13 悪役令嬢に問い詰められる。2
「……どういうこと? 意味分かんないんだけど」
「よく分かんねーけど、『シャルロッテ』は学園に編入させる必要がある、ただ本物の『シャルロッテ』は編入させたくない、だから偽物を用意する必要があった、としか」
フランツはぶすっとして答えた。
「あ、あの」
二人の会話に割り込むように、僕が恐る恐る手を挙げた。
「……本物の、シャルロッテはどこにいるの? その、僕、2年生のアロイスに『シャルロッテ』はレオンハルト殿下の管理下にいるって聞いて……、もしかして、それって本物の……? だとしたら……」
僕は不安になって声が震えてしまう。
「あー、まあ、そうだな。本物の『シャルロッテ』ちゃんは、レオが保護している」
フランツが気まずそうな顔をした。
アリシアは険しい表情をしている。
「殿下が転生者だとすると、『シャルロッテ』が学園に編入するのを嫌がった理由は、さしずめ彼女を他の攻略者に会わせたくなかったからってことかしら。ホントに独占欲強いわね、あの男」
アリシアが忌々しげに舌打ちした。
僕はショックで固まってしまった。
やはり、レオンハルト殿下の大事な人は、本物の『シャルロッテ』だったのだ。
「まあ、エルスハイマー男爵家周囲の動きが怪しいって理由もあるし、『シャルロッテ』自身の言動もおかしくて、何か問題起こしそうだから保護したってのもあるみたいだけどな。コレもアロイスから聞いた話だけど」
フランツが付け加える。
「あの、アロイスは無事なの? 連絡がとれなくて……彼は何か罪を犯したの?」
僕は心配になって、フランツに訊いた。
「さあ? 俺も何やらかしたか詳しくは知らないけど、レオの逆鱗に触れたらしくて、今は馬車馬のように働かされてるらしい。とりあえず生きてるよ。まぁ、調子に乗ってたからなあ」
フランツが苦笑しながら答えた。
「そっか、生きてるなら良かった」
僕はホッと胸を撫で下ろした。
「アロイスは、レオンハルト殿下の大事な人に手を出そうとしたとかで、殿下が怒っているみたい……」
僕は説明しながら項垂れる。王子にとって『シャルロッテ』は、やはり特別な存在なのだろう。
「……ねえ、カミル。ちょっと確認したいことがあるんだけど」
アリシアが真面目な顔で、僕の方を見る。
「あんた、あの頭フワフワお目々パッチリ魔術師団長の息子から何かされた? されたでしょ?」
先ほどと同じ質問をされ、僕はギクリとした。
「な、何もされてない」
僕はアリシアから視線を逸らし、口笛を吹いて誤魔化した。
アロイスからは、限定品ケーキ『白雪姫』をダシにして、アチコチ舐められたり触られたりしたが。
なんかそれを伝えると、アリシアからものすごく怒られそうな気がする。
「……」
アリシアが無言になった。
「カミル、正直に言いなさい」
「本当に何もされてないからっ!」
僕は必死に首をブンブン左右に振って否定した。アリシアは、何故か白い目で僕を見つめている。
「……まあ、いいけど。今のところ、客観的にみて『シャルロッテ』は本人たちの意思はどうであれ、第一王子ルートに入ってるわ。この場合、私に婚約破棄告げるのも、処刑するよう命じるのもレオンハルト殿下よ。ついでにうちの実家の取り潰しと、あんたの娼館行きを命じるのもね」
アリシアが苦々しげに言った。
***
「『ゲーム』の『カミル』は、好感度を上げておくと、好意からその相手のどんな命令でも従うようになる仕様なのよ。殿下が転生者なら、あんたがそうなることを知ってるはずだし、私と婚約破棄した後のあんたの結末も知ってるはずよ。つまり……」
「なるほど! 卒業後にカミルを男娼として売りやすくするため、好感度を自分だけ上げておいて、今のうちから調教しておくのか。流石レオ、趣味と実益を兼ねてるし、なかなかやるね。しかし鬼畜。はっ、けど本来俺がそのオイシイ立場になれた筈だったんじゃ……」
フランツが感心したように呟いていると、アリシアが無言でフランツの頭を殴った。
「痛えっ?! 暴力反対!!」
「これだからカミル信者って嫌なのよ!! ややこしくしないっ!……で、カミル。本当のところどうなのよ? レオンハルト殿下から何か嫌なこととか、変な命令とかされてない?」
アリシアが腕組みをしながら、再度確認してきた。
僕は多分顔面蒼白になっているだろう。気を失いそうになって、よろけた。
「……うん、大丈夫。たまに一緒にお菓子を食べながら、お茶してたけど、最近はその時間も減ってきてたし、な、何もされて、な……い」
僕は肩を落として震えながら答えた。涙が溢れてくる。
王子は何のために僕に触れてきたのだろう?
フランツの言うように、卒業後に僕を男娼として売るため? そういう行為に慣れさせるため? 身体に痕をつけるなと言われたのは、商品価値が下がるから? 僕は浮気相手ですらなかった? 勝手に勘違いしていただけ? 僕はいつか王子に裏切られるのだろうか。
──アリシアに内緒ね。
──カミルは俺のものだよ。
──他の奴に触らせたりするのもダメだよ。
王子が言っていたあの言葉は? 僕は彼の何なの? 僕の気持ちはどこに向かっていれば良いんだろう? 真実が分からない。
「ちょっと、カミル!? 目から滝のように涙流れてるけど?! 大丈夫なの?!」
「ううっ……あ、アリシア、ごめん。ごめんなさい」
僕は泣きながら謝った。アリシアはぽかんとした顔をした後、溜息をついた。
「馬鹿ね。別に責めてるわけじゃないわよ。……全部話すことは無理でも、おかしなことがあったら、ちゃんと報告しなさいよ」
「う、あ、ありがと。でも、アリシア……ごめん」
僕はしゃくりあげながら、アリシアにお礼と謝罪を繰り返した。
僕は自分のことばかりで、アリシアを裏切っていることに目が向いていなかった。今さらながら、その事実も苦しくて、胸が張り裂けそうになっていた。やっぱり今の状況は良くない。きちんとレオンハルト王子には伝えて、お別れしよう。そもそも恋人ではなく、ただの遊び相手でしかなかったのかもしれない。でもそれでいい。誰かを裏切ったり、裏切られることに怯えたりしながら一緒にいても、毎日辛いだけだ。
僕は涙を拭って、深呼吸した。
「あ~、その、カミル。レオがまだ転生者って決まったわけじゃないし。その、もし男娼にされても俺がすぐに買い取ってやるから。レオから調教された成果も無駄にしないよう……」
フランツが僕に向かって、慰めるように言ってくると、アリシアが彼を再び殴りつけるのが見えた。
「あんたはいい加減黙れ!!」
「姉さんこそ何回殴るの?! ひどすぎる」
フランツが殴られた箇所を押さえ、わざとらしく泣き真似をした。
「カミル、……あくまでも、これはゲームの話よ。私は結末をそのまま受け入れるつもりはないわよ。ゲームの強制力なんてクソ喰らえよ。ちゃんと抗うから」
「……アリシアは、強いなあ」
僕は鼻水を啜りながら、思わず呟いていた。先ほどから令嬢らしからぬ酷い言葉使いと行動をさらけ出しているが、堂々としているアリシアの姿勢は素直に羨ましいと感じる。
「あんたも逆らっていいのよ」
アリシアが少し怒ったような口調で言うのを聞いて、僕は驚いて顔を上げた。
「えっ……?」
「ズルズル流されてないで、ちょっとは自分の頭で考えなさいよ。あんたはどうしたいの? 私はこの世界ではあんたの家族よ。あんたがあの卑怯王子から逃げたいなら全力で手伝うわよ」
アリシアは真剣な表情だった。僕は戸惑った。アリシアがそんな風に思ってくれているとは知らなかった。アリシアはいつも僕のことを下僕のように扱っていたからだ。
「ありがとう、アリシア。もうちょっと考えてみる」
アリシアの言葉は、素直に嬉しかった。




