狼くんはまた失恋したらしい。
狼の系統にとって、満月の日の失恋は辛い。
わたしにも経験がある。
この規律で固められた大都会なのに、満月の日、誰かの心の中の狼が遠吠えをした。犬笛の様に普通の人間には聞こえることはない遠吠え。
誰にも聞こえないその遠吠えは、わたしのような狼信仰のある村出身者には、聞こえる事がある。
何世代前の先祖が狼信仰のある村出身者だとしても。
狼の守りが遺伝子に組み込まれているものかは解らない。
満月の夜に、心が震えるような、その遠吠えは犬笛の様に、大都会に鳴り響いた。
「愛してるのに!愛してるのに!なぜ?!」
そんな叫び。
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そんな満月の日、わたしはその種の遠吠えを聞いた。
普通の人には聞こえないその声を。
わたしは、その声がする場所を、一晩中探した。
一体どんな奴なのか興味があったのと、心が震えたのと、何より血が求めたから。
真夜中のラーメン屋で焼き飯を食べた後、ラーメン屋の前の公園で、そいつを見つけた。
近くで聞くと、さらに激しく悲しい遠吠えだ。
公園のベンチに座っている男は、放心状態で空を眺めていた。
良く見ると懐かしい幼馴染だった。
「遠吠え、お前かよ」
わたしの声に、そいつは見上げ、わたしを見つめた。
懐かしい。
こいつ、昔わたしがふった時も、こんな顔をしてた。
愛おしい表情だ。
わたしは冷たい麦茶を手渡し言った。
「これ飲んで落ち着けよ」
完




