162―ダンジョン-02―
……失敗したかな。
5分程歩いているが魔物は出てこない。
そして手は握られたままだ。
まさか、気づいてない?
握った手に僅かに力を込める。
するとマイさんはすぐに手を離した。
「ご、ゴメンね。第1イベントと同じ失敗を繰り返さないように集中してたんだ」
「ソロ?」
「ソロだよ。そして不意打ちで乗りかかられてそのまま終わり」
やはりソロだったか。
そして相手はゲイルウルフかな?
不意打ちでなければ余裕で倒せただろうに。
「まあ反省して次回に活かせたのだから、良いと思うよ」
「うん。そういえば君はクリアしたんだよね?」
「僕には優秀な従魔達がいるからね。見てるだけでも余裕だよ」
これは真実だ。
僕は最初で死ななければそれだけで勝てたからね。
「君は――1人でも勝てそうだと思うけど?」
今の間は……聞きたいが聞きたく無いのかな?
内容は多分、クリア報酬で誰を選んだか。
まあ今のところは聞かれるまで言うつもりは無いかな。
「勝てるよ。ただ時間が掛かるけどね」
「相手は?」
「メタルゴーレム」
「私も普通に戦えば一応は勝てるかな。まあ魔法銃を使う君よりも時間は掛かると思うけどね」
やはり勝てるのか。
流石浮きクラゲに挑戦するだけはある。
「流石だね。それで生産がメインなのだから凄いよ。僕が生産系をしようとしても微妙だったからね」
「何を試したの?」
「付加術」
「あれは生産系というより、戦闘系だよ?」
そうだよね。
やってる事はほぼ戦闘だ。
「やはりそうだよね。魔法銃が欲しかったよ」
「君なら剣でも余裕だと思うけど?」
「弓でフユウクラゲの魔石に敗れました」
「……君は順序を考えないのかな?」
順序?
ああ、簡単なものからしていけと。
「そこに気になる魔石があった。理由はそれだけでいい」
「勿体無いと思うけどな。ああ、君は沢山持っているのか」
「フユウクラゲかミミタリーバタフライであれば上げるよ?」
「……フユウクラゲは魅力的だけど、一度も倒したことが無いから登録条件を満たせていないよ」
登録条件。
そう言えばあまり気にしたことが無い。
登録できなかったらその時に考えればいい!
そしてミミタリーバタフライは既に持っているのだろう。
あるいは集めるのが簡単だからかな?
まあどちらでもいいか。
「クラゲさんは強いよ。それに僕はクラゲさんがいないと薄膜も浮遊核も取れないからね」
そう言えばマイさんにドロップ条件を伝えていなかったな。
まあメールが使えないから今は止めておこう。
また忘れる気がするが、まあいい。
「クラゲいいな~。ユウ、もし良かったら今度倒すのを手伝ってくれないかな?」
マイさんは微笑みながらこちらを振り向き、僅かに緊張が含まれる声でそう言った。
「時間がある時ならばいいよ」
浮遊核も狙えるからね!
「ありがとう、ユウ」
緊張が抜け、代わりに嬉しさが混ざった声が辺りへ響いた。
さらに少し進んだところで、視界の先に大きな扉が見えた。
まあ、何かあるだろうね。
「いかにも怪しそうな扉だね。ここまで何も出ていない事を考えると、モンスターハウスかボスかな?」
「実はこちらが当たりの通路で、扉を開けたらクリアにならないかな?」
「それは流石に無いと思うけど」
僕もそう思います。
ボスの可能性が高いのかな?
いや、制限付きの状況でボスかもしれない。
まあ開けてみれば分かるかな。
扉の前まで来ました。
さあ、開けてみようか。
「開けるね」
「お願い」
手で扉を押し開ける。
見た目から重いとは思っていたが、結構厳しいです。
そう思っていると、少し開いたところで扉が自動的に開き始めた。
最初から自動にしてください。
扉が完全に開き、まず外から部屋の中を窺う。
その部屋は通路をそのまま大きくしたような空間で、奥には大きな扉が見える。
そして中央には台のような何かがあり、その上にマジックポーチに似た何かが置いてある。
まあ魔物はいないようなので入ってみようか。
でも、その前に。
「マイさん、マジックポーチから少しアイテムを取り出していこうか」
「そうだね。北の試練、だよね?」
「うん」
そう、北の試練だ。
その第1試練では持ち込んだマジックポーチが使用できなかった。
マイさんは挑戦したか、レンさんに聞いたのだろう。
さて、何がいるかな。
……銅の魔法銃くらいかな?
あとはMP回復ポーションを2個とHP回復ポーション2個を手に持っておこう。
一応入った瞬間、戦闘になった場合も考えないといけないからね。
……寝袋はどうしようか?
