霜の巨人
真那華と聖蘭、潤は『氷霜洞窟』のボス部屋に入ると目の前には肌が青白く瞳を隠す程の銀色の長髪と長い髭、そして見上げる程の巨体は正に神々しくもある肉体美をしている。
「やばいね」
潤はその相手を見て興奮している。
「そうね。龍ほどでもないけどこの威圧感、間違いなく強敵よ」
「いや、潤ちゃんはたぶん別の意味で言ってると思うよ」
巨人に威圧感を感じてる聖蘭の反応と潤が持つ巨人に感じてるものは違うことに真那華は経験則の元に気付いている。
「あの筋肉は間違いなく最高に仕上がっていて、最高に美しい。正に神がかった筋肉、本当に素晴らしいよ。僕もだいぶ鍛えてるけどここまで美しいと少し自信無くしちゃうな。だから、君の屍を超えて僕は更に強く、そして美しくなるよ」
「・・・・・・ほらね」
「真面目に答えた私が馬鹿みたいじゃない!」
潤の基準は全て筋肉なので巨人の筋肉を絶賛していることを真那華は見抜いており、聖蘭は分かっていた事に真面目に答えてしまったことを後悔した。
「でも、確かにこの威圧感は竜種に匹敵するね。これは間違いなく『霜の巨人』だよ」
真那華はその威圧感から、『ジャイアントイエティ』ではなく、『霜の巨人』だと認識する。
「聖蘭ちゃん、潤ちゃん、あの巨人の足下が冷気で凍ってるから、攻撃には気を付けて」
真那華は『霜の巨人』の足下が冷気で凍ってるのを確認すると二人に注意するように促す。
「安心しなさい。私は最初から接近戦をしようなんて思ってないわ」
聖蘭は『フェンリル』を構えている。
「じゃあ、おっ始めるわよ!【万物貫通】」
聖蘭は初っ端から【万物貫通】をぶっ放す。
「最近、聖蘭口悪いよね」
「ああ見えてウチらの中で一番の戦闘狂だからね。普段、委員長や鍛治の仕事でストレス溜め込み過ぎてるから発散させるためにダンジョンで怪物を狩ることに快感を見出しちゃったからね。レアドロップする怪物に高笑いキメながら突っ込んで行く姿には流石にドン引きしたかなー」
聖蘭は学校で学級委員長としての責務による生徒への注意と教師からのプレッシャー、そして鍛治をしてる時に現れるクレーマーによるストレスにより、怪物を狩る事がストレス発散となっているのでありレアドロップする怪物相手だと更にテンションがハイになってしまっているのである。
「ストレス社会が産んだ悲しき獣だねー」
「その原因の一人が何を言ってるんだい?」
聖蘭のストレスの一つは真那華に学業成績においても模擬戦にしても一度として勝った事がないからである。
聖蘭は生粋の負けず嫌いなので、真那華に負けっ放しというのが我慢ならないのだ。
むしろ、真那華はその事を知ってるので一切の手心は加えないのである。
しかし、今では真那華もかなりギリギリであり、動作感知に関しては真那華より精度が高いので不意打ちや絡め手は一切通用しなくなっている。
「それは否定出来ないかなー。でも、真面目に勝とうとする相手に手を抜く方が失礼ってもんでしょ」
「それもそうだ。君たちと模擬戦する時は僕も常に全力だからね」
「それはそうとアイツの腹に風穴空けたのが効いたのか動き出したよ」
聖蘭の放ったファーストアタックは『霜の巨人』の腹を穿っていた。
その一撃により『霜の巨人』は聖蘭目掛け拳を振るう。
「確かにこいつは歩幅が広いから逃げるのすら大変ね。私は楽勝だけど!」
聖蘭は自身のスピードを活かし『霜の巨人』を翻弄し攻撃している。
しかし、聖蘭は『霜の巨人』が竜種と同等クラスだと知ることになる。
その理由は『霜の巨人』が踏み締めた地面が凍っており、聖蘭はスピードが出し難い状況になっているからである。
