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悪役令嬢の弟ですが、姉の婚約者の執着王子様に甘いお菓子で餌付けされています。  作者: 藤海さや


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05 第一王子に食べられる。1



「おっかしいわね。これ、BLゲームじゃなかったはずなんだけど。なんで主人公が男なのかしら? バグ? やっぱりレオンハルト殿下の性的指向がそっちなの? そもそもあの主人公も胡散臭すぎんのよね」


 僕はその日、作戦会議をするから食堂に来いとアリシアに命じられ、食堂へ行った。そこで待っていたアリシアは、僕の食事内容を見るなり「うげ」と言って眉間に皺を寄せた後、意味の分からないことを呟きはじめた。


「びーえる? 何それ?」


 聞き慣れぬ言葉に首を傾げると、「こっちの話だから気にしないで」と言われてしまった。


「ところであんた、宰相の息子に乗り換えたの? 最近あの堅物眼鏡イケメンとよく一緒にいるそうじゃない」


 アリシアは可愛らしい外見に似合わず、カツ丼の大盛を豪快に食べていた。


「えっと、何のことかよく分からないけど、コルネリウスとなら前よりよく話すようになったよ」


 僕は生クリームたっぷりのパンケーキをちまちま食べはじめた。 

 本当はティータイムのメニューらしいのだが、食堂のおばちゃんが僕のために特別にお昼も作ってくれた。なぜかプリンもオマケしてくれた。優しい。


 コルネリウスとはあれ以来、たまにお茶をしながら一緒に過ごしている。今のところまだ膝の上に乗せられることはないが、お菓子はいつも食べさせてもらっていた。


 最初は何となく恥ずかしい気持ちが強かったが、甘いものを口に入れてもらうと顔が綻び幸せな気持ちが溢れ出すのを抑えきれず、僕はコルネリウスに笑顔を振り撒いた。


「なるほど、これが癒し効果……確かにハマるな」


 コルネリウスはたまに納得したように独り言を呟いていた。


 彼はお菓子はいらないと言っていたが、この間のように僕の口元にクリームなどが残っていると、僕の唇を指で拭い自分で舐めて味見をしている。最近は、お菓子で自分の指が汚れてしまうと、コルネリウスは僕の口の中に指を突っ込んでくるようになった。甘い味がするので、僕は反射的に彼の指に吸い付き舐めてしまうのだが、咎められることはなかった。

 彼は僕のそんな様子をいつも無表情で見つめていた。それでも、以前より僕を見る視線が柔らかくなったと感じるのは気の所為ではないと思う。


 僕はコルネリウスに気を許し、彼との接触に慣れ始めていた。



「攻略対象から攻略されてどうすんのよ、ややこしいわね」

 

 アリシアから白い目をされる。


「で、肝心の主人公のシャルロッテとは仲良くなれたの? ちゃんと接触してる? できれば主人公にはあんたのルートに入ってほしいのよね」

 

「シャルロッテとは、それなりに仲良くなれてるとは思うけど……。基本的にいつもレオンハルト殿下と一緒にいるから、あんまり話せないんだ。シャルロッテとレオンハルト殿下って凄く仲が良いみたいだし、僕が入る隙がないんだよ」 


 王子とシャルロッテはいつも一緒にいるため、本当に聖魔法を教えているだけなのか、実は隠れた恋人同士なのでは、といった噂までチラホラ出始めている。


「それなのよねえ。レオンハルト殿下も何か企んでるんだろうけど。噂もあるし、男同士だからって油断できないわ。状況的にみたら完全に今第一王子ルートだし、破滅エンドまっしぐらって感じかしら。ああもう、悪役令嬢なんてやるものじゃないわね。せっかく転生できたと思ったのに」


 アリシアはいつのまにかカツ丼を綺麗に食べ終えていた。あの量を完食するとはすごいなと感心していると、頭を抱えてブツブツ言っている。なんだか大変そうだ。


「さすがに殿下とあの主人公は……ないと思うけど、なんか怪しいから、一応どういう関係なのか探ってみるわ。あんたもこれ以上あの2人が仲良くなりすぎないよう、シャルロッテをなんとか落とすのよ! 男だけど、あんた顔だけはいいから、色仕掛けすればなんとかなるでしょ?」

