第三幕 出会いの攻防
一応の警告ですが、暴力的で出血のある表現が含まれています。苦手な方はご注意を。
その男たちというのは数えてみれば六人の、それぞれ差料を大小さした者だった。
刀剣の類といえば、義太郎の故郷では大人の男でもめったに差したりしないから、ぶっそうだなと眉をひそめた。
「ここか」
「天…の……」
なにか話す声は耳に届くがはっきりしたところまではわからない。
男たちは門の中に入りもせずに丸くなってやたらとひそひそ話しあっている。そんなもんだから義太郎も陰より登場することもできなくて、狭いところからなんとなくその男たちを窺っていた。
不意に男たちの声がぴたっと止んだ。代わりにちらりちらりと視線を動かしていた。
その目の先を見ると、義太郎が歩いてきた方向からまた一人、誰かがやってくる。
(あの人は)
ゆったりした足取りで来るのは、さっき神社の山門前で道を教えてくれた、若い男だった。
その彼は六人の男たちの横を素通りして、なんと屋敷の門をくぐっていこうとする。
屋敷の関係者であったかと義太郎が驚くよりも早く、
「おい、お前」
一人がそう声をかけると同時に、男達は彼をさっと囲んだ。
「満宮御所の者だな」
同じ男が詰め寄るように言った。若い男は顔色も特に変えず対する男の顔を見据えた。
「違う」
「何!」
「嘘ですよ、何の用です?」
くすっと笑った彼に、男たちは殺気立っている。
「府中を騒がし、狐狸妖怪の類を招きいれる貴様らをか弱き民にかわって討つ!勝負されたし!」
「勝負? 困ったな。私は今刀を持っていなくて」
ほら、と腰を見せる。
「取りにいっていいというなら、お相手しましょう」
男達は皆目を合わせると、全員が全員刀を抜いた。
「待て!」
衝動的に、義太郎は叫んで道に飛び出した。何をしようとは思っていない、ただこのままではいけない、止めなければと思った結果だった。
男たちの注意が、瞬間義太郎にそれた。
刹那、若い男が一番近くの一人に正面から当て身をくらわせた。やられた男はもんどりうって倒れる。
同時にその隣の、代表して喋っていた男が壮絶な悲鳴をあげた。肩口から鮮血を噴水のように吹き上げている。若い彼が当て身の接触時に奪った刀で、男を袈裟斬りにしたのだった。血刀をひっさげた彼は一歩下がって間をとり言った。
「さて。……続けるか、どうしようか」
今人を斬ったにしては、いやに落ち着きはらった声音が凄みに拍車をかけている。
男五人たちは斬られた奴を見もせずにわっと逃げ出していってしまった。
義太郎は、呆然としたまま動けない。
「ちょっと、あなた」
声をかけられてようやく我にかえった。若い彼は持っていた濡れ刃の刀を門の内にぽーんと放り投げた後、倒れている男のもとにしゃがんだ。
「この人、まだ助かる」
そう言って、応急手当で血止めをしてしまう。所在なさげに立っている義太郎を見上げた。
「中に運ぶから手伝って」
「は、はい」
やや緊張した動きで、義太郎は足のほうを持ち上げた。
屋敷の者にその男を引き渡したあと、義太郎は一室に通された。
「ここで少し待っていてくれますか、着替えてくるので」
男が部屋を出ていってから、やっと空気を吸えた気がする。冷静になると、ますます自分の境遇が心配になってきた。
懐からひとつ、秀美な柄の包みを取り出した。中は何か知らない。
(おれはただこれを、届けろと言われただたなのに)
やっかいなことに関わってしまったのかと、義太郎は不安な心持ちであった。
「それなんです?」
はっとすると、襖を開けてさっきの男が立っていた。
全然気配みたいなものを感じとれず驚く義太郎の前に座ると、彼はちょっと居住まいを正した。
「まずは、手伝ってくれてどうもありがとう」
言って頭を下げた。と思ったら今度はくすくす笑い出していた。義太郎が困惑していると、
「しかし驚いたなぁ」
とからかい声で続ける。
「あんなところから出てくるなんて」
「あれは……」
恥ずかしさのあまり弁解しようとしたが、なんとも言いようが無かった。
男は笑うのをやめて、少し真面目な顔をした。
「騒動に巻き込んですまなかった。私は、春昌汐子といいますが、あなたは?」
「義太郎です」
「そう、よろしく」
男――汐子は微笑んだ。
よろしくと言われるのもかわっている感じがしたが、義太郎の心中はすっかり穏やかで平素の状態に戻っていた。
「それであなたは何しにここに?」
普通なら始めの質問はそれだろうに、とおかしかった。けど自分は笑うわけにはいかない、つとめて真剣な表情で義太郎は包みを差し出した。
「これをこのお屋敷に届けるように言い付かってやってきたのです」
「私が拝見してもいいものかなぁ」
わからないので返事は出来ない。
言っておきながら汐子は躊躇なく包みを開く。
そこには、手紙があった。
白の紙に筆ですらすらと書いてある。
『天神様』
「これは……」
汐子は、神妙な面持ちでそれを見下ろした。
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