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悪役令嬢の弟ですが、姉の婚約者の執着王子様に甘いお菓子で餌付けされています。  作者: 藤海さや


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17/24

17 悪役令嬢に呼び出される。


 作戦会議をするから食堂に来い。

 アリシアからそんな指令を受け、指定された時間に食堂に行くと、彼女はすでに豚骨ラーメンを啜っていた。ネギとチャーシューがモリモリなうえ、煮卵までトッピングしている。今日はラーメンの日らしい。


 その隣にはフランツが座っていて、お好み焼きと白米を交互に口に運んでいた。炭水化物まみれだ。そしてどうやら彼もアリシアに呼び出されたらしい。


 ちなみに僕はワッフルを食べている。焼き立てアツアツのワッフルに、ベリーのジャムとクリームをたっぷり添えた贅沢な一品だ。甘酸っぱさと甘さが絶妙なバランスで最高に美味しい。食堂のおばちゃんが、さらにアイスクリームのトッピングをオマケしてくれた。優しい。



「カミル。聞いてる?」


 僕が至福の表情でワッフルを頬張っていると、アリシアが不機嫌そうな声で話しかけて来た。慌てて首を横に振る。アリシアは怪訝な顔をして僕を見つめた後、再び豚骨ラーメンを啜り始めた。


「卒業パーティーにアブドル王国の第三王子が招待されて、参加するらしいのよ。……まずいことになったわ」

 

 アリシアが大盛りのチャーハンをかき込みながら、深刻な表情で呟いた。いつの間に頼んだのだろう。

 アブドル王国といえば、昨日会ったクラウスの出身国だ。もしかして、彼も第三王子の関係者とやらだったのかもしれない。


 アブドル王国は国内の派閥争いが激しいこともあり、外国にあまり干渉出来なかったのだが、ここ近年になって外交関係の強化に乗り出している。その一環として、アブドルの第三王子が友好の使者として我が国に滞在する予定になっているらしい。


「あ〜、それ俺も聞いたぜ。元々は第三王子の留学の話があったそうだが、政情が不安定で延期になったんだ。最近内乱が沈静化してきたことで再び話が浮上したんだってさ。結局来るのかよっつーか」


 フランツが頷きながらお好み焼きを口に運ぶ。


「……アンタ、余裕ね。アブドル王国第三王子って言ったら、クラウス・アブドルでしょ?『ゲーム』の隠し攻略対象じゃない」

「は? そうなのか? 俺全然知らなかったわ」


 僕はアリシアの発言を聞いて、アイスクリームを危うく噴き出しそうになった。


「カミル! 一気に口に入れすぎだ!!」


 幸い、フランツが僕の背中をさすってくれたおかげで難を逃れた。

 アブドル王国の『クラウス』って王子様だったのか。言われてみれば思い当たる節がある。どこかで聞いたことがある気がしていたのはそのせいだったのだ。僕、隣国の王子様からオヤツをもらったのか……。


「まあ、第一王子ルートしか出現しないキャラだから、アンタが知らないのも分かるけどね」


 アリシアによれば、隠し攻略対象キャラとやらの『クラウス』が現れる条件は、主人公が第一王子ルートを進んで、第一王子を攻略している場合のみなんだとか。だから他の攻略対象者たちはクラウスを知らないのも無理はないと。


「クラウスは、主人公であるシャルロッテが第一王子と恋仲に発展すると、次の障害として現れてくるのよ。もともとクラウスは攻略対象のレオンハルトと主人公を取り合って破滅する悪役として登場するんだけど、あまりのイケメンぶりに人気が出て、隠しキャラとしてバージョンアップで攻略対象に昇格されたのよ」


 アリシアは既に豚骨ラーメンを食べ終わったらしく、替玉を要求しながら熱弁をふるっている。彼女の食欲が止まらない。


「へえ〜。俺カミルしか攻略したことないから知らんわ」

「……呑気なこと言ってるけど、クラウスが登場するってことは、シャルロッテが第一王子ルートを進んでるってことよ。アンタまさか……!?」

「待て待て待て! 俺は何もしてねえ!! レオとヤッたりしてねえぞ!!」

「ヤッてたら殺すわよ!!」


 アリシアが勢いよく立ち上がりレンゲを握りしめている。フランツが青ざめているのが見える。怖すぎるんですけどっっ!!


「つか、俺はもう『シャルロッテ』じゃねえから、普通に考えれば本物のシャルロッテとレオに進展があったんじゃねえの?」


 フランツが慌てて弁解している。僕は動揺してフランツの方を見てしまった。

 え、そうなの? レオンハルト王子とシャルロッテが? 二人がそういう関係に? 今頃はもっと濃厚な時間を過ごしているってこと?

