表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢の弟ですが、姉の婚約者の執着王子様に甘いお菓子で餌付けされています。  作者: 藤海さや


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/25

09 第一王子に餌付けされる。




 目が覚めると、誰かの腕の中で抱き締められていた。温かくて心地良い。顔をすり寄せると、嗅ぎ慣れた甘い匂いがした。


「お目覚めかな?」


 聞き覚えのある声がして顔を上げると、銀髪の美青年が覗き込んでいた。彼は眩しい笑顔を浮かべると、僕の額に口づけを落とした。


「……レオンハルト殿下?」

「もうすぐ着くよ」


 僕たちは馬車の中にいるようだった。いつものように、王子の膝の上に座らされている。窓の外を見ると、見知った景色が広がっていた。ローズハート公爵家の屋敷へ向かう途中のようだ。

 アロイスの部屋にいたのに、何故か王子と馬車に乗っている。状況が分からなかった。


「カミルは外泊禁止だろ?門限も厳しいはずだ。放課後は真っ直ぐ家に帰らなきゃ。送って行くよ」


 王子は僕の背中をゆっくり撫でながら、優しく言う。


「あ、すみません。その、父はどうも僕に過保護すぎて、ちょっと心配症のレベルが病的で異常というか……」


「そうだね。とても大事にされてるよね。なのに、カミルはすごく無防備だよね」

「え?」


 僕が首を傾げると、王子は悪戯っぽく微笑んだ。そして、僕の制服の襟元を捲る。


「悪い虫に刺された?」

「あ……」


 アロイスから吸われた痕を、指でなぞられた。僕は真っ赤になって俯く。一人でおやつを食べ尽くしたせいで、飢餓状態に陥ったアロイスに吸われてしまったのだ。食いしん坊がバレてしまって恥ずかしい。


「アロイスに噛まれた?他にも痕をつけられたりする?」

「いえ、大丈夫です……」

「本当?」

 王子は心配そうな顔で僕を見る。


「はい。お菓子を食べさせてもらってただけです……」

「ベッドの上で?」

 

「はい。あ、でもそれだけです! アロイスの部屋に二人きりで、ベッドに一緒に寝転んでいただけで、決して余計な話はしてないです! アリシアのことも何も聞いてませんし、殿下の秘密の関係の人についても知らないです!」


 僕は何も聞いていないフリをしなければいけない。僕の弁明に王子は沈黙していた。不審に思った僕は彼の顔を見上げると、王子は苦笑いしていた。そして僕の頬を撫でる。


「カミルは嘘をつくのが下手だね」

「え?」

「アロイスから何か聞いた?」

「いえ、何も……」

 

「嘘は駄目だよ。心配なことがあるなら、きちんと俺に話して欲しい」

「ほ、本当です……」


 僕は冷や汗をかきながら、王子から視線を逸らした。王子はしばらく僕を見つめていたが、やがて大きく溜息をついた。そして僕の頬を両手で挟む。


「カミルは、俺のこと好き?」

「え?」

 

 突然の質問に驚いて思わず聞き返してしまう。王子は微笑んだまま首を傾げる。


「……はい」

「そうか、嬉しいな。俺も好きだよ」

 王子は目を細めて微笑んだ。


 この『好き』はどの種類の感情だろう。家族とかペットに対する『好き』なのか、それとも別の種類の『好き』なのか。僕には判断がつかない。


「じゃあ、俺の命令を必ず守ってくれる?」


 王子は僕の首筋を指先で撫でると、僕の首筋から鎖骨まで舌を這わせた。そして強く吸い上げる。チクリと痛みが走った。


「んっ……」

「……上書きだよ。もうアロイスと2人きりで会うの禁止ね。カミルは俺のものだから、忘れないでくれ」

「……はい」


 僕が頷くと、王子は満足げに微笑んだ。やはり、僕は王子のペット扱いのようだ。


 王子は優しく笑いかけてくれるが、どことなく目が怖い。もしかして、怒っているのだろうか?


 どうやら、アロイスに会って、こっそりアリシアやシャルロッテのことを聞き出そうとしたことが、王子に何故かバレてしまっているようだ。勝手に行動したことを不愉快に思ってるのだろう。

 僕は王子の腕の中で身体を縮こまらせた。



「カミル、口あけて。甘いものをあげる」


 言われるがままに口を開くと、碧色の透き通った宝石のようなものを王子の指ごと口の中に入れられる。優しい甘さがゆっくりと中で溶けていく。飴玉のようだ。


「美味しい?」


 王子は僕の口内を指で撫で、唾液を絡め取る。僕は彼の指に吸い付きながら、頷いた。舌で転がすと、懐かしい味がする。甘いものを与えられると不安な気持ちが薄れ、ほっとする。

 それにしても、王子はいつも甘味を持っているのだなと、感心する。


 王子は指を引き抜くと、そのまま僕の唇を塞いだ。頭を撫でられながら、口内を優しく舌で探られ、頭がぼんやりする。

 口の中に残っていた飴玉を掠め取られ、僕は物足りなく感じた。もっと欲しい。僕は思わず彼の服を掴んだ。


「何? まだ欲しいの?」

 王子は僕の顔を覗き込みながら微笑んだ。


「はい……」

「素直だね。可愛い」


 再び唇を重ねられて、今度は飴玉ごと舌を差し入れられた。すぐに甘い味が広がる。僕が夢中で舌を絡めると、さらに甘くなった気がした。舌先が絡み合い、唾液が混じり合う。息継ぎの合間に小さく声が漏れた。身体が熱を帯びてくる。



 不意に馬車が止まった。

 屋敷に着いたようだ。王子は名残惜しそうに唇を離すと、僕の頬を撫でた。


「続きは、また今度ね」






***



 学園では、その後も、レオンハルト王子は相変わらずシャルロッテと一緒に行動しているようだ。


 教室でたまに見かけるシャルロッテは、普通に元気そうに見えた。顔色もいいし、虐待されたり、病んでいたとは思えない。というか、シャルロッテなら反逆できそうなのに。

 アロイスから聞いたことが気にはなっていたが、直接シャルロッテに尋ねるのはなんとなく気が引けた。


 

 あの日、アロイスの部屋で眠ってしまった日、僕は何故か王子に屋敷へ送り届けられた。

 王子はしばらく父上と二人きりで会話していた。僕の行動を非難し咎める内容かもしれないと不安が押し寄せた。


 気になって、王子が帰宅した後、父上に王子と何を話していたのか尋ねたが、「とりあえず、学園には通わせたいからと殿下にお願いして、お前が卒業するまでは待ってもらうようにしたよ」と悲しそうな表情で呟かれた。


 僕は退学させられる危機だったのかと青ざめた。 

 どうやら執行猶予をもらったらしいので、この先王子を怒らせるようなことはするまい、と誓った。




 僕はあの日の状況を確認するため、再度アロイスの教室を訪ねたが、彼は教室にいなかった。クラスメイトから休学届が出ていると教えてもらった。どうやら寮も出てしまったらしい。


「急にどうしたんだろう? 何か知ってる?」

「えーと、本人は『魔王の襲撃があったから一旦逃亡する』と意味不明なことを仰られていましたが、詳細は……」


 実際、アロイスがいた寮の部屋は酷い有様だったという。血痕こそなかったものの、壁や床に派手に壊れた家具や割れたガラスが散乱していて、惨状がうかがえたとか。  



 魔王?

 どういう意味だろう? 本当に魔王とやらが襲撃してきてアロイスが襲われたなら、どうして僕は怪我一つしていないのだろう。謎は深まるばかりである。


 とりあえず、アロイスと友人らしい、レオンハルト王子に今度会ったときに直接聞いてみよう。






 そう決心したら、休み時間にレオンハルト王子からいつもと同じ学園の中庭に来るように命じられた。


「あんまり時間ないんだ。ごめんね」と謝罪されながら、王子は僕を膝の上に跨がらせて、向かい合うように座らせる。


「ケーキだとフォークが必要になるから、時間がないときは、手で掴める方がいいよね」


 王子が持参してきたお茶菓子は、ふわふわの雪か雲のような、真っ白で柔らかそうな不思議な物体だ。一口サイズで、食べやすい形になっている。

 早く口に入れたい気持ちを抑えながら、僕は先日から感じていた疑問を早速口にした。


「あ、あのっ、殿下」

「何?」


 僕は王子の腕の中でもぞもぞと身を捩って、彼の顔を覗き込み、勇気を出して口を開いた。


「……、アロイスのことなんですけど……」

「アロイス?」

「はい。アロイスはどうして休学しているのか、ご存知ですか?」


 僕が尋ねると王子は笑顔を消して無表情で僕をじっと見つめた。


「……気になるの? どうして?」

「えっ!? いえ、その……心配で」

 

 王子の口調が冷たいものになって僕は焦った。何か変なことを言ってしまっただろうか。


 王子は無言で僕を見下ろす。そしてふっと口角を上げて笑った。


「……うん。気に掛けていたんだね。カミルは優しいね」

「……」


 王子の様子に少し戸惑いながらも、僕は続きを促すことにした。


「それで、彼は大丈夫なのでしょうか?」

「ああ、……アロイスは、俺の大事な人に手を出そうとしたから、お仕置き中だよ。カミルが心配することは何もないよ」

「え……」

 

 結局、詳しいことはよく分からなかったが、アロイスは王子のせいで休学しているらしい。王子はどうやらアロイスに対して怒っているようだ。アロイスはシャルロッテに何かしたのだろうか。


 王子は、僕を片手で抱きかかえながら、持参した菓子箱からふわふわのお菓子を取り出し、僕の口の前に持っていった。僕は恐る恐る口を開けて齧り付く。 


「それは、雪の妖精って名前のお菓子だよ」

「あふぅ……」


 美味しさのあまり思わず変な声が出てしまった。食感は雲みたいで柔らかく、口の中でとろけて消えていく。雪の妖精は絶妙な塩加減で、後味は優しいミルク風味であった。今まで食べたことのない甘味であった。


「気に入った?」

「はい……」


 王子が次々に口に入れてくるふわふわの妖精たちを、僕は夢中で食べて飲み込んでしまう。あっという間に10個以上完食してしまった。


「本当に幸せそうに食べるね。口の端に妖精の粉が付いてるよ」

「あっ」


 王子は僕の頬についた粉を指で拭うと、ペロリと舐めた。


「うん、美味しいね」

「……あの、殿下はお召し上がりにならないのですか?」

「食べるよ」


 王子はそう言うと僕の身体をグイッと引き寄せた。そのまま唇を塞がれる。甘い香りとともに舌を入れられて口内を探られる。


「んんっ……」


 僕の口内に残っている雪の妖精たちを丁寧に掬い取るように舌が絡んでくる。同時に頭の奥が痺れてクラクラするような快感が全身に広がっていく。頭を撫でられながらキスされると段々と思考が霞んでいく。自分が今何をしているのか分からなくなるくらい、気持ちよかった。







 





「カミル。俺以外に懐かないでね。お菓子を食べさせられるのも、俺以外の奴としないでくれ。気持ちいいことも、全部俺が教えてあげるから。誰かに触らせるのもダメだよ」

「はい……」

「カミル。好きだよ」

「僕も……殿下が好きです……」


 王子の腕の中は温かくて安心する。僕は抵抗できない。どんどん堕ちていくような錯覚に陥った。



「……学園を卒業するまでは手は出さないって、約束してしまったから我慢するけど。卒業したら、気持ちいいことたくさんしようね?」


 王子はそう言って僕の唇にキスを落とした。

 そう。キスだ。




 もう、誤魔化しは効かない。

 

 唇を重ねれば身体が自然に反応して蕩けてしまう。僕はレオンハルト王子に触れられることを望んでいる。いつの間にか彼に惹かれていた。レオンハルト王子のことは好きだ。もしかしたら、子どもの頃、はじめて会った、あの幸せな日からかもしれない。


 王子は僕を膝の上に乗せたまま、抱きしめてくれる。僕も自然と手を王子の背中に回して身体を密着させる。


 以前と比べて会える時間は短くなったけれど、会えたときには甘味を与えられて、こうやって触れてもらえるだけで十分幸せな気分になれる。最近は僕の方から彼に口付けを強請ることもある。そんな時、王子は嬉しそうに応えてくれた。

 


「そろそろ行こうか」

「はい」

「あ、俺と逢ってこういうことしてるのは、アリシアには内緒だからね」

「……分かりました」

 


 分かっている。

 僕は単なる浮気相手でしかないということくらい。



 


 ちょっとだけ……、いや、ものすごく、胸が痛かった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