポーションが使えなくなるかもしれないし、何より面倒だ。
「そうだよね。僕の部屋で食べよう」
「うん、お願いするよ」
さて、何を作るか。
野菜炒めとハンバーガーは無しとして……とりあえず冷蔵庫を見てみよう。
……親子丼はどうであろうか?
ラビットの肉は鶏肉に味が近いので十分合うはずだ。
いや、待て。
僕はご飯を炊けるのだろうか?
一応調理器具次第ではある。
土鍋があったので何とか炊けました。
料理は手伝っておくものです。
そして味が少し微妙なのは気にしてはいけない。
さあ、残りを作ってしまおう。
コンコン。
「マイさん、出来たよ~」
「今行くよ」
「親子丼かな? ユウはご飯も炊けるの?」
「マイさんよりも下手だけどね」
そう、マイさんの炊いたご飯の方が美味しかったのです。
まあそこは調味料で隠しました。
その人に合えばいいのだよ、合えば!
……まあ元が美味しいに越したことはないけどね!
「それでは頂きます」
「頂きます」
どうかな?
多分朝よりも高評価をもらえると思っているのだけど。
「これは……朝も美味しかったけど、昼は格別だね!」
調味料が多く揃っていて良かったよ。
そのおかげで2回目である程度辿り着けた。
まあここまでにしておこう。
これ以上はある意味危ないからね。
「ありがとう。でも、僕はマイさんの料理の方が美味しいと思うよ」
「そんな事は無いと思うけどね? まあユウは自分の料理を食べ慣れているからなのかな?」
マイさんの料理の方が美味しい事は真実だ。
僕は自分に合わせて料理を作ろうとは思えないし、それ以前に出来るとは思わない。
「そうかもしれないね。まあその議論はまたの機会にしよう。それよりも冷める前に食べてしまおう」
「おっと、そうだね。こんなに美味しいのに冷めたら勿体ないよ」