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婚約破棄された瞬間に実は真の聖女で結界を支えていたことが判明したので、ついでに前世の記憶を思い出してステータスカンスト内政無双を開始し、隣国皇帝と氷の公爵と獣人騎士と魔王に求婚されました。

掲載日:2026/05/05

「リディア・フォン・アランシュ!貴様のような醜悪な悪女との婚約を、私は今この瞬間、破棄することを宣言する!」


 王立アカデミーの卒業パーティ。豪奢なシャンデリアが眩い光を放つ大広間の中央で、王太子アルフォンスの怒声が響き渡った。

 彼の傍らには、まるで怯える小鹿のように体を震わせ、彼の腕にすがりつく男爵令嬢メアリ・ブリッコの姿がある。


「ひどいですリディア様……私を階段から突き落としたり、教科書をズタズタにしたり、私のドレスにワインをかけたり……ああっ、思い出しただけで怖くて涙が……!」


 メアリのあざとい嘘泣きに、周囲を取り囲む高位貴族たちは一斉に「なんてことだ」「やはり悪役令嬢だな」「王家の面汚しめ」と、リディアに向けて軽蔑の眼差しを向けた。

 中には、リディアの実の父親であるアランシュ公爵すらも、「ふん、我が家の恥晒しが」と冷たい視線を送っている。


 だが、当のリディアは呆然と立ち尽くしていた。

 悲しみでも、怒りでもない。その脳内には、今まさに巨大なダムが決壊したかのように「前世の記憶」が濁流のごとく流れ込んでいたからだ。


(……あ、これ。日本で死ぬほどやり込んだ乙女ゲーム『クリスタル・ラブ』の、伝説のクソイベント「断罪の夜」じゃない……!)


 前世の彼女は、連日徹夜のブラック企業に勤める社畜OLだった。過労の末に横断歩道でトラックに轢かれた記憶が、鮮明に蘇る。

 そして自分が転生した先が、乙女ゲームの悪役令嬢リディアであること。今日がまさに、彼女が破滅を迎えるシナリオの分岐点であることに気づいたのだ。


 突如、視界の端に半透明のシステムウィンドウが出現し、機械的な音声が脳内に響いた。


『──警告:プレイヤーの前世記憶の統合を完了しました。隠し条件クリアにより、プレイヤーランクを「モブ悪役」から「神」に変更します』

『──ログインボーナスを支給します。全ステータスが9999に固定されました』

『──特典スキル【全属性魔法極】【超・創造魔法】【物理演算無視】【状態異常完全無効】を獲得しました』


(なるほど。神ゲーね)


「リディア!聞いているのか!貴様の悪事はすべて暴かれているのだ!何か言い訳はあるか!」


 得意げに言い放つアルフォンスの叫びを、リディアは鼻で笑った。

 先ほどまでの絶望に満ちた表情は消え失せ、彼女は優雅に扇子を広げると、氷点下の眼差しで王子を射抜いた。


「左様ですか。殿下、そのメアリさんが、昨夜あなたの側近である騎士と密会して王国の軍事機密を隣国に横流ししていた記憶、今からここにホログラムで投影しましょうか?」


「な、なんだと!?でたらめを言うな!」


「【全知魔法:過去視プロジェクション】」


 パチン、とリディアが指を鳴らした。

 次の瞬間、魔法陣が空中に展開し、大広間の天井付近に巨大な映像が浮かび上がる。そこには、メアリが悪徳商人と密会し、「王子なんてただの駒よ。あのバカ、私が泣けば何でも言うこと聞くんだからウケるわ〜」と下品に笑いながら密約を交わす姿が、フルHD画質で鮮明に映し出されていた。


「ひ、ひぃ!何よこれ、消しなさいよ!」

「なっ……メアリ、これは……どういうことだ!?」


 会場が騒然となる中、リディアはさらに冷酷な一撃を放つ。


「さらに。お父様」


 リディアは、会場の隅で顔面を蒼白にしている公爵家の父に向き直った。


「私が今まで、この国の『国家守護結界』を無償で維持していたこと、忘れたとは言わせません」

「な、何を馬鹿な!結界は代々王家の聖女が……」

「いいえ。真の聖女は私です。王家の血筋などというものは建前で、私の魔力を地下室で吸い上げていたのはご存知のはず。メアリさんは、ただの『魅了チャーム』の使い手ですよ。彼女に結界を張る力など微塵もありません」


 リディアはドレスの裾を翻し、冷たく言い放つ。


「私を冷遇し、あまつさえこの国から追放するというのであれば、今この瞬間をもって結界の維持を放棄します。慰謝料代わりに、これまで提供した魔力代100億ゴールド、後で請求させていただきますね」


「待て!やめろリディア!」


 リディアが右手を天に掲げ、ギュッと握りつぶす。

 その瞬間、王国の空を覆っていた目に見えない膜が、ガラスが割れるような凄まじい轟音とともに粉々に砕け散った。


 パリンッ!という音とともに、絶対的な平穏を約束していた結界が消滅した。

 途端、会場の窓の外が禍々しい赤黒い色に染まる。


『ギシャァァァァァ!』


 空を覆い尽くすほどの数千、数万という魔物の咆哮が夜の街に響き渡った。はるか上空から、伝説の巨竜が炎を吐き出しながら王城の尖塔を薙ぎ払うのが見える。


「ぎゃああああ!魔物だ!」

「結界が消えた!?嘘だろ!?」

「リディア、戻れ!結界を張り直せ!私が悪かった!」


 アルフォンス王子が這いつくばってリディアの足元にすがろうとするが、リディアは【物理演算無視】のスキルで彼の手をすり抜けた。


「もう遅い(おそい)です。私は今日から自由になりますから。どうぞ、お幸せに」


 彼女は空間を指先で切り裂き、異次元ゲートを開く。

 絶叫と悲鳴に包まれる王国を背に、リディアは光の中に足を踏み入れ、優雅に姿を消した。


 リディアが転移したのは、隣国ドミナント帝国との国境付近にある「死の荒れ地」だった。

 見渡す限りの赤茶けた大地。空気には毒の霧が立ち込め、草一本生えない絶望の地である。普通の人間なら数分で肺が焼け爛れて死ぬ環境だ。

 しかし、ステータス9999かつ状態異常無効のリディアにとっては、そよ風のようなものだった。


「さて、まずは住環境を整えましょうか。どうせなら、前世の便利さを取り入れたいわね」


 彼女が地面に手を触れる。

「【超・創造魔法:スマートシティ・ビルド】」


 ズズズズズズズッ!と激しい地響きが鳴る。

 一瞬にして、広大な荒れ地の地殻が変動し、ガラス張りの超高層ビル群、綺麗に舗装されたアスファルトの道路、無尽蔵に湧き出る美しい噴水公園、そして全域をカバーする無料の魔力Wi-Fi網が出現した。

 さらに浄化魔法を広域展開し、毒霧を完全に消し去って空をどこまでも澄んだ青に変える。


「完璧ね。お次は食事。この世界、塩と香草しかなくて調味料が少なすぎるのよ。社畜時代のご褒美だった深夜のジャンクフードが恋しいわ」


 リディアは空中に魔法陣を描き、前世の記憶から『究極のマヨネーズ』と『最高級の本枯節からとった黄金の出汁』を錬成した。さらに焼き立てのフランスパンも作り出す。

 その香ばしく暴力的な旨味の香りが、誰もいない街に漂い始めた時だった。


「……貴様、何者だ。俺の領土の辺境に、勝手に謎の超巨大都市を作るとは、いい度胸をしている」


 背後から凄まじい殺気と威圧感が迫った。

 振り返ると、漆黒の外套を纏い、血塗られた大剣を構えた男が立っていた。隣国ドミナント帝国の若き暴君、ゼオン皇帝だ。


「あら、ご挨拶ですね。私はただの追放された悪役令嬢ですよ。ちょうど食事ができたところです。マヨネーズ、食べます?」


 リディアが動じることなく差し出した、温かい出汁スープとマヨネーズをたっぷり塗ったパン。

 ゼオンは「毒味か」と警戒しつつも、その未知の香りに抗えず一口かじった。


 直後、カラン、と彼の大剣がアスファルトに落ちた。


「な、なんだこの旨味は……!卵と油と酸味の奇跡的な黄金比!そしてこの透き通ったスープの奥深さはなんだ!俺の求めていた真の『覇道』は、血の中ではなく、この味の中にあったのか……!」


 ゼオンは感極まった表情でリディアの前に跪き、その手を取った。


「面白い女だ。俺の帝国を半分やる。いや、俺の全財産と俺自身を貴様にやる!俺の妃になれ!」

「ええ……。まあ、考えておきます。後ろがつかえてるみたいなので」


 ゼオンがプロポーズしている横を通り抜け、街の門から銀髪の美男子がよろよろと歩いてきた。

 触れるものすべてを凍らせるという「氷の公爵」の異名を持つ、カイン辺境伯だ。彼はリディアの作る出汁の香りに誘われ、三日三晩不眠不休で馬を走らせてきたという。


「……美味い。俺の凍てついた心が、この黄金色の液体で溶けていく……温かい……母上……」


 カインは出汁をすすりながらボロボロと涙を流し始めた。


「リディア殿、俺の領地はすべて君のものだ。だから一生、俺のために味噌汁を作ってくれ」

「出汁しか出してないんですけど」


「バウッ!俺は犬として仕えます!」


 さらにどこからともなく、巨大な銀狼が飛び出してきた。伝説の獣人騎士フェンリルだ。彼は空中で人間の青年の姿(犬耳と尻尾付き)に変化し、激しく尻尾を振りながらリディアの足元に飛び込んできた。


「俺の鋭い嗅覚が、あなたが世界で一番美味しいご飯を作ってくれる主だと告げている!一生モフっていいですから、残飯でいいので食べさせてください!」


 リディアは彼らの頭を適当に撫でながら、ふと思いついて伝説の聖獣グリフォンの「ポチ」を召喚し、そのモフモフの毛並みに顔を埋めた。

 皇帝、公爵、伝説の獣人が、一人の令嬢にひれ伏している異常な光景。


「あらあら、みなさん。たかがマヨネーズと出汁でそんなに興奮して……私、何かやっちゃいました?」


 それから数日。

 マヨネーズ・シティは、リディアのチート能力と四人の攻略対象(ゼオン、カイン、フェンリル)の働きにより、世界最高の経済大国へと急成長していた。


 一方、かつての王国は完全に魔物の巣窟と化していた。

 結界を失った国はたった一日で崩壊し、王子アルフォンスや公爵家の人々は、命からがらリディアの新都市に逃げ込んできた。彼らは泥まみれで、見る影もない。


「リディア!頼む、戻ってきてくれ!私が愚かだった!メアリは実は魔王の依代よりしろだったんだ!国が滅んでしまう!」


 ボロボロになったアルフォンスが、土下座をして泣き叫ぶ。

 だが、リディアが冷たい言葉を返す間もなく、都市の上空の空が真っ二つに割れた。


『グオオオオオオオオオオ!』


 空間の裂け目から現れたのは、巨大な漆黒の肉塊だった。メアリの肉体を突き破って完全復活を果たした、伝説の魔王である。


「グハハハ!絶望しろ、人間どもよ!このメアリという小娘のあさましい嫉妬心を糧に、我はついに……」


「うるさいわね。今、みんなで新作のスイーツの試食会をしてるの」


 リディアは紅茶のカップをソーサーに置くと、魔王に向かって優雅に右手を掲げた。


「【極大魔法:デトックス・バースト・オーバーロード】」


 パチン。

 リディアの指鳴らしとともに、宇宙の創世を思わせる凄まじい閃光が世界を包み込んだ。

 魔王の禍々しい姿や放っていた瘴気は、一瞬にして光の粒子に分解され、浄化されていく。


「な、なんだこの理不尽な光はァァァァァ!?」


 断末魔とともに光が収まった後、そこに巨大な魔王の姿はなかった。

 代わりに空から落ちてきたのは、漆黒のコウモリの翼を生やした、愛らしいショタ美少年だった。


「……あれ?ボク、何を……。お姉様、ボク、悪いことしてた?」


 完全に邪気が浄化され、ただの可愛い生き物となった元魔王ルシファーは、リディアのスカートの裾を掴んで上目遣いで見つめてくる。


「ええ、少し寝ぼけていただけよ。いい子にするなら、おやつにマヨネーズトーストにハチミツをかけたものをあげてもいいわよ」

「わーい!お姉様大好き!」


 もはや戦う必要すらなくなった。

 目の前で魔王をワンパンで沈めたリディアの圧倒的な力に、皇帝ゼオン、氷の公爵カイン、獣人騎士フェンリル、そしてショタ魔王ルシファーの四人は、改めて彼女への愛(と胃袋への執着)を深めた。

 世界を揺るがす四人の英雄たちが、リディアを取り囲んで一斉に叫んだ。


「「「「俺と(ボクと)結婚してくれ!!!!」」」」


「はいはい、分かりましたよ。争うのは禁止です。全員まとめて面倒を見てあげます。創造魔法でベッドも食卓もいくらでも大きく作れますからね」


 こうして、リディアは四人の夫とモフモフの聖獣を侍らせ、マヨネーズと出汁の香りに包まれた世界帝国の絶対的な女帝として君臨した。彼女の作る料理と超魔法により、世界からは争いが消え、永遠の平和が訪れたのである。


 ちなみに。

 元王子のアルフォンスと、リディアを冷遇した実父たちは、街の地下に作られた「無限に汚物が溢れ出し、掃除をサボると電流が流れる無限肥溜め」の専属清掃係として、24時間365日休みなしで元気に働かされることになった。


「あーあ、今日も世界が平和で退屈ね。……私、何かやっちゃいました?」


 最強の悪役令嬢の不敵な微笑みとともに、物語は最高のハッピーエンドを迎えるのだった。


【完】


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