「……え?う、う~ん」


 正直、全く自信がない。というか、アリシアの命令はかなり雑だ。僕はパンケーキの最後のひとくちを口に入れた。


「あと、……一応確認するけど、あんたレオンハルト殿下によく呼び出されてたでしょ。何もされてないでしょうね?」

「っんぐっ」


 あやうく喉に詰まらせるところだった。


「ななななななんでそんなこと聞くのさ。とととととっ特に、何もされてないよ」


 僕は早口で答えながら、首と両手をブンブン左右に振った。

 アリシアから胡散臭げな視線を投げかけられる。


「……まあ、いいけど。一応殿下はまだ私と婚約中だからね。いい? 殿下との過度な接触は私たちの未来にも影響するから、何かおかしなことをされたら、ちゃんと私に報告するのよ?」

「…………分かった」


 僕は俯きながら返事をした。せっかくのデザートなのに、プリンの味が全くしない。


 王子との接触は、どこからがダメなラインか分からなくて、結局アリシアには詳しく伝えていない。

 僕はなんとなく居心地が悪くなって、アリシアから視線を逸らした。



***



 アリシアの調査が何処まで進んでいるのか分からないが、久しぶりにレオンハルト王子にお茶に誘われた。場所はいつもの学園の中庭だ。

 中庭には常に何らかの花が咲いているのだが、それでも季節は巡り、樹木は紅葉し始めている。


「なんだか久しぶりだね、カミル。元気だった?」

「はい、僕は大丈夫です。殿下こそお忙しいようで…大丈夫ですか?」


 久しぶりに会った王子は、かなり疲れている様子だった。目の下のクマがすごい。でも相変わらず綺麗だし、仕草も洗練されている。銀色の髪は陽光を浴びて輝いているし、憂いを帯びた表情が絵画のように美しい。


「まあ、最近は少し落ち着かないかな。カミルに会う時間がなくなって、寂しかったよ」

「僕も、寂しかったです……」


 思わず本音が漏れてしまい、僕は恥ずかしくなって下を向いた。


「……カミル、おいで」


 王子に優しく手招きされ、僕は素直に従う。コルネリウスとお茶をするときのように、ベンチの隣に座ると「違うよ」と耳元で囁かれた。腰を掴まれ、そのまま向かい合うように膝の上に乗せられる。


「えっと、殿下?」


「……お茶も甘いお菓子も準備してるから、後で食べさせてあげる。けど、俺ちょっと限界なんだ。カミルに癒して欲しい。先に食べさせてもらっていい?」


 虚ろな眼をした王子に、至近距離で苦しそうに告げられた。今までは僕がお菓子を心ゆくまで食べさてもらうばかりで、王子に僕から何かを食べさせてあげたことはない。王子が先に強請ってくるなんて異常事態だ。僕はすぐにピンときた。


「ひょっとして、禁断症状が出ていますか?」


 僕が尋ねると、王子は頷いた。やはり。僕も何度か経験があるからその辛さは痛いほど分かるのだ。


 

 間違いない、今の王子は甘味欠乏症だ。

 


 疲れたときや落ち込んだ時に甘いものを食べると癒されるのは、生物の性というものだ。きっと王子は忙しすぎて糖分が不足しているのだろう。

 王子は既に禁断症状が酷くなってしまっているようで、額に汗を滲ませて僕を苦しそうに抱きしめている。


「可哀想に殿下。早く糖分補給しないといけませんね……」


 僕は優しく王子の背中を撫でていたが、とりあえず甘味を摂取してもらおうと周囲を見回した。王子の持ってきたお菓子はテーブルの上だ。


「殿下、持参していただいたお菓子を取ってきます。少し離れますね」


 そう言って僕が王子の膝から降りようとすると、彼にきつく抱き締められて身動きが取れなくなった。


「ダメだよ、カミル。逃げる気?」

「いえ、お菓子を取りに行こうと思っただけですが」


 僕が慌てて弁明すると、王子は少し拗ねた顔をした。


「……カミルはやっぱり甘味しか好きじゃないんだね。俺なんてどうでもいいんだ……」

「え?」


 王子の言っている意味が分からなくて僕は困惑した。王子は僕を膝の上に抱えたまま、何故か僕の制服のネクタイを緩め始める。


「……最近コルネリウスと一緒にお茶してるらしいね。信用して言伝を頼んだのに、あんにゃろう。俺がクソ忙しいときに、抜け駆けしやがって……」

「殿下?」


 なんだか様子がおかしい。王子はブツブツ呟きながら、今度は僕の制服の襟元のボタンを外し始めていた。


「カミルは無防備すぎる。俺以外の奴から甘味を食べさせてもらったり、懐いたりしないでくれ……」

「あ、あのっ?殿下?」


 襟元を完全に開かれてしまい、首筋が外気に晒されてヒヤリとした。それから何か温かいもので首筋を撫でられた。僕の首筋を辿っているのは王子の舌だと気づき、驚愕して思わず悲鳴を上げそうになった。

 僕が混乱して硬直している間も、王子は僕の鎖骨辺りまで舐め始めている。今までだって王子から頭を撫でられたり、触られたり、抱き締められたりと、いろいろされてきたが、首周りを舐められるなんて初めてだった。


「ででででっ殿下?!」

「……カミル、甘くて美味しい」

「へっ?」


 王子は恍惚とした表情をして僕をひたすら舐めていた。ああ、なるほど。そういうことか。僕は王子の奇行の原因を理解した。


 王子は禁断症状から、とうとう幻覚まで見え始めてしまっているのだ。僕を甘い食べ物だと勘違いしている。これは深刻な状態だ。でも幻覚に襲われていながらも、王子の目はやけに生き生きとしていた。ちょっと不思議だ。


 僕にも経験があるから分かる。

 

 子どもの頃、あまりにも甘いものばかりを欲しがる僕の嗜好を心配した両親から、毎日のオヤツの制限をされた時期があった。あまりのストレスで僕は発狂寸前になり、すぐに禁断症状が現れた。とにかく目の前にある物全てが甘いお菓子に見えて仕方なかった。


 その時の僕は気が触れてしまっており、窓際に飾ってあった薔薇の花を甘味だと勘違いしたのか、虚ろな目をしたまま花弁を齧ってムシャムシャ食べていたらしい。

 

 第一発見者であるアリシアが、僕に飛び蹴りをして無理やり正気に戻してくれたおかげで事なきを得たが、あの時は本当に危なかった。なんでも部屋に飾られていた薔薇は花弁に有害な成分が含まれている毒花だったそうだ。そんな危険な花を僕の部屋に飾らないで欲しいと心底思った記憶がある。

 すぐさま甘味制限は解除され、子どもだった僕はオヤツタイムの幸せを取り戻すことができた。


 飢餓状態に陥った人間が見境なしに周囲にある物を貪ってしまうというのは本当なのだと、実感したものだ。今の王子もまさにその状態なのだろう。早く正常に戻してあげないと危険だ。


「殿下! 落ち着いてください。本物の甘味をお持ちしますので離してください」

「本物の甘味?……ああ、カミルのことか」

「いえ、違いますっ」


 王子はうっとりした顔で僕の首筋を食んできた。僕が焦って王子の腕を叩いても、止められない。寧ろ強く抱き締められた。興奮した様子で僕の肩口あたりに王子の顔が埋められている。

 なんとかして王子を正気に戻してあげたいのだが、この状態で王子の頭部に飛び蹴りなどしたら大事故だ。僕にはアリシアのような武力はないので、殴ったり蹴ったりなどの手段は選べない。物理攻撃は無理なので説得しかない。


「殿下、僕は甘味ではありません!」

「ふふ、カミルは俺の一番の甘味だよ」

「違うのです!」

「違わない」


 王子の思考回路は完全にショートしている。会話が成り立たない。普段の冷静沈着な様子からは想像できない程に王子は錯乱していた。大変だ!!



「俺には分かるんだ。カミルから甘くて美味しそうな匂いがする。きっとカミルを食べたら、とても甘くて満たされると思うんだ」



 ば、バレてる……!?



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