「地面が凍らせられちゃうとスピードを活かし難くくてかなわないわね」
聖蘭の周囲はスケートリンクのように凍結し、スピードを出せない状況になっている。
「これ、動き回る方が危険ね」
聖蘭は動き回ったリスクを実感すると同時に『霜の巨人』の拳が振るわれる。
「でも、おあいにくだけど今回の主役は私じゃないのよ」
『霜の巨人』の拳は潤によって防がれる。
「まったく、いつも一人で突っ走るんだから、少しは自重してよね」
「善処するわ」
「その返事!自重する気ないよね!」
潤は聖蘭のやらないための常套句は既に知っている。
「あるわけないじゃない。こんな楽しいこと、怪物を狩ることに最近、生を実感するのよ」
「ここまで来ると血に飢えた獣と変わらないよね」
潤は聖蘭の血の気の多さに呆れるしかなかった。
「でも、僕も負けてらはないかな!」
潤は『霜の巨人』の拳を押し返すために全身に力を入れる。
「うらあああ!!」
その時、盾から鋭い針状の棘が突き出ると『霜の巨人』の拳に突き刺さり『霜の巨人』は呻き声をあげ拳を引っ込める。
「やっぱり、あるとは思ったんだよね。『禍津』としての力もね」
真那華は禍津玄龍の『禍津』としての力は残っていると考えていた。
緑鬼との違いは、その無数の棘が鋭く、頑丈なことで折れたりはしていないのである。
「それに斥力で接触を防いだから凍結すらしないみたいだね。ここまでは想定通りかなー」
真那華は既に禍津玄龍の性能をある程度想定していた。
「でも、あの程度じゃ倒せないみたいよ」
『霜の巨人』の拳の傷は凍結した赤黒い血が凍り付き塞いでいた。
「ワオ!ワイルドな止血法だね。これは中々の長期戦になりそうかな♪」
「嬉しそうね」
「そりゃあ、嬉しいよ。ここまで強い相手とは滅多に戦えないからねー♪」
真那華は初めて戦う強敵に心を躍らせている。
「そうだね。こんな楽しい玩具はそうそういないよ」
潤は『霜の巨人』の拳を受け止めた事でスイッチが入ったようである。
三人はそれぞれやる気になった事で『霜の巨人』は異様な威圧感を感じている。
「聖蘭ちゃんは自慢のスピードを活かせないみたいだし、ここはウチがやらせてもらおうかなー♪」
「はぁ、これあまりやりたくなかったけど仕方ないか・・・・・・」
聖蘭は『フェンリル』を胸のホルスターにしまい四つん這いになる。
「四足歩行!?」
「遂にそこまで堕ちたの!!」
真那華と潤はその聖蘭の姿を見て何をしようとしてるか分かったのだ。
「だから、嫌だったのよ!!でもこれなら地面を凍らせられようと関係ないわ」
「真那華、聖蘭がどんどん人間から遠ざかって行ってるよ」
「それは違うわ!これはむしろ進化よ!!」
「これ完全に開き直ってるね。ここまで吹っ切れると逆に凄いかな」
潤が聖蘭の奇行に呆れてるのに対し、真那華は聖蘭の開き直りに呆れを通り越して敬意を評している。
「じゃあ、先に行くわ!」
聖蘭のその速度は二足歩行とほとんど遜色がないほどに速い。
「アレであの速度出せるって、僕でも無理だからね。完全に人間辞めてるでしょ」
「【獣気】の爪で滑りを抑えてるから、既にこれを想定していたとしか思えないよね」
潤は聖蘭が人間を辞めたことを確信し、真那華は聖蘭がこの状況を想定していたとしか思えなかったのである。
「さて、ウチもやっちゃおうかなー♪」
真那華は空いた左手に魔法剣である【陽焔剣】を握る。
「よくよく考えると真那華も二刀流を扱えるんだよね」
潤の姉である燐も二刀流なので、真那華も二刀流出来る事に今更気付いた。
「燐ちゃんと違って、ウチの場合は【武術】も組み合わせてるけどね。だから、ウチの二刀流は拳も使うから燐ちゃんのよりは荒いかなー」
真那華の二刀流は剣を握った拳はもちろん、足技も活用したりする。
「【剣術】はあくまでも剣を扱う技術に補正が入るだけだからね。【武術】の補正枠はどうしても補填出来ないんだよ。さて、聖蘭ちゃんに夢中になってる巨体にウチにも夢中になってもらうよー♪」
真那華は『霜の巨人』に攻撃するために向かって行く。
(聖蘭ってアレでも人気あるからなー。何故か主に女性が多いけど)
潤は聖蘭が密かに人気があるのをSNSを見て知っているが、何故か女性からの人気が多いのだ。
(僕も最近、道歩いてるとサイン求められるようになったけど、きっとお姉ちゃんと勘違いしてるか忙しいお姉ちゃんの代わりに欲しがって来てるだけなんだよね)
潤は龍のブレスを二発も防いだ事で有名になり、サインを求める者が現れたが、潤は燐と勘違いしてるか、忙しくなかなか会えない燐の代わりにサインを求めてるくらいしか考えていないのである。
「まったく、二人共・・・・・・その玩具は僕のだよ!」
潤は『誘引核』による力を発動すると『霜の巨人』は潤に狙いを変えた。
「潤ちゃん!それはずるいよ!」
真那華は『誘引核』の力により、自らタゲ取りをした潤に異議を唱える。
「いいじゃない、今回の主役がやる気になってるんだから・・・・・・それでも私は構いやしないわ!」
聖蘭は潤に向かう『霜の巨人』をお構いなしに攻撃する。
「これならどう?【万物貫通】」
聖蘭は【万物貫通】を再度撃てるようになった事を確認すると同時に巨人の腱を撃ち抜く。
それと同時に『霜の巨人』は呻き声をあげその場に転倒した。
「いくら、傷口を凍らせようとこれはどうしようもないでしょ」
「聖蘭ちゃん、あのゴリラの擬人化にも同じ事やってたでしょ。本当にエゲツないよね」
真那華は聖蘭が龍次のアキレス腱を撃ち抜いていたのを見ているため、それとまったく同じことをしているので一種の恐怖を感じた。
「ねぇ、聖蘭・・・・・・言ってる事とやってる事が違うよね」
潤は聖蘭に文句を言いながら近付いて来る。
「まさか、兄ぃの身体の造りは人間と変わらないというアドバイスはウチがやるために敢えて話さなかったのに!」
真那華は事前に承からアドバイスとして身体の造りは人間と変わらないので、腱を斬り裂けば動きを封じられるとは聞いていた。
それを真那華が実行しようとしていたのであったが、それを易々と聖蘭がやってしまったのである。
「真那華、独り占めはよくないわ。だから、私の横取りは当然の権利よね」
「まさか、あの時の仕返しをこんな形でされるとは思わなかったよー」
聖蘭は真那華がやった『誘引核』と『玄武甲』の件の仕返しを取るつもりもなかったが取ってしまったのである。
「でも、こうなったらもうやりたい放題だよね」
「そうね。既に歩くことすら出来ないわ。終わりね」
「僕は納得してないからね!」
三人はそれぞれ、『霜の巨人』に勝った気になったその時だった。
「ウォオオオオオオオオオオ!!」
『霜の巨人』は雄叫びをあげると撃ち抜かれた部分を氷で覆い無理矢理立ち上がると片手に氷のメイス、もう片方に氷の盾を持っている。
そして、『霜の巨人』がメイスを振るうとその軌道上から氷の礫が放たれる。
「誰よ!!終わりねなんて事言ったのは!」
「聖蘭だよ!!」
「参ったね。たぶん、これこいつの特殊行動かも、原因は正に聖蘭ちゃんがやった事だねー。動きは確かにぎこちないけどあんな事されたら関係ないよ」
聖蘭、潤、真那華はそれぞれ慌てて、『霜の巨人』と氷の礫を避けながら距離を取っている。
そして、聖蘭の戦犯により『霜の巨人』との第二ラウンドが開始された。




