想定外の超人騎士
権能の眷族の討伐から一週間経った。
その日はA組とB組の合同訓練となった。
訓練の内容は二対二の模擬戦、真那華は当然相棒の聖蘭と組んでいる。
「くっ」
「降参だよ。聖蘭ちゃん強過ぎだ
よ」
真那華と聖蘭 で組んでるが動いてるのが聖蘭のみであり、真那華は《魔狼憑依》の分析をしている。
今、分かっている事は二つ一つが【闘気】の様に身体強化がある事、特に敏捷性の強化が大きいのが特徴がある。
もう一つが武器に纏わせる事が出来ない代わりにデフォルトで【武術】のようなものが付いている。
【武術】と違うところは攻撃が荒々しくまるで獣なのだ。
「聖蘭ちゃんの今の動き人間やめてるよね。普通人は空中で避けながら空中移動して攻撃なんて出来ないんだよ。【軽技】もだいぶ使いこなしてるし、やっぱりこっそりダンジョンに行ってるでしょ!!」
「【魔狼憑依】を使ってると身軽になってる気がするのよね。だから【軽技】であんな事も可能になったのよ。ん?人間やめてないんだけど!!」
真那華に内緒でダンジョンに通ってるうちに【魔狼憑依】と【軽技】の組み合わせが良いことに気付いた。
「いや、ウチでもあんな動き出来ないからね」
「まさか、貴女にそんな事を言われる日が来るとは思わなかったわ」
二人がこんなやり取りをしてると隣が賑わっている。
「おい、アイツってあんなに強かったのか?」
「武器がメイスに変わった上で大盾ってまさか、本来はタンクだったのか?だったらなんで今まで」
「姉の事も関係してるんじゃないか」
潤の姉、黒鉄燐が未知の怪物にやられた事は既に報道されており、その怪物が管理局局員により排除された事も周知の事実であった。
「だが、黒鉄の奴メイスを一度も振るってないぞ。盾で防いで弾き飛ばしてるだけなのに」
「しかもあんな重装備なのになんであんな俊敏なんだよ。二人相手に対処ってヤバ過ぎだろ」
「間違いなく、歴代最強クラスのタンクじゃないか?タンクやる人って少ないから」
潤のその圧倒的と呼べる防御は正に難攻不落、攻撃した所で盾で返され、魔法での攻撃も結界魔法で防がれる。
鉄壁というには生ぬるい、正に難攻不落に相応しいタンクだった。
「次は誰が僕の相手をしてくれるのかな?」
潤がそう言うと誰もが相手を押し付けあっている。
そして、しばらく経ち、その騒ぎを聞き付けた真那華達はそれを見にやって来た。
「嘘でしょ」
聖蘭は今の状況が分からなかった。
二人一組のパーティを五組、計十人を相手に仲間のヒーラーを守り切ったのだ。
潤は決めあぐねてるクラスメイトを見て
「面倒だから纏めてかかって来なよ」
と言ったのである。
その結果がこれであった。
「強過ぎる。やっぱり最強の妹もやっぱり最強だったのか」
「十人相手でも抑え切るってヤバ過ぎ」
「メイス使ったが、一薙ぎで三人再起不能にしたんだが?」
「今気付いたが潤のあのフィジカルに【闘気】の身体強化が乗ってんだよな」
そこでこれを見てる全員が気付く。
(そもそもフィジカルの面で勝てないんだから、凡人が束になったところで勝てっこねーじゃん)
誰も彼もがそう思った時だった。
「さあ、次は誰が僕の相手をしてくれるんだい?いくらでも来るといいよ。僕はお姉ちゃんをあんな事にした怪物を倒すまで負けられないんだ!」
潤は姉が潤を愛しているように潤も姉が大好きなシスコンなのである。
だからこそ、姉をあんな目に合わせた眷属の事は許せないのだ。
「そこの亀さん、ウチが相手になってア・ゲ・ル♡」
「だから、煽るのをやめなさい!」
真那華と聖蘭がその場に乗り出す。
「君達か、僕も君達には思う事があるからね。特に聖蘭ちゃん。君には!」
「えぇ!!私ィ!?」
まさかの自分が呼ばれる予想外の展開に聖蘭は慌てる。
