権能の眷族
『森林の樹海』等の各層があるダンジョンはクリアした層をスキップ出来る転送装置が備わっているが、その層をクリアした事があるメンバーが最低一人いないとならないのである。
S級の黒鉄燐率いるパーティは、二層をクリアしてる者が一人もおらず、二層からのスタートとなった。
「まさか、葵が来てくれるなんてね。助かるよ」
三菱葵は燐が認める数少ない優秀なタンクである。
「ギルマスが行けと五月蝿いので仕方なく」
ギルマスこと西宮院昴は、燐が無茶をしないようにNo,2の葵を付けたのだ。
「ねぇ、葵ってギルマスの事好きだから側近やってるの?」
燐は葵に遠慮なく昴との仲を尋ねる。
「好きですが、悪いですか?」
「え?マジで言ってんの?」
予想外の答えに燐は驚く。
「あの疲れた目がたまりません」
「僕が言えた義理じゃないけど葵もなかなか歪んでるね」
「・・・・・・来ます!」
襲いかかる巨大な黒毛の熊の怪物『ブラックグリズリー』、他のダンジョンにも出没することそこまで変わった怪物ではないがここ『深淵の樹海』には『生命と再生』の権能の力が及ぶため、怪物がその権能の影響を受ける。
『ブラックグリズリー』の突進を葵が盾で受け止めると燐が二刀流で『ブラックグリズリー』を連続で切り裂く。
「今だよ!」
「はい!【フレイムランス】」
燐が指示すると青年の魔法使いが放つ炎の槍が『ブラックグリズリー』の腹を貫くと『ブラックグリズリー』は倒れる。
「流石に上級魔法は強いね。惚れ惚れするよ」
「きょ、恐縮です」
「うん、その調子で頼むよ」
燐は魔法使いの青年に激励する。
『ブラックグリズリー』や外殻が樹脂で覆われたような巨大なクワガタのような外殻を持つ怪物『レジンドルクス』、酸性の液と触手で攻撃し呑み込もうとしてくる植物の怪物『グールプラント』が次々出て来るが燐のパーティというよりほとんどを燐が倒してしまう。
「燐さん、僕いります?全然役に立ってない気が」
ヒーラーの男が不安そうに燐に声をかける。
「だって君、ヒーラーでしょ。むしろやる事がない事を喜ぶべきだよ。つまりそれは誰も大きな怪我を負ってないって事だからね。流石、葵だ」
(潤ちゃんなら、あの程度造作もないでしょ)
「!?」
燐の耳元で聞こえてはいけない声が聞こえた気がした。
「燐さんどうました?」
魔術師の青年が心配する。
「いや、大丈夫だ。このまま進もう」
「燐さん、あの怪物何でしょう。様子がおかしいような」
燐達の目の前に『ブラックグリズリー』に似てるが一回り大きい怪物がいる。
「ただのでかい『ブラックグリズリー』だろ、怪物は倒すだけさ」
「ちょっ!?」
葵の静止を振り切り、燐は怪物に攻撃を仕掛ける。
「【螺旋斬】」
燐は怪物目掛け回転し、連続の斬撃をお見舞いする。
あまりの攻撃の激しさに怪物は怯む。
「まだまだぁ【乱舞斬】」
燐は怪物に不規則な斬撃を連続でお見舞いする。
「魔法頼むよ」
「はい【フレイムランス】」
燐の手が止まるとほぼ同時に炎の槍が怪物の腹を貫くと怪物の動きが止まる。
「やっぱり大した事ないじゃないか。葵は心配しす・・・・・・ぎ・・・・・・」
「ウグガアアアアアアアアアアアアアア!!」
怪物は突然、ゆっくり立ち上がり耳を塞ぎたくなる大きな雄叫びをあげると頭の左右に樹木の枝のような歪なツノを生やし、肩や腕などからも植物のような棘が生えてくる。
与えた傷は全て回復し、腹に空いた穴は樹脂で埋めたような歪な再生をしていた。
そして、その怪物の纏う暗緑色のオーラは不気味に揺らめいている。
過去、アメリカ南部にある『滅亡と崩壊』の権能のダンジョン『焦土の国』に一度だけ現れ、潜行者達を絶望させ全滅させた起源ダンジョンのみに出現するシークレットエネミーという存在であり真那華が権能の眷族と言っていた怪物である。
「な、な、な、何だコイツは!!今まで与えたダメージが消えた?いや、回復したのか?」
