第十九話「山田の答え」
山田から呼び出しがあったのは、翌日だった。
今度は昼間だった。場所は同じ日本料理屋の個室だった。
大島が入ると、山田と橋本が並んで座っていた。
山田の顔は、いつもより少し疲れて見えた。
「座り」
大島は座った。
「竹内の件、決着した」山田は言った。
「どう決着しましたか」
「竹内組の若頭を呼んで、話をした。二度目はないと伝えた。わかったはずや」
「田辺への接触も止まりますか」
「止まる」山田は言った。「止まらんかったら、俺が動く。それも伝えてある」
大島は頷いた。
「ありがとうございます」
山田はしばらく大島を見た。
「大島はん、一つ聞いてええか」
「はい」
「田辺いう男のこと、気にしとるな」
大島は答えなかった。
「橋本から聞いた。今日、農地で田辺に声をかけたそうやな。体を心配して」
「現場の人員を気にかけるのは当然だと思います」
「そういう意味やない」山田は言った。「あんたがそれをしたことが、意外やったんや」
「なぜですか」
「あんたは普段、人間を見る目が違う、と前に言うたやろ。遠くから見とる目や、と。でも今日の話を聞いて、少し違うと思った」
大島は山田を見た。
「変わってきとるんやないか、あんたが」山田は言った。静かに。「最初に会うた時と、今とで」
大島は黙っていた。
「ええことや」山田は言った。「俺はそう思う」
「なぜですか」
山田は少し考えた。
「変われん人間はな、どこかで折れる」山田は言った。「この商売で長く生きてきた人間を見てきたけど、変われん人間は必ずどこかで壊れる。自分の中の何かが固まりすぎて、割れる」
「変われる人間は違いますか」
「違う。変わりながら、曲がりながら、それでも折れずに生きていく」山田は言った。「俺もそうやってきた。あんたもそうなるかもしれん」
橋本が隣で黙って聞いていた。
大島は山田を見た。
このエージェントが言っていることの意味を、大島は考えた。
変わる。
俺は変わっているか?
変わっている。
それは、否定できなかった。
吉岡の手の震えが気になった。橋本の疲れた横顔が気になった。田辺の痩せた体が気になった。
それらは、シミュレーターを始めた当初、大島が持っていなかった感情だった。
変わっている。
「一つ聞かせてください」大島は言った。
「何や」
「山田さんは、俺に変わってほしいと思っていますか。それとも、変わっていることを心配していますか」
山田はしばらく大島を見た。
それから、小さく笑った。
「両方や」山田は言った。「変わらんと折れる。でも、変わりすぎると、この商売には向かんようになる」
「どちらがいいですか」
「そんなもん、自分で決めることや」山田は言った。「俺が決めることやない」
帰り道、橋本と並んで歩いた。
しばらく何も言わなかった。
「山田の兄さん」橋本が言った。「あんたのこと、本気で気にかけとるで」
「わかっています」
「わかっとるか」橋本は言った。「俺が三十年前にここに来た時、同じように言うてもらった。あの人に。変わりながら生きていけ、と」
大島は橋本を見た。
「それで、変われましたか」
「変われたかどうかわからんけど」橋本は言った。「折れずにはおる」
二人は並んで歩いた。
秋の夕方の光が、路地に斜めに入っていた。
大島はその光の中を歩きながら、一つのことを考えていた。
俺はいつ、フェーズ2に移るのか。
答えが出なかった。
出ないことが、今の大島には、何かを意味していた。




