龍の肉のお裾分け
その日の晩御飯は承が燐達に振る舞った。
「えっと、承さん食べてから遅いと思いますがこれ一体なんの肉ですか?」
「確かに美味しいのは間違いないんだが、食べたら疲れが一気に吹っ飛んだんだけど・・・・・・」
「美味しいなら、どうでも良くなーい」
須藤は食べた事のない肉なので承に質問し、燐は食べた事で疲労感がなくなった事に驚き、奏は特に気にしてる様子はない。
「・・・・・・ちなみに何の肉だと思うんだ?」
「分からないから聞いてるんです。高級の和牛といえば和牛だしマグロの中トロといえば中トロです。こんな肉食べた事ありませんよ」
「・・・・・・待って、そういえばこの肉、僕の家の冷蔵庫に入ってた気がするよ」
燐は一時帰宅した時に冷蔵庫を開け、潤のヨーグルトを盗み食いした時にその肉を見たのである。
「みんな気にし過ぎ、美味しいからいいじゃん。今なら感知の常時発動も楽勝かも」
奏が【感知】を発動すると驚きの結果が生まれる。
「え?冗談で言ったつもりが本気で出来そうなんだけど」
奏は【増幅】も一緒に活用しているのに精神的な負荷を感じてないのである。
「本当に何の肉ですか!!」
須藤はこの奏の様子から嫌な予感がした。
「先日、真那華達が倒した龍の肉だ。まだあるからどんどん食べていいぞ」
「ッゴホゴホ、なんてもの食べさせてるのよ!!」
そこまで気にしてなかった奏が一番に龍の肉に対してリアクションする。
「その話しを聞いてどうして僕の家の冷蔵庫にこれがあったか分かったよ。この肉に味をしめた潤ちゃんが、自分で食べるために入れてたんだね。お姉ちゃんが出張なのをいいことに!」
燐は何故、自宅にこの肉がジッパーに入れられて保存されてるかを理解した。
「通りで食べた事のない肉だった訳です。魔力が活性化しているのか調子が良くなった気がします」
「俺も初めて食べたからな。ここまで、はっきりと魔力の変化が分かる食べ物は初めてだ」
承も龍を食べるのは初めてで真那華と同じく、ダンジョン内の怪物を狩って食べていたが、ここまでの変化を感じる事は無かったのである。
「そういえば、あのダンジョンS級指定入って再調査の依頼が来たんだけど・・・・・・僕に死ねと言うのかい」
燐は真那華の配信を見ていたので隠し通路の入り方は知っているが、だからこそ無理なのは分かるのだ。
「だから、返信してやったんだ。その隠し通路はS級でも難しいんだから、そもそも通れるならそいつは既にS級並みだから、S級指定にするなと返信したら、条件付きのB級になったね」
「奏、その配信見ないから知らないけどそんな難しいの?」
奏は気に入らない真那華の配信は見たくもないので知らないが、そればかりは気になっていた。
「気になるなら見てみるといいよ。切り抜きがたくさん出てるから。正直、僕には出来る気がしないかな。道中の『ストーンワーム』を一匹でも取りこぼしたらそれで終わりだ」
「うーん、気になるけどアイツの配信の切り抜きなんだよねー」
奏は気になる気持ちと見たくもない気持ちの板挟みになっている。
「一つアドバイスしてやろう。嫌いなら見なければいいし、それでも気になるなら見ればいい。だが、本気で真那華を超えたいなら、その目に焼き付けろ。自分が超える者が何なのか理解しろ。それが出来ないなら、易々と超えてやるなんて言うべきじゃない」
「・・・・・・分かったわよ!!マナの全てを理解した上でアイツを潜行者として超えるから見てなさい!」
そして、奏はスマホで配信の切り抜きを見始めると顔から徐々に血の気が引いていく。
「奏、何も知らなかった。ただSNSの情報を見て知った気になってた。こんなの正気の沙汰じゃないわ!マナはもちろん、その仲間達も、特にセイラって奴、本当に人間?人間が出来る動きの限界を超えてるわ!」
「ああ、僕もそれ思った。何が何でも絶対に仕留めてやるという強い意志が行動に現れてるね。アレはもはや人というより獣だよ」
奏と燐は二人で切り抜きに夢中になっている。
「奏さんの扱いが上手いですね。やはり、あのガキの世話が大変だったからですか?」
須藤は真那華に対しては敵意剥き出しである。
「そうだな。大変じゃ無かったといえば嘘になるが、それが俺の日常だから気にもした事なかったな。でも、真那華といると間違いなく退屈はしないな」
「何となく、凄く苦労してるのを察しましたが、承さんが良いなら何も言いませんが、奏さんはどんな感じですか?」
須藤は自分の訓練の調子が良いため、時折奏を気にかけているのである。
「・・・・・・正直、少し厳しいな。本人のやる気の問題なのかは知らんが、すぐ飽きるしすぐ別の事を始めようとする。真那華で焚き付けるにしても限界があるしな。でも、出来るようになってもらわないと困るわけだ」
「・・・・・・少し、気になったんですが、承さん一人でやろうと思わないんですか?」
須藤は承一人なら問題なく短期間でこの任務をクリア出来ると考えている。
「確かにその方が楽なのは分かるが、全部俺が解決してしまうと全て俺がいるだけで良くなってしまう。それは同時に他の奴が成長する機会を奪う事に繋がるだろ。そんな事が続けばいずれ破綻するのは考えれば分かる事だ。俺はあくまでいざと言う時の予防線、それでいいんだ」