燐は想定外の出来事に混乱する。
「もう一度、魔法で風穴を空ける。次は極級の【フレイムジャベリン】だ!確実に仕留める。時間稼ぎは僕と葵がやる!」
「仕方ないですね」
眷族は飛びかかるとそれを葵が防ごうとした時だった。
「!?」
眷族が攻撃と同時にオーラが爆発的に増し腕が硬質な植物の棘で覆われる。
「カハッ!?」
葵は盾を構えていたが簡単に吹き飛ばされる。
「葵!?」
燐は何が起きたのか分からなかった。
「・・・・・・撤退だ、葵を連れて逃げろ。こうなったのは僕の責任だ。後で追いつく」
葵が倒された事で前線の維持が困難となった為、撤退の判断をリーダーとして燐は下した。
「は、はい」
ヒーラーの男性は魔法使いの青年と一緒に葵を抱え入って来た転送装置に向かう。
しかし、眷族は燐ではなく葵を狙っている。
「【螺旋斬】」
燐は注意を引く為に攻撃するが、傷を付けたそばから回復して傷が塞がりダメージを与えられず、葵を狙う怪物は燐の相手を無視する。
「僕を無視するなああああ【無双連斬】」
燐は無数の斬撃を怪物にお見舞いしてるが標的は葵から変わらない。
眷族は燐など取るに足らないと判断したのか相手にしない。
それ以上に怪物にとって葵は自身の攻撃を耐えた事で眷族の玩具として目を付けられてしまったのだ。
(やっぱり、君弱いなぁ。力・・・・・・貸そうか?)
「五月蝿い」
(でも、このままじゃ、君の唯一の親友が死んじゃうよ?いいのかなぁ?いいのかなぁ?)
「黙れ」
頭から聞こえる声は治まりはしない。
(いいから、使いなよ。君の固有スキルをさ。君の価値なんてコレしかないんだからさ。だって、コレでS級になったようなもんでしょ)
彼女の二つ名である双刃は二刀流で戦うことではない彼女の使う固有スキルがこの二つ名を現しているのだ。
「もう、いい加減黙っててくれないか」
燐は眷族の背中に刃を突き刺しもう片方の剣で眷族の背中を何度も何度も突き刺す。
(無駄だって、もう諦めて固有スキルを使おうよ。その方が楽だよ・・・・・・ね♪)
「・・・・・・」
(あらら、だんまりか、寂しいじゃん。もっと。会話しようよ。燐ちゃん。ねぇねぇ)
頭の中の声が燐の集中力を乱して来る。
それでも一心不乱に眷族の背中から落ちないように刺した剣をしっかり握り、何度も剣を突き刺す。
(だーかーらー、無駄だって言ってるよねー。聞いてるー?)
燐の頭の中に語りかける声は、燐に諦めるよう促す。
眷族も背中にいる燐が鬱陶しくなって来たのか、燐を振り落とそうとするが、燐は両方の剣を刺し耐える。
「アガアアアアアアアアアアアアア!!」
眷族は雄叫びをあげ燐を何度も振り落とさんとする。
ここで、燐は気付いた。
「なるほど、回復はするが痛みがない訳ではないんだね」
「【螺旋穿突】」
燐は今度は剣に纏う闘気を螺旋状にし回転させ何度も突き刺す。
「アガッ!!」
その背中の痛みにより眷族は体が足がよろけその場に転ぶ。
燐は倒れる直前に眷族から離れた。
そして、眷族はやっと燐に視線を向ける。
「やっと、こっちを向いたね」
眷族は獲物を葵から燐に変更した。
(で、どうするの?葵はもういないんだよ?まさか、君・・・妹が超人体質だから自分もだと思ってる?残念ながら君は凡人なんだよ。ぼ・ん・じ・ん)
「君の狙いは分かってる。だから、絶対に使ってやらない!」
眷族の攻撃は威力こそあるが、まだ避けられない速さではないのは燐にとって不幸中の幸いだった。
(そんな強がったところでこいつを倒す方法も逃げ切る方法もないんでしょ。いい加減強がらずに使おうよ)
燐の頭の中の声はあの手この手で固有スキルを使わせようとしてくる。
(頑固だなぁ。でも、それは僕も一緒なんだよ。君も分かるよね。だって、僕は君なんだからさ)
燐は目の前の眷族と頭の中の声と戦う事になってしまった。
燐は逃げながら眷族を翻弄し、葵達が逃げ切る時間を稼いだ。
