第二幕 門前まで
「また、困った……」
大路の端をとぼとぼ歩きながら、義太郎は肩を落とした。
いっこうに着かない。
いくつもあった細い小路に目もくれず、言いつけ通りに信じてここまで来てみたが、やっぱり見えてこないので心配になってきていた。
人に聞こうにも左手の家並みに、戸を開けて尋ねるのも気が引けてしまう。右手はさっきからずっと塀が続いている。どうやら社寺の類らしかった。
その塀の山門が見えてきた。
まさか都の神社におしかけて道を尋ねることも出来ないから、素通りしようとしたところ、山門から突然走りだしてきた影があった。
「あ、失礼」
ぶつかるか、と義太郎が身を固めたが、その相手がぎりぎり止まった。自分より少し低いかというくらいの体格のその人が先にそう言う。
「すみません」
軽く頭をさげた義太郎に、その男はにこっと笑った。そして口を開く。
「あなた……」
とそこで、相手の彼にわっと数人の子供が寄ってきた。
「お兄ちゃん、逃げたらいかんよぅ」
「昨日もふらっと消えてしまって。凧揚げの約束忘れてしまったの?」
「遊ぼうよ、ね」 子供たちは口々に言って男の裾をひっぱる。
「わかったわかった」
男は苦笑して、発しかけていた言葉をやめて、義太郎に会釈をした。
「よし、じゃあ私が鬼だ!さあみんな逃げろ!」
男が声を張り上げると、子供たちが嬉しそうにきゃあきゃあ騒いで散らばった。
同じく楽しそうに走り出そうとする男の背に、義太郎はあわてて声をかける。
「伺いたいことがあるのですが」
「あ、やっぱり」
男は笑顔になる。
「やっぱり?」
義太郎が虚を突かれると、男はこくんと頷いた。
「あなた、道に迷ってらっしゃる」
「そうです。わかりますか」
「最近多いから、この辺は。目指す屋敷は、まだもう少し先に行くと、ひっこんだ門がある。そこですよ」
何もまだ聞いていないのにすらすらと言われて、義太郎はつまった。
「あの……」
「大丈夫です。ここら辺で訪問者が来るような所、そこしかないんだから。行ってごらんなさい」
そう言い放つや否や、男はさっさと鬼ごっこに興じにいってしまった。
義太郎は門の下で、しばらくぽかんとしていた。
「あった…」
義太郎は、喜びがにじみ出ているようなつぶやきを吐いた。
さっきの男の言った通りであった。
大路より少しひっこんだ門、そこから中を覗けば、故郷では見たこともない、たいそう立派な様子の御屋敷が庭の向こうにそびえている。
別に飾りが豪奢というわけでないが、とにかく土地が広そうに見えた。
地図を広げる。確かに、ここのように思える。
(しかしそれでどうする、入っていいものかどうか)
と迷って門前でうろうろ。
意を決し片足を踏み込もうとした時、義太郎は身を翻してさっと後ろの民家の陰に身を潜めていた。
数人の男がこちらに向かって歩いてきていたのだ。
義太郎はしまった、と思う。
どうも人の気配を察すると隠れる癖が自分にはある。
見たところ男どもは例のお屋敷を見上げながら進んでいるので、屋敷の関係者であろうと勘ぐった。
用事があるのに隠れるなど不自然で怪しい態度、気づかれたらなんと説明すれば良いのか。
稚拙な文章、読んでいただいてありがとうございます。