猫とドッペルゲンガー
「なるほどニャ、ドッペルゲンガーの正体はお前だったかニャ」
琴花は美月の姿をした者と向き合っていた。
「観念するニャ、うちと今のその姿のお前じゃあ力の差がありすぎるニャ」
美月の姿をした者は沈黙を破らない。
「なんとか言ったらどうニャ」
「…………」
勝ち目は無いと判断したのか偽美月はすさまじい速さで逃げて言った。
琴花は偽美月が落としたカーディガンを拾って呟いた。
「……これは、急がないといけないニャ」
気まずい雰囲気を打ち破ったのは琴花だった。
「帰ったニャ」
「どうだった?」
「喉が乾いたニャ」
琴花はそう言って俺の紅茶を飲んだ、美月が琴花を軽く睨む。
「ぺんたちころおやし」
「は?」
「ドッペルゲンガーはうちと同じ妖怪ってやつだったニャ」
「妖怪……ぺんたちころおやし」
美月が呟く
「どういう妖怪なんだ、そのぺん……」
「ぺんたちころおやしニャ」
そう言ってまた俺の紅茶を一口、
美月の気配が怖くなってきているのでやめてくれ。
「人間の間では松明等で辺りを照らす妖怪とされているニャ」
「じゃあなんで美月の姿なんだよ」
「人間は言葉遊びが好きなのか、ただ言葉不足なのかはわからないけど少し意味が違うニャ」
琴花は美月を指指した
「最近何かいい事、無かったかニャ?」
「いい……事?」
「そう、例えば悩みが無くなったとか……誰かとの関係が良くなったとか」
「……ある」
親との関係だろう。
「それがぺんたちころおやしの力の一つニャ」
「悩みを消すのか? じゃあ尚更いいじゃねぇか」
「光は周りの闇を見づらくするニャ」
「そういう考えもあるかもな」
「ぺんたちころおやしは生気を食べる妖怪ニャ」
「……は?」
「生気、生きるためのエネルギーニャ、勿論無くなると死ぬニャ」
「……体調は悪くない」
美月が言ったが琴花は首を横に振った。
「人間は気分に左右されやすい生き物ニャ、嬉しかった時は生気もいつもより多く出るニャ」
「…………」
美月は真剣な表情で琴花の話を聞いている。
「標的はいつもより生気が出ているから生気を食べられていても気づかない、ぺんたちころおやしはそれを狙うんだニャ」
美月が固まっていたから俺が口を開く。
「つまり、ぺんたちころおやしを退治しないと美月は……」
言葉に詰まった俺を美月がサポートする。
「私は死んでしまうのね」
琴花は今までに無い真剣な表情で
「そうだニャ」
首を縦に振った。
「じゃあそのぺんたちどうたらを早く退治しないと!」
「……まあいいニャ、とりあえず行くニャ」
琴花は何故か浮かない顔をしていた。




