聞こえる
□ 洗面所
「はー」
美月は鏡に写っている真っ赤な顔をした自分を見て溜息をついた。
「うー」
赤くなった理由はハッキリしている、ただ一言の言葉だ。
「やっぱり笑ってた方が可愛いのに」
聞こえてないつもりなのだろうが美月にはハッキリと聞こえていた。
「……こっちの気も知らずに」
美月は琴花の言葉を思い出した。
「お前がタイプだからニャ、気に入ったニャー」
あそこまでハッキリいえたらどうなるのだろうか、最近一段と無口になった自分を多助はどう思っているのだろうか。
「あー、もう!」
顔を二回叩いて気合いを入れた美月は言った。
「この一件が終わったら……多助に告白しよう」
○ リビング
「多助に告白しよう」
紅茶のおかわりを入れようと洗面所の近くを通った時、美月のそんな言葉を聞いた
「え……」
しばらく固まっていると何事も無かったように美月が洗面所から帰ってきた。
「琴花さん遅いね」
「…………」
「多助?」
「ん?……ああ、確かに遅いな」
いつもより美月を意識してしまう。
「紅茶入れようか」
美月のカップをとって改めてポットに向かう。
俺の答えは決まっていた。
俺の事を一番知っているのは美月だろう。
近くにいて一番安心できるし、
いつまでも近くにいて欲しい。
これは恋だ、それは昔から変わらない。
しかし幼馴染、友としての期間があまりにも長すぎてその感情が麻痺していたように思う。
「……あー」
ただ、今だけは美月の顔をまともに見る事ができなかった。
◇ 商店街 饅頭屋
「美味しいニャー」
琴花が饅頭を食べおえたときだった。
「…………」
商店街の賑やかな音や声の中から何かが羽ばたくような音が聞こえた。
更に羽ばたく音と共にポッという音が聞こえた瞬間。
「聞こえたニャー!」
琴花はそう叫んで勢いよく走り出した。