燐を除いた『バルムンク』のパーティが管理局に戻ると管理局は騒然としていた。
その理由は葵が大怪我を負っていたのと、何とか無事だった二人に話を聞くと緊急会議が開かれる。
「それでは報告を聞こうか」
管理課課長、陸奥一は大声で声を発する。
「黒鉄燐率いるパーティが起源ダンジョン『深淵の樹海』にて歪な枝の様なツノが生えた暗緑色のオーラを纏う『ブラックグリズリー』が現れ、その『ブラックグリズリー』の強さは通常の『ブラックグリズリー』の常軌を逸していており、黒鉄燐が囮となり三人を逃したという報告を受けている」
答えたのは研究課課長北条誠一は、更に続ける。
「この怪物は九年前、アメリカの起源ダンジョン『焦土の国』に現れた。シークレットエネミー『カタストロフィ』に類似点が多く、シークレットエネミーである事には間違いないと思われる!」
その北条の発言により会議室が騒然とする。
「それは間違いねえのか?」
北条の発言に南場は確認をする。
「間違いなくシークレットじゃないかと!葵さんは意識を失っており、答えられなかったが、二人のパーティメンバーが同じ事を言ってたから間違いない」
「・・・・・・そいつはまずいな」
北条は再度答えると南場は少し考えた後に答える。
「南場、何がまずいんだ?」
一は南場に尋ねる。
「『カタストロフィ』が出現した後、起源ダンジョンの周辺はどうなった?忘れたとか言うんじゃねえぞ」
南場がその話しをすると更に会議室の中が騒然としてしまう。
それは当然の話しで、『カタストロフィ』が出現しダンジョン攻略パーティが全滅してしばらくすると地上に『カタストロフィ』が出現したのである。
その『カタストロフィ』は権能の影響下でなかったからか弱体化はしていたが、多くの犠牲を出し討伐には成功した。
今回が同じになるかは分からないが前例がある以上そうなる可能性があるのだ。
「それと、黒鉄燐はどうするんだ?救援は?」
その話しを南場がすると騒がしかった会議室が静かに沈黙する。
それは、黒鉄燐の生存が絶望的だからである。
(まぁ、気持ちは分かる。どう考えても生存は絶望的だ。これは考えうる限り最悪な想定外・・・・・・)
そう南場が考えていた時だった。
「南場さん、一つ妙案が・・・・・・」
南場が悩んでいると承が小声で話す
「いいのか?」
「俺は管理局の人間だ。それにお世話になってる人達に恩を返したい」
「まったく、お前って奴は・・・・・・最高だよ」
南場は承が頼りになる自分の右腕なのを忘れていた。
「一つ提案がある」
「・・・・・・なんだ?」
一は考えがまとまらずイライラした返事をする。
「黒鉄燐の生死の確認及び生存の場合は保護をする方法があると言ったらそれに賭けられるか?」
「イカれてる場合か南場!!そんな方法・・・・・・」
「いや、それがあるんだ。一さん」
「ナニッ!」
一は南場の提案をイカれた妄言と切り捨てようとしたが、何をするか察した北条が助け舟を出す。
「本当にそんな方法があるなら聞こうじゃないか?」
「この雑務課副課長、この宗像承をダンジョンに突入する許可さえいただければ全て解決する」
「・・・・・・は?本気か!!ちなみにランクは?」
「C級だが、実力だけなら黒鉄燐以上だ。断言してもいい」
「C級で黒鉄燐以上だと!ふざけるのも・・・・・・」
一は南場が悪ふざけをしていると思っている。
「俺がこんな状況でふざけた事があるか?」
「・・・・・・た、確かにないな。分かった許可をやろう。宗像承管理官頼んだぞ」
「分かった」
承はその場から虚空へ消えた。
「消えた!?一体、彼のスキルは!?」
承がいきなり消えた為、一は何が起きたのか分からなかった。
「まぁ、事情を知らないとそうなるよな」
南場と北条は簡潔に承について説明するのに時間を用した。
それは一がたくさん質問して来たので会議の内容が承についてに変わったようだった。