「君、僕のこと落ちこぼれって言ったの忘れてないんだからね」
「気にしなくていいって言ってたじゃない!!」
「社交辞令に決まってるじゃないか!僕だってお姉ちゃんとの約束がなければとっくにやってたよ。それに聖蘭ちゃん、僕の脳が筋肉じゃないかとか筋肉と会話してそうみたいなこと思ってなかった?」
潤の目からハイライトが消え失せそれは姉である燐を彷彿とさせる圧がある。
「ギクゥッ、ど、どうして分かっ・・・・・・」
当然、聖蘭はこの展開に理解が追いついてないと同時に慌てている。
まさか、煽ってる真那華じゃなく自分が怒られてる事に理解が追いつかないのだ。
「どうして、分かるかって。それは僕の目と筋肉達には全てお見通しだからさ」
(あ、やっぱり、この人筋肉と会話する類の人だった)
その一言で聖蘭は一気に冷静になる。
「むむ、また失礼な事を考えていたね。僕の筋肉達は見逃さないよ」
「聖蘭ちゃーん、怖いよー」
潤のそのあまりの筋肉への信頼に真那華は恐怖する。
「だから、もし君達が負けた時は聖蘭ちゃんだけでも卒業するまで僕の筋トレに付き合ってもらうよ。筋肉の素晴らしさを一緒に語り合い、一緒に筋肉道を極めようよ!大丈夫、筋肉は友達、怖くないよ」
「・・・・・・へぇ、いいねぇ、それじゃあ。潤ちゃんが負けたらウチと聖蘭ちゃんのチームに入ってよ」
「構わないよ。勝てるものならだけどね」
潤のその台詞に真那華はすぐに反応する。
「え?私が受けるのに私の意思は?」
「嫌だなぁ、聖蘭ちゃん。ウチも受けるに決まってるじゃん。だからこそ負けられないってもんじゃない?」
真那華は自分にまで罰ゲームを課して自らを追い込み自分を奮い立たせる変態であった。
「何?もしかして、負ける姿を想像しちゃった?らしくないよ聖蘭ちゃん。ウチの知ってる聖蘭ちゃんはそんなつまらない人じゃないんだけどなぁ」
「まったく、仕方ないわね。確かに戦わずに素直に負けを認めるなんて、性に合わないからね」
「やっぱり、ウチの相棒はそうでなくっちゃ」
「誰が相棒よ。頼りにしてるわ。真那華」
二人は潤の罰ゲームを了承し、模擬戦を開始する。
「で、潤さんはどれくらい強いの?」
「うーん、そうだなぁ。聖蘭ちゃんが人間をやめてるなら、アレは・・・・・・人間を超えたような存在かなぁ。はっきり言って未知数、色々試してみないと分からないや」
「だから、やめてないし」
聖蘭は真那華に潤の戦力の見立てを聞くがフィジカルとパワー一辺倒なのと今までの模擬戦の情報もろくにない事から真那華でも分からなかった。
「普通、【闘気】による身体強化って元の身体能力に加算されるから、あそこまで規格外だと【闘気】の身体強化がどうなるか分からないからねぇ」
真那華にとって潤は全くの予測不能、未知の相手だった。
「真那華、まずは私が攻撃を仕掛けるから様子を見て加勢して。狙えるならリーダーのヒーラーの子を狙って」
聖蘭は潤の手の内を真那華に見せる事で対策を考えさせることにした。
ちなみに聖蘭の模擬戦用の武器は水鉄砲である。
しかし、水鉄砲と言っても当たるとそれなりに痛い威力がある。
模擬戦用の銃は聖蘭が銃の使用を可能にしてしまった為、急遽作られる事となったのだ。
勝利条件はリーダーの戦意喪失またはチームメンバーどちらかの降参である。
だからこそ、聖蘭は潤を無視してリーダーのヒーラーであるクラスメイトを狙うため回り込む。
「流石に、その重装備じゃ私の【魔狼憑依】のスピードにはついて来れない・・・・・・!?」
聖蘭は目の前に現れた透明な何かに阻まれる。
「結界魔法!?え?」
聖蘭はこの脳筋が魔法系のスキルを持っているとは想像すらしてなかった。
「無視しないでよ聖蘭ちゃん」
その一瞬の停滞が潤との距離を近付ける。
(嘘でしょ。その装備でこんな速いの!?)
潤はメイスを片手で振るう。
(早いけど)
聖蘭は【軽技】によって空中に逃げる。
(これなら対応出来ないでしょ【閃光撃ち】)
聖蘭は潤の頭部目掛け空中で最速の早撃ちをもう片方の水鉄砲で行う。
「!!」
潤は【閃光撃ち】は易々と盾で防いでいた。
「今の早いけど、見えてるんだよね」
(どうなってんの?この人?【感知】?)
聖蘭は【感知】を使ったと予測するが、潤は【感知】ではなく、動体視力のみで聖蘭の【閃光撃ち】を見切っていたのである。
潤の規格外は聖蘭の想定を遥かに上回っていたのである。
聖蘭は一旦、潤との距離を取ろうとした。
「何これ!?」
距離を取ろうとしたが目の前が透明な何かに阻まれる。
「あれ?【結界魔術】には詳しくない?僕を脳筋だと思ってたのに?これは【壁】、透明な壁を張るだけの初級魔法だよ」
「最初に私を阻んだのもコレね」
聖蘭は最初に阻まれた何かの正体が分かった。
「いいよね。この魔法、使い勝手がいいからね。距離なんて取らせると思う?」
潤は【壁】で味方を守ったり、相手を逃がさない為に活用しているのである。
(あちゃー、完全に潤ちゃんにしてやられてるね。かく言うウチも【結界魔術】は想定外、しかも【壁】を防御じゃなく足止めに使うなんて。はっきり言って戦闘センスは聖蘭ちゃん以上だね)
真那華は潤が脳筋な為、【結界魔術】をまさか使えるとは思ってなかった。
(でも、相手のリーダーはがら空きだぁ)
真那華は潤が聖蘭に釘付けになってる間にリーダーであるヒーラーのクラスメイトを狙う。
(!?!!)
真那華は透明な箱状の何かに閉じ込められる。
「それで僕の隙を突こうなんて、甘くないかい?【感知】が君たちの専売特許とでも思ってる?」
潤は聖蘭の相手をしながら、真那華の存在も忘れていなかった。
「壊しても構わないよ。壊したら掛け直せばいいからね」
「これ、中級の【箱】かなぁ?自分や仲間にかけずに相手にかけるなんて潤ちゃんくらいだよ」
【箱】とは正六面体の箱状の結界で自分を周囲の敵から守る【結界魔術】である。
【箱】の欠点としては【壁】に比べて強度が若干低いところである。
(攻撃捌きながら魔法の溜めを維持するなんて出鱈目やっぱりあのスキルが、あるから出来る芸当なんだよねぇ。攻撃による怯みを軽減する固有スキル【金剛体】かなぁ。魔法の溜めは怯んだら最初からだけど【金剛体】ならそれを解決出来る・・・・・・でも、タンクでそれやる?)
真那華は【箱】を割る為に攻撃しながら思考を巡らせていた。
聖蘭は真那華が作った一瞬の隙に再び攻勢に出たが、その圧倒的な防御に簡単に防がれる。
「僕としては遠くから攻撃出来る君の方が僕にとって厄介なんだよね」
潤からしてみると仲間を遠くから狙える聖蘭を先に潰したいのである。
(まったく、隙が無いわ。・・・・・・一つ手はなくはないけどほとんど賭けね)
聖蘭は一つ賭けに出ることにした。
聖蘭は跳躍し、潤目掛け飛び蹴りを繰り出す。
「そんなもんかい?」
聖蘭は潤の盾に真上に弾かれる。
「それはこっちの台詞!」
聖蘭は潤の盾を踏み台にする為にわざと弾かれたのだ。
賭けと言うのは弾かれる方向の事で聖蘭は最高高度を取った事で賭けに勝った。
そこから、ヒーラーのクラスメイト目掛け水鉄砲を撃つ。
「いや?それを分かった上で聞いたんだよ?【結界魔術】って本来はこう使うものでしょ」
聖蘭の銃撃は全て潤の【結界魔術】、【壁】に防がれる。
「で、後は落下するだけ」
「ッ!!くはっ」
潤は落下して来た聖蘭をメイスでバッターがボールを打つように振るうと聖蘭が吹っ飛ばされる。
「ホームラーン、なんてね」
聖蘭は【軽技】で直撃はなんとか回避し、かろうじて立ち上がったが、潤のその一撃は、聖蘭を場外へ吹き飛ばした為、聖蘭は復帰出来なくなった。




