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第七話「ノイズ」

 問題が起きたのは、それから二週間後だった。

 田辺が来なかった。

 連絡なしに、農地への出勤を無断欠勤した。橋本に確認すると、「探してる」という返事が来た。その翌日も来ない。三日目に、橋本から電話があった。

「田辺、捕まった」

「警察に?」

「違う。別の筋に借金があってな。取り立てに遭うて、今入院しとる。しばらく動けへん」

 大島は電話を切って、少し考えた。

 想定外だ。

 田辺のエージェント設定には、負債パラメーターがあった。しかし、この時期にこのタイミングで機能するとは計算していなかった。農作業の人員が突然欠けた。代替の手配が必要だ。

 それ自体は、対処できる問題だった。

 問題は、そこではなかった。

 大島が気になったのは、「なぜこのタイミングなのか」ということだった。

 農地の整備がほぼ終わり、マオウが根付き、工場の試験稼働も済んで、これから本格的に動き出すという時期。その直前に、主要な人員の一人が欠ける。

 偶然か。

 それとも、これはシミュレーターの自己修正機能か。

 大島がこのシミュレーターを設計する際、一つの仮説に基づいてある機能を組み込んでいた。システムに対して過大な影響を与えるプレイヤーが存在した場合、周囲の環境が統計的に不利な方向へ収束するという機能だ。

 名付けて、「補正アルゴリズム」。

 これは、大島自身の世界観から来ていた。この現実世界にも、同じ機能があるはずだと、大島は考えていた。シミュレーションの管理者が、異常値を示すプレイヤーを排除しようとする機能。大島が現実世界で「乱数の癖」を突いて巨大な富を得られた一方で、様々な場面で不可解な不運に見舞われてきたのも、その補正アルゴリズムが働いていたからではないかと、大島は解釈していた。

 だとすれば、今のこれは、テストだ。

 俺がこの世界に与えたノイズへの、補正反応だ。

 大島は橋本に電話を折り返した。

「田辺の代わりを手配してください。条件は同じで構いません」

「早いな。動揺しとらんのか」

「動揺しても農地は育ちませんから」

 橋本は低く笑った。「ほんまに変わった男やな、大島はんは」

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