 不安で堪らなくなり、フォークを持つ手が震え始めた。口の中が乾いてきて唾を飲み込む。


「まずいわね、そしたら振り出しよ。第一王子ルートも最悪だけど、クラウスルートはもっと最悪なのよ。……あああっっ! 卒業パーティーまでに絶対阻止するわよ!!」


 アリシアがテーブルを叩きながら叫んだ。隣の席のお姉さま方が驚いてこちらを振り返っている。僕もビクッと震えた。


「具体的にはどうすんだよ」

「一番良いのは、最初の予定どおり主人公のシャルロッテにカミルルートを進ませること。アンタじゃないわよ、本物のシャルロッテよ。今シャルロッテは学園にいないから、まずは何とかして修道院にいる彼女と知り合いになって、短期間でカミルに好意を持たせる必要があるわね。どう? カミル、できる? 勿論私も協力するわよ」


 フランツが不満そうな顔をしているが、アリシアは無視して僕に問いかけてくる。

 


「……難しいと思う。というか、僕は出来ない」


 

 僕は正直に答えた。時間だけの問題じゃない。だって僕が好きなのも、恋人なのも、レオンハルト王子だけだから。他の誰かを好きになるなんて不可能だ。どんなにシャルロッテが魅力的な女の子であっても、僕には無理だ。


「僕は……好きでもない相手に好きって言えないし、演技も出来ない」


「別にシャルロッテと付き合えって言ってるわけじゃないのよ?カミルから恋愛感情を求めているわけでもないの。ただ、彼女の望むことを叶えてあげるだけで良いのよ。卒業前にカミルに少しだけ好意を向けさせるだけで十分なの」

「それこそ無理だよ。シャルロッテとは会ったことも無いのに。それに、……やりたくない」


 もしかしたらアリシアに殴られるかも、と思ったけど僕は自分の気持ちを正直に話した。


 


「分かったわ、じゃあ別プランでいくわよ」


 アリシアがあっさり引き下がったので僕は拍子抜けした。


「え、いいの?」

「嫌なんでしょ? だったらしょうがないじゃない。無理強いしたって成功する確率低いだけだし。カミルに拒否権ないと思ってたわけじゃないわ」


 意外にも理解を示してくれるアリシアの言葉に安堵する。ボコボコに殴られる準備は万端だったのだが、杞憂だったようだ。



「じゃあ、どうすんだ?」

「何のためにアンタを呼び出したと思ってんの?次のプランはアンタよ、フランツ。シャルロッテを陥落させなさい」

「はぁ!?」


 フランツが椅子から立ち上がり大声を出した。周囲の視線がまたこちらに集まる。


「えー、俺嫌だ」

「許さん、ヤレ」

「俺には拒否権なしかよっ!!」

「当たり前じゃない。カミルが拒否してもアンタに拒否権なんてないわ」


 アリシアが冷酷に告げる。フランツが面倒くさそうにため息をついた。


「今さら主人公を攻略しろって言われてもな〜」

「将来の『聖女様』よ? 可愛らしい癒し系キャラよ? 実家が潰れて傷付いてる不憫属性よ? 狙うなら弱ってる今しかないじゃない!」

 

「……つか、アリシアはいいのかよ? 俺が攻略対象の場合のルートって、お前の末路確か……」

「平民落ちくらい上等よ。断頭台送りより遥かにマシ」

 

 淡々と語るアリシアの言葉に、僕は思わず顔をあげた。今までアリシアからは第一王子ルートが最悪で、カミルルートが一番無難という話しか聞いたことがなかった。それ以外についてはノータッチだった。

 


「どういう意味? アリシアはどうなっちゃうの」


 僕の問いかけに対しフランツが答えてくれた。


「主人公が選ぶのがレオルートなら死刑、コルネリウスルートは奴隷落ち。アロイスルートだと他国の暗殺組織に売り払われて……運が悪いと人体実験の対象にされて一生苦しむ、だったかな。俺……フランツルートは平民落ちして街で暮らすんだけど、強盗に襲われたり病気になったりして貧困生活に苦しむ」

 

「ちなみにクラウスルートだと、クラウスが第一王子ににブチギレして反乱起こすから戦争勃発、主人公以外全員卒業パーティーで惨殺されるのよね」

「ひいっっ!!」

 

 アリシアの最後の補足を聞いた途端全身に鳥肌が立つ。

 アリシアが唯一幸せになるのは、主人公が『カミル』を選んだ場合で、この場合は第一王子とそのまま婚約続行して結婚し、彼女は平穏な生涯を送ることができるのだと言う。他のルートは全て第一王子から婚約破棄されてしまうらしい。


 僕が拒否権を行使した結果、アリシアが不幸になるルートしかなくなってしまったのだ。本当にそれでいいのだろうか。当然僕は責任を感じはじめ、心が重くなる。

 



 少し考えさせて欲しいとフランツが言うので、結論は先延ばしとなり、その日は解散となった。

 

明日から、1日1回、お昼頃の更新になります。

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