まあ入った瞬間の戦闘を考慮すると寝袋の優先度は低いので諦めよう。
「ユウ、準備できたよ」
「僕も大丈夫。それでは入ろうか」
部屋に入り、再度周囲を見渡す。
やはり通路をそのまま大きくした感じの部屋だ。
それにしても、後ろの扉が閉まらない。
閉まるかと思っていたのだけどな。
少し待ってみたが何も起こらないので、マジックポーチに似た何かを観察する為に部屋の真ん中にある台へと近づく。
「冒険者よ、ここから先は試練の道となっている。進みたければ試練を受ける必要がある」
台へかなり近づいたところで部屋の中に声が響いた。
頭の中じゃないんだね。
「試練の内容を教えてもらえますか?」
内容次第だよね!
「この部屋からの試練は現地調達。この部屋以降は汝らが持ち込んだマジックポーチを封印させてもらう。さらに奥へ進む為の扉を開く為にはマジックポーチと剥ぎ取りナイフを除いたアイテムが5個以下でなければならない。ここに封印されたマジックポーチとその中身は含まれない。さあ、どうする?」
やはり無駄か。
そしてアイテム6個では無く、剥ぎ取りナイフが別枠なのはこれが確実に必要だからだろうか?
まあ剥ぎ取りナイフが別枠ではない場合でも、持ち込むアイテムには選ぶのだけどね。
「マイさん、どうする?」
「私は問題無いよ。進もう、ユウ」
「うん、進もうか。まずアイテムを5個選んでから受けよう」
「そうだね」
そうなるとアイテムを5個選ばなければならない。
まず白の浴衣と黒のローブ。
そして複合金属の魔法銃は確定だ。
あと2つ。
まず寝袋だろう。
ポーション系も2個ではあまり意味が無い。
それに現地調達というくらいだから回復系アイテムを現地で調達できるはずだ。
ただ、この寝袋は本当に必要だろうか?
あの性格からしてこのダンジョンでの道具枠を1個使わせる為に用意した気もするな。
まあそれは考え過ぎだろう。
少なくとも必要では無いが、あった方が便利程度ではあるはずだ。
そしてあと1つ。
……銅の指輪と言いたいところだけど、それよりも必要な物があるよね。
最悪無くてもどうにかなるとは思うけど、かなり厳しい事にはなると思う。
まあ、マイさん次第かな。
選んだ4個以外のアイテムをマジックポーチの中にしまう。
そして寝袋と黒のローブを取り出した。
さて、マイさんはどうするのかな?
そう思い、マイさんの方を見ると何か大きなものが置かれていた。
あれは……機織り機か。
あの大きさで携帯用なのかな?
まあ気にしないでおこう。
あとは槍に浴衣に大きめの箱2個か。
箱は生産系セットのどれかだろう。
あれ、中に複数入っていても1個扱いなのかな?
まあ試してみれば分かるだろう。
そしてマイさんは大きめの箱の内1個を見つめ、悩んでいる。
まあそうだよね。
これは僕が悪い。
「マイさん、道具枠が1個余ったから何か持っていくものは無いかな?」
「そうなの? それならこの箱をお願い。調理道具が入っているの」
「分かった。ごめんね、僕も調理道具を持っていれば良かったのだけど」
「ユウは生産系じゃないから仕方ないよ」
そう言い微笑むマイさん。
調理道具、やはり必要だよね。
まあ調理道具を持っていないプレイヤーがクリア不可能になってしまうので、何かしらの手段は用意してあるとは思うけどあるに越したことはない。
スキルが変更できれば火魔法の取得で何とかなったとは思うけど、今はスキルの変更ができない。
うん、僕も機会があれば携帯用調理道具セットを買っておこう。
「ありがとう、マイさん」
マイさんから調理道具を受け取り、寝袋の近くに置いた。
うん、これで5個だ。
「準備できたよ、ユウ」
マイさんの方を見ると、新たに寝袋が追加されていた。
そう言えば、もう1個の箱は繊維加工系のものかな?
流石に機織り機だけでは布系防具は作れないだろうからね。
いや、魔法があればいいのか。
そうなると高レベルであろう繊維加工系のものよりも他の携帯用生産キットを選ぶはずなので、調薬系のものかな?
まあ、いずれ分かるだろう。
「僕も出来たよ。それでは試練を受けます」
「私も試練を受けるよ」
「それではユウ、マイパーティの試練を開始する。汝らに一度限りの祝福を」
突然、目の前にウィンドウが表示された。
それは以前のメニューだ。
懐かしのメニューが目の前に!
さて、一応確認をしておこう。