つまらない僕とRaiders
モノを漁って生きていく。
それが此処での生き残り方で、食い扶持で、生活、そして規則だ。いや、鉄則だ。
そんなことそもそも百も承知だし、今まで嫌と言う程わからされてきたが、現在の気分は最悪だった。赤外線モードなどという前時代の視覚方法で歩かされ、些か頭痛も始まっている。
足場が悪い坂道を上るために太ももを無駄に持ち上げないといけないのも苦痛だ。
警告音。秒数がカウントとされてる。
ガラガラと細かなゴミが転がり落ちてきていた。上にいる奴が足を踏み外したのだろう。気にすることはない。焦りもせず誘導の通りに落下予想地点を避けた。
安全の可能性が数値上確保されて、警告音が鳴りやむ。先ほどいた登り道──ただ登り易かった──に場所に大型の何かの部品が転がった。
そんなことを横目に見ながら登りきると、この破棄山が築かれたのが沼地だったということ思い出せる。風に乗ってやってくるのは、泥と油の匂いだ。
ポリマーフレームのグリップを握りしめたまま、辺りを見回す。と、顔見知りが一人二人、離れた場所で何かを漁っていた。どちらかが、先ほどの足を踏み外した莫迦だろう。辺りに検索をかけると知覚増幅器は丁度足元に落ちてある金属の位置を指し示す。あとは簡単だ、まだ使えそうな基盤を選んで担ぐバッグに放り込むだけ。
そんな風にして幾つかのゴミを拾っていると視界の端が白く濁った。
故障を疑ったが、三日前にバラシてメンテしたばかりだ。技術屋の自分の腕を信用していないわけじゃないが、本業は電脳潜師だ。間違いだってある。
遅れて遠くで爆発音が聞こえた。めずらしく機械と機械がドンパチをしているのだ。最前線は20キロ先に動いてから3か月も経ったけれど、また押し返したのかそれとも押し返されたのか。それならこの辺りの漁り場も移動だ。
防弾として被っている知覚増幅器は、音の方角を視覚情報として提示していた。機械たちの攻防は、稼ぎ時だと知覚増幅器に従ってゆっくりとそちらに歩み始める。結末は解っている、機械同士はどうせ相打ちか、鹵獲防止のために自爆。ゴミはごみでも新鮮──最新──な方がいい。
握りしめた拳銃を腰に戻して、なるべく手を手早く回収することを選んだ。機械相手にこんな豆鉄砲で立ち向かえるはずもない。
あたりを見渡すと、顔見知りたちは地下への帰路についていた。爆発を聞いて今日の稼ぎはこんなものだと割り切ったのだ。臆病者と罵る奴もいるだろうが、間違いなく彼らの選択の方が正しい。
誰だって死ぬ可能性があがることなどしたくないのだ。
ただ、こちらはそうも言ってられない事情がある。
小走りをしたせいか、額に汗をかいていた。爆発の現場に無事にたどり着いた、息はあがっていない。
見渡せば半壊しているコンクリートの建物に黒い煤がへばりついている。その傍には黒い煙をあげながら、機械人形の成れの果てが横たわっていた。
人形と表現はするがヒトガタでもなんでもなく、空飛ぶドローンだったり地を転がって駆け回るドローンだったりする。
何体ここで破壊されたのかもうわからない残骸。ただ無機物が、動かぬ無機物になっただけだ。
辺りに注意しながら、近づいていく。
まだ中身が無事そうな機体を見つけた。辺りを見渡して他に何もいないことを確認しながら近づき、感電しない様に腹ばいになる。仲間内では射線をきるという説もあるが、精密射撃ができる機械相手に射線もくそもない。
怖いのは、人間だ。中身を抜き出したら、ズドンと撃たれゴミを持ち逃げ、もしくは「Don't resist, just hand over what you have.」などと馬鹿丁寧に言ってくるに違いない。
知覚増幅器から線を引っ張り出してきて、まだ形の残っている成れの果てにつなげた。肩から線を延ばす形になるので、寝そべるのはちょうどいい。
戦術手順の欠片でも抜き出せればと思ったが、内部基盤が焦げて接続は無理そうだ。
簡易解体が可能か試す。技術手袋とか前々前世紀にあったアニメに出てきそうな名前のマルチツールを装着して外装を手際よくはがした。
外側の半分は焦げで真っ黒だが、中身は無事だったようだ。電源供給の場所を探してケーブルを――祈りながら――切断して基盤を引き抜こうとしたが、まだ何か接続している様でグラグラとするが抜くに抜けない。
無理矢理引っ張るか悩みながら、作業をしていると小さなけれど決して無視できない電磁音が聞こえてきた。
──まずい!──知覚増幅器が今日何度目かの警告音を鳴らす。
咄嗟に基盤を力任せに引き抜いて、解体していた機械人形から離れる様に伏せた。
衝撃と熱。
息が一瞬で出来なくなって、体は転がってコンクリートの壁にたたきつけられた。
知覚増幅器は再起動をしていて、ずっと呼びかけの音声を流し続けてくれていた。まだ聴覚が残ってくれているということは、知覚増幅器が爆発を感知して、聴覚と視覚にデジタルの保護フィルターを展開してくれたようだ。
おそらく鼓膜は破れていないだろう。
ただし視覚情報は真っ暗なままで、生命徴候情報を流していた。
爆発は四肢を捥ぐまでにはいたらなかったらしいが、その感覚がまるでない。まだ有るか──動くかすら──わからない右手をどうにか動かして、腰ポシェットにあるだろうナノマシン入りの強制回復促進剤を探り当て、太ももに打ち込んだ。
これで赤字が決定したが、背に腹は代えられない、命あっての物種が人生だ。
痛みが徐々に舞い戻ってくる。幻痛出ない限り、確認できていない両足も無事なはずと痛む左手と右手で体を起こす。ちょうど背中には叩きつけられたコンクリートの壁を支えにした。
そんなことをしているうちに、視覚情報が回復してくる。
モニターの三分の一がブラックアウトとノイズで機能していない。なるほど、知覚増幅器は、自己診断を走らせていたようで、立ち上がり──再起動──が遅かったのだ。
自分の両手と両足がつながっていることを確認して動くかを確かめる。痛みと視覚で確かめた。痛みが戻ってきているのは修復ナノマシンが体の中を走り回っているのだ。
手に持っているはずの基盤を探したが、なくなっていた。爆風で吹き飛ばされたのかと辺りを見渡すと、少し離れたところに同業種だろう人影が倒れている。
自分の背負っていたはずの荷物も傍に落ちていた。それに気がついて、腰の得物を触るが、空っぽだった。
やられた、とまだ痛みなく動かせる首で壁をたたく。ミイラ取りがミイラになってしまったようだ。
欲張って死にかけたことは不正解だったが、死ななかったから正解なのか、教訓は山ほど思いついたが、腰ポーチから水の入った小さなスキットルを出して仰いだ。
急激な体の変化に水分が失われているのだろう、のろのろと立ち上がり腰ポーチから、栄養剤──強心剤入り──を取り出して打ち込む。
思考がようやっとまともに動き出した。ともかく、ここから立ち去らねばならない。
物言わぬ同業者の荷物と自分の物を盗るために弄った。
無機物になってしまった胸の辺りには直径15糎ほどの穴が空いていた。うつ伏せになっているのが幸いで、死に顔が判らない。知り合いだったらと想像して、確かめようとも思ったがやめた。
そんなことをしてる場合ではