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悪役令嬢の弟ですが、姉の婚約者の執着王子様に甘いお菓子で餌付けされています。  作者: 藤海さや


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02 悪役令嬢に命令される。

 あの後、僕が誘拐されたと思い込んで半泣きになった父上に、空になったお皿とともに僕は発見され、死ぬ程怒られた。一週間オヤツ抜きの刑を言い渡され、僕は毎日泣き暮らすことになる。

 少年との出会いは特に家族へ報告しなかった。オヤツ抜きの刑により甘味不足が深刻で、毎日が辛く、正直それどころじゃなかったからだ。



***


 パーティの日の少年の『責任を取る』という言葉の真意を知ったのは一週間後のことだった。ちなみに、僕はオヤツ抜きの刑があけ、涙を流しながらシュークリームを頬張っていた。


 銀髪碧眼の美少年の名前はレオンハルト・フォン・ローゼンバルク。この国の第一王子だった。あの日、僕は『アリシア』として女装してパーティーに出席していたので、多分アリシアと勘違いされたのだろう。お互い名乗らなかったけど、王子は分かっていたのだろうか。



「あんた、なんてことしてくれたのよ?! 私が何のために仮病でパーティーサボるか言ったでしょ! 王子との婚約避けるためよっっ!!」

 

 アリシアは怒り狂っていた。


「ごめん、ごめんってば。まさかこんなことになるとは思わなかったんだよ」


 僕は青ざめてひたすら謝るしかなかった。それでもシュークリームは離さない。


 王家から、『アリシア』を婚約者にすると正式に申し入れがあったのだ。ちなみに王子本人の希望であり、国王も賛成したとのこと。パーティーで見初めたとかなんとか。


「まあ、カミルは会場で一番可愛らしかったからなあ。お嫁さんにしたくなるのも分かる」


 親バカを発揮している父上は、うんうんと頷いていた。



「あーもうっ! あんた私と同じで顔だけはいいんだから、そりゃ見かけたら王子も気に入るわよ。会場着いたら王子に見つからないよう庭にでも逃げとけって忠告したのに!!」

「……いや庭にすぐ行ったけど」


 顔だけということは、僕は他は駄目出しされているのだろうか?それはアリシアのことじゃないか?

 口に出すとめんどくさそうなので、とりあえず言葉を飲み込み、心の中で反論する。


 それにしても、まさか主役であるはずの王子が会場抜け出して来ているとは思わなかった。ていうか王子と気が付かなかったんだけど。


「そもそも父さんがカミルを私の身代わりに連れて行くのを止めるべきだったわ。あんたも菓子なんかにつられてんじゃないわよ!」


「いやでも王宮のお菓子かなりレベル高くて、めちゃくちゃ美味しかったよ?」


 僕が拳を握りしめて力説すると、アリシアが眉を吊り上げて叫んだ。


「うっさい!」

「はいすみません!」

 僕は平身低頭して謝罪する。


「これもゲームの強制力なのかしら……。婚約が決まったのなら仕方ないわ、プラン変更よ。学園の卒業までに何とかしなきゃ。とにかく主人公が私たちにとって安全な攻略対象を選ぶよう導くわよ。あんたも協力するのよっっ」

「はい、仰せのままに!」


 こうして、僕はアリシアの忠実な下僕となった。



***


 アリシアはレオンハルト王太子の婚約者になった後、すぐに王妃になるための厳しい教育が始まった。余程辛かったのか『なんで私だけがこんな目にあうのよ。元はと言えばあんたのせいなんだから、あんたも道連れよ?!』となぜか翌日から、僕も一緒に王宮に行くように命じられ、馬車の中で互いの衣服を無理矢理交換させられ、僕はアリシアの身代わりにスパルタ教育を受けさせられていた。

 絶対に教師たちは気が付いているはずなのに、なぜか何も言われなかった。解せぬ。



「アリシア、お疲れさま。君のために甘いものを準備してあるよ。天気がいいから庭でお茶にしよう」



 身代わりスパルタ教育が終わり疲労困憊で項垂れていた僕を慰めてくれたのは、いつもレオンハルト王子だった。

 レオンハルト王子はとても優しくて紳士的で勉強もできる。性格がアレなアリシアと違って、周りへの配慮を怠らない人なので周りからの評価も高く、誰もが認める理想的な人物だと思う。見た目も素敵だし、とにかく完璧だ。


 王妃教育の後、王子はいつも甘味を準備してくれていて、はじめて会った日のようにドレス姿の僕を膝の上に乗せて、甘いお菓子を自ら食べさせてくれた。疲れた身体に糖分が沁みわたる。王子はなぜこんなに僕のことを理解してくれているのだろう。まるで魔法使いみたいだ。僕は王子と一緒に至福のひとときを過ごしていた。


 膝の上に乗せられる理由はよく分からないのだが、僕がもぐもぐしている様子を眺めていると王子は癒やされるそうで、ニコニコしながら「可愛いなあ」と頭を撫でてくる。なんとなくペット扱いされている気がしないでもない。



「アリシアは凄く頑張ってるよ。偉いね」



 僕は美味しいお菓子とレオンハルト王子の甘い蜂蜜みたいな声で褒められるのが嬉しくて、どんどんはまりこんでいった。スパルタ教育はいつも泣きそうになるけど。それでも王宮に行くのが楽しみになったぐらいだ。


 『アリシア』と呼ばれるたびに胸が苦しくなったけど、王子と一緒に過ごすお茶の時間は僕にとって幸せな時間だった。甘いものを食べさせてもらいながら色々な話を聞かせてくれるので、楽しくて飽きることがないし、何よりも王子の笑顔を見るのが好きだった。

 



***



 ローゼンバルク王国にある王立学園に入学して、『カミル』としてはじめてレオンハルト王子と対面した日。僕はとても緊張していた。

 入学して暫くは何もなかったのに、僕は突然王子に呼び出されたのだ。

 自分の婚約者である『アリシア』にはいつも優しい笑顔を向けてくれた王子が、単なる双子の弟に過ぎない僕に対してどんな態度を示すのか想像もつかなかった。









「ようやく逢えたね。はじめまして、カミル」



 レオンハルト王子は、僕のよく知っている優しい笑顔で挨拶をしてくれた。


 学園の中庭で、僕は王子と対面した。季節は初夏。花々が咲き誇る美しい景色が広がっていた。特にそのときは薔薇が盛りで、辺り一面ピンク色に染まっていた。そういえば、よく一緒にお茶をした王宮の庭園にも薔薇が沢山咲いていたなあ。なんて思い出していた。



「君のために甘いものを準備してあるんだ。おいで」

 

  

 レオンハルト王子に優しく手を引かれ、力が抜けそうになった。いつものように穏やかに微笑んでくれた王子の手が温かくて、僕は胸がいっぱいになってしまい、何故か涙が出そうになってしまった。






***



 


「どうしてこうなった……」


 僕はレオンハルト王子の膝の上に乗せられ、後ろから抱きかかえられていた。


「ほら。カミル、口をあけて」


 王子が耳元で囁きながら、クッキーを僕の口元に近づけてきたので、僕は反射的に口を開けてしまった。目の前に甘味を出されると、つい口の中に入れなければ、と脳みそが反応してしまう。すると、口の中にクッキーを押し込まれた。


「んむぅ」

「おいしい?」

「はい……」


 僕は口の中いっぱいになったそれをモグモグしながら返事をする。サクサクとした食感が口の中で広がり、噛むたびに香ばしい香りが漂う。


「じゃあ、次はこれかな」


 今度はチョコレートを唇に押し当てられ、指ごと口の中に入れられた。舌の上で広がる口どけの良さがたまらない。甘い味が口に広がり、幸せな気持ちになる。


「ふぁ……甘い……」

 

 僕は蕩けた顔になってしまっていた。だって王子が僕の口にいれてくれるお菓子は、本当に甘くて美味しいんだもの。


「うん、すごい笑顔だし、美味しそうだね。俺にも味見させてくれる?」


 王子はニコニコしながら僕の口の端についたチョコを、ぺろりとそのまま舐めとった。


「……確かに甘いね、カミル」


 至近距離で見つめられながら微笑まれ、僕は顔を真っ赤にして震えてしまう。





 学園に入学して数年が過ぎ、僕たちは成長して最終学年になっていた。


 はじめて『カミル』として王子と一緒にお茶をしたあの日から、王子とは定期的に会って学園の中庭でお茶をするようになった。


 王子は僕のことを『カミル』として認識してくれているので、以前のように『アリシア』のふりをすることなく振舞えるのが楽だった。王子は当たり前のように僕を膝の上に抱えて甘味を与えてくる。『アリシア』として接していたときと、全く態度が変わらないので、王子は裏表のない素晴らしい人だと改めて思った。



 




「……殿下、膝の上に抱えてるのはあなたの婚約者じゃありませんよ。分かっていますか?」


 呆れたような声が聞こえて振り向くと、そこにはこの国の宰相の息子で、王太子であるレオンハルト王子の側近扱いをされている、コルネリウス・ローデンヴァルト侯爵令息がいた。

 藍色の髪にアイスブルーの瞳。涼しげな目元は理知的な印象を与えるが、冷気をまとっている気がするのは外見だけのせいではない。



「取り込み中だよ。コルネリウス」


 王子は不機嫌そうに呟いた。彼の膝の上から僕が降ろされる気配はない。


「……お忘れかもしれませんが、一応この国の第一王子ですからね、貴方は。節度ある行動をとってくださいよ」


 コルネリウスはため息をつきながら、静かな声で王子に意見した。


「嫌だな、未来の家族を普通に可愛がってるだけだよ。カミルといると癒されるんだ。それに美味しそうなんだよね」


 王子は僕の腰に手を回して引き寄せると、そのまま首筋を軽く食んだ。


「ひゃっ!」


 僕はビクッと身体を揺らして悲鳴をあげた。甘い痺れが全身に走る。


「だから、そういう行為をやめろと言ってるんです。義理の弟にする態度ではないでしょう?」


 コルネリウスはマイナス5度くらいに冷え切った目で僕たちを睨みつけた。 

 王子は構わずに僕を抱き締めたまま、腰や脇腹を撫でている。擽ったくて、モゾモゾしてしまうが、王子に拘束されているので逃げられない。


「……カミルを義理の弟だなんて思ってないよ。アリシアとの婚約も、いずれ解消する予定だしね」


「何度もお伝えしておりますが、余程アリシア嬢に酷い裏切り行為でもされない限り、現時点での婚約解消は難しいですよ。感情だけではどうにもならないこともご存知でしょう」


 コルネリウスは、眼鏡の中心を人差し指で押し上げながら顔を顰め、王子を諭す。

 

「……分かってる」


 コルネリウスの厳しい言葉を受けて、王子は渋々といった様子で頷いた。

 コルネリウスは軽く咳払いをした。



「……とにかく、私は殿下を呼びに来ただけなので。殿下、行きますよ。いい加減カミルを解放してあげてください。大事な転校生が来るって話をお忘れですか?」


「ああ、もうそんな時間か。行くよ」

 

 王子は少しだけ顔を綻ばせると、ようやく僕を膝の上から降ろしてくれた。


「……カミル。このさき少し忙しくなるから、しばらく一緒にお茶はできないかもしれないけど、変な男について行くなよ。じゃあ、また」


 王子は僕の頬に軽く口付けをしてから立ち上がると、呆れた顔をしたコルネリウスと一緒に去って行った。

 僕は呆然としながらその場に立ち尽くす。先程王子は何か重要なことを言っていた気がする。


 婚約解消とはどういう意味だろう。アリシアの話によると、その先は処刑コースのはずだ。王子が婚約解消に踏み切ろうとしていることをアリシアは把握しているのだろうか。

 しかも、あの様子では王子は他に想い人がいる感じがする。それを考えると胸の奥底がモヤモヤとする。しかし今はそれよりも気になることがあった。



「転校生? アリシアが言ってた『主人公』のことかな?」



 アリシアが懸念していた展開のひとつが起きてしまったのかもしれない。


 

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