承はかなり長い目で将来を見た時、潜行者がどうなるか心配しながら話している。
「つまり、今回の任務は」
「俺が力を貸すのはあんたらの誰かが危なくなる時だけだが、その全てに対応出来ると思わない事だ。俺から手を出すという甘い考えは捨てるんだな。俺は来る火の粉は払うがそれ以外は自分で何とかすることだ」
承は自分の身を守る事はするがそれ以外はパーティの誰かがピンチになれば助けるだけというものだった。
「承さんに頼りっぱなしな気がするのは気のせいでしょうか?」
「訓練くらいで気にするな。その代わり、任務でそれを活かせれば問題ない」
須藤はなんだかんだで承に頼ってしまってる気がしていた。
特に奏に関しては完全に承に押し付けてる感じなのである。
その理由は承が一番、奏の扱いが上手いからである。
須藤と燐には言い訳して何とか誤魔化そうとするが、承には一切それが通用しないため時間たっぷり訓練させられているからである。
「今回の任務は奏の魔法感知と【聖気】と【幻魔術】が鍵になる」
「・・・・・・え?【聖気】って回復魔法を強めるだけのアレですよね」
今はなきスキル研究局の見解ではそういうスキルだという話しなのである。
「あまり知られてないようだが、アレは使いこなせるようになるとデバフスキルに変わる。獣人とは別の種族、俺達が天使と言っていた奴等が持っていたスキルだ。だから知っている」
「え?そんな効果があったんですか!」
「【聖気】の本来の能力は魔法に副次的な効果を追加するというもので、【幻魔術】で扱える魔法なら問題なく扱える」
承も【聖気】の与える副次的効果は分かってないが、属性ごとに変化することを理解しており、回復魔法の効果が良くなる理由はこの副次的効果が影響してるからである。
「俺の中ではデバフは攻撃魔法だからな。その理由は威力こそないが、それは相手の力を削ぐ魔法だからだ」
承は使いようによっては厄介な力という印象が強いスキルが【聖気】であった。
「この【聖気】、属性ごとに副次的な効果が変わるんだが、【幻魔術】に関しては魔法の内容によって副次的な効果が変わるという特徴がある」
「つまり、奏さんはバフだけじゃなく本来ならデバフも使えたという事ですか?」
「ああ、聖蘭の時もそうだが、こいつみたいなサポーターとヒーラーのスペシャリストみたいな奴が埋もれてる事が理解出来ないんだが。もしかすると他にも埋もれてしまってる奴がいても不思議ではないな」
承は聖蘭や奏のように間違ったスキルの知識により埋もれてる者がいる可能性を感じていた。
「確かにそうなると結構いそうですね。まったく、スキル研究局は本当に面倒な事をしてくれました」
今の現状があるのは、スキル研究局による影響が大きくスキル研究局がなくなった今でも彼等の間違った知識を信じてる者がいるくらいである。
「さて、向こうも配信のピックアップの切り抜きを見終わったところか」
奏と燐は二人で切り抜き動画を見ていた。
「・・・・・・」
「いやぁ、分かってるけど。あの最後の一刀両断は何度見ても痺れるね。アレを見ると僕もまだまだ強くなれるんだなって気がするよ」
奏は一人呆然としており、燐は真那華が巨龍を一刀両断した場面に感動していた。
「どうした?現実を見て絶望したか?それがあんたが超えると言った奴だ」
「・・・・・・ふざけんじゃないわよ。何なのあの滅茶苦茶な強さ!アレを超える?馬鹿じゃないの!自分の馬鹿さ加減に亜然としちゃったわ!嘘であって欲しかった。フェイクであって欲しかった。そう、これが奏が目を逸らして来た現実なんだね」
奏は自分に対する怒りと絶望、呆れ様々な感情が入り混じっているが、歯を食いしばり悔しがっている。
「それで、どうするんだ。やるのか諦めるのか?俺はあんたを真那華のようにしてやる事は出来ないが、それなりに戦えるようにする事はできる」
「・・・・・・それは本当なの?」
「あんたが本当に強くなる気があればだがな」
承は奏のやる気しだいだと思ってる。
「やる。やってやるわ!奏なりのやり方で奏の目指す方向でマナを超えてやるんだから!力を貸してもらうわよ。師匠!」
「そうか、・・・・・・師匠か」
「それとあんたじゃないから!奏には奏という名前があるんだからそっちで呼んでよね」
そして、承は奏という初めての弟子を持つのだった。
(確かに承の言ってる事が事実なら、間違いなくこの任務の鍵は彼女が握ってる。でも【聖気】がそんなスキルだとは知らなかったよ。しかも、【幻魔術】は魔法の内容によって副次的効果が変わるデバフを撒ける。バフやヒールが出来るだけじゃなく、デバフも撒ける。そもそも【聖気】がデバフスキルなんて誰も知らないんだよね。『バルムンク』を強く出来るいい人材じゃないか、奏ちゃんは未成年だから後でギルマスに相談だね)
燐はギルドのサブマスターとして、奏がここで化ければ『バルムンク』を強く出来る人材だと確信した。
(それとこの能力なら潤ちゃんと相性良さそうなんだよね)
将来的に潤と一緒に組ませて共にダンジョンに潜るのも悪くないと思っているが、この時、燐は奏の手綱を握れるのは承だけだという事を知らなかったのである。




