―――103――
「試練突破おめでとうございます」
「いえいえ、ユウさんが素材を集めてくれたおかげですよ」
うん、私だけでは確実に無理だったからね!
「そんなことありませんよ。素材は誰でも集められますが、試練を突破できるほどの作品を作り上げるのは難しいですからね」
「そ、そうですか? えへへ~」
作品の方こそ誰でもできると思う。
最後のあれは多分、自分で持ってきた素材を使えることに気づくかどうかだよ。
掲示板の人は気づいていなかったからあそこのフィールドで取れるものしか使用できなくて、失敗したんだと思うよ。
と、そんなことを考えつつも、褒められたのは嬉しいよ!
多分顔がにやけていると思う。
「よくぞ参りました。試練を突破せし者よ」
「ひゃ!」
な、何!?
誰!?
「お久しぶりですね」
あれ?
彼女の知り合いかな?
「久しぶりね。あ、お久しぶりですね。そちらの方は初めまして。ここは封印の神殿の1つ。そしてここに封印されているのは、技術です」
「はい、初めまして」
綺麗な赤い髪と赤い瞳を持った女性だよ。
スタイルも良く、大人の女性って感じがする!
それに比べて私は……いや、比べるのは止めよう。
悲しくなるだけだ。
「さあ、冒険者よ。私の後ろにある黒色の宝玉を壊せば無事に技術は解放されるでしょう。ですがその前に試練突破の報酬を渡したいと思います」
「ほ、報酬ですか?」
報酬!
「さて、あなたは報酬に何を望みますか?」
「ユウさん、どうしましょうか?」
2人で相談して決める?
いや、彼女がいたからできた試練なので彼女に決めてもらおう。
「この試練は貴方が突破した試練だ。なので、貴方の欲しい物を望んでください」
「いいのですか?」
どうしよう……。
確かに嬉しいけど、それは……。
「はい。それに私は西の試練で貰っていますからね」
「そうですか……。では、お言葉に甘えさせていただきます。少し考えさせてください」
うん、私が決めよう。
ここで断っては私はその程度の作品しか奉納していないことになってしまう。
最後の1つだけはそれは嫌だ!
あれは今の私ができる最高の作品だから!
それにしても、彼女は欲が無いな。
別に1つ貰ったからと言っても、もう1つ貰ってはいけない訳では無いと思うのだけど。
まあ、そこは彼女の性格だ。
私が考えることじゃないよね。
「ちなみに質問は受け付けられません」
う……。
なぜ質問を受け付けられないのだろうか?
まあ、そうであるのなら頑張って考えよう!
う~ん……一番欲しい物は鍛冶道具かな。
できれば携帯用の。
そうすれば、もしパーティで旅に出る時も武器や防具を修理できそう。
でも、旅で考えるならば調薬用の道具の方が良い気がするよ。
……うん、鍛冶道具にしよう。
私は鍛冶をメインで進めるのだから、そちらの方が良いと思う。
「決まりました! 初心者用の鍛冶セットより上位の鍛冶道具をください!」
「分かりました。では、このアイテムを授けましょう」
これは、鍛冶用の槌?
おお!
良い物だよ!
「ありがとうございます」
嬉しいよ!
これで、工房以外でも初心者用の道具以外を使える。
旅に出ても、先々で武器や防具を修理できるよ!
まあ、金属限定だけどね!
「では、冒険者よ。私の後ろにある黒色の宝玉を壊し、技術を解放するのです」
「分かりました!」
解放がメインだからね!
これが封印の宝玉。
ペンキをそのままかけたような黒色だけど、外に光を逃がさないような色とも言えそうだ。
技術は光で、光を外に逃がさないように黒色をしているのかな?
まあ、後で考えよう。
さあ、壊しましょう!
……あれ?
彼女がいない?
あ、赤い髪の女性と話してる。
これは、私が壊せると信じて任せてくれているのだろうか?
うん、そうだよね!
頑張るよ!
……どうやって壊そう?
武器はあの魔法銃しか持っていないけど、あの魔法銃は絶対に使えない。
鍛冶用の槌なら壊せそうだけど、鍛冶以外の事に使いたくは無い。
つまり、落とそう!
高いところから落とせば壊せるはず!
<ある冒険者により技術が封印から解放されました。これにより、封印されていた技術が力を発揮します>
まさかの1回で壊れたよ!
数回落とす必要があるかと思っていたけど、結構脆かったよ!
「解放です!」
「おめでとうございます」
やはり、私ならできると信じてくれていたのかな?
嬉しいよ!
「技術を解放して頂き、ありがとうございます。これで残りの力の解放も早まるでしょう」
いえいえ。
「封印されていた力が解放されたことにより、この空間は崩壊を始めます」
え!?
「ほ、崩壊ですか!?」
「ご安心ください。貴方は私が元の場所へとお送りします」
良かった、それなら安心だね。
「それでは転送を開始します。またお会いしましょうね」
また?
ああ、あと1個試練があるから、それに参加してねと言うことかな。
無理です!
御免なさい。
「お疲れ様でした。そして、試練クリアおめでとうございます」
「ありがとうございます!」
嬉しいです!
これで、親方に修業の続きをしてもらえるよ!
「さて、どうしますか? すぐに町へ帰りますか?」
あ、そうか。
でも、待ってほしいです。
「いえ、少しお時間を頂けますか?」
そう、あれを渡したい。
満足してもらえるかは分からないけど、全力は尽くした。
「はい、構いませんが、何か用事ですか?」
私の最高傑作の魔法銃を。
「これをどうぞ。ご依頼されていた魔法銃になります」
「ありがとうございます」
緊張する。
試練の開始時よりも、最後に魔法銃を作る時よりも緊張する。
もし、全然ダメだったらどうしようかと考えてしまう。
私の全力はもしかしたら、全然足りていないのかと考えてしまう。
怖い。
でも、逆の期待している感情もある。
笑顔いっぱいに喜んで貰える可能性も考えてしまう。
だから、どちらかを確かめる為に……。
意を決して、彼女の顔を見ると……微笑んでいる?
あ、魔法銃の説明しなきゃ!
「お預け頂いた魔法銃を、第2類2種金属で強化した魔法銃となります。元の魔法銃とは色が違いますが、あれは染色されていた色で、元の色はあまり差はありませんでした。性能は元の魔法銃と比較して、攻撃力の増加、消費MPの低下、重量が若干増加となります」
「依頼を受けて頂き、そして、こんな良い物を作って頂いてありがとうございました」
やった!
微笑んでいる顔とこの言葉。
これは満足して貰えていると考えていいのかな?
うん、良いよね!
おっと、まだ彼女は実際に使っていないのだから、浮かれすぎてはいけない。
もし、実際に使ってみたら全然ダメでした、となってしまう可能性もあるのだ。
「いえ、こちららこそ、良い修行になりました」
今はこの言葉で気を引き締めよう。
20141026:修正
誤字を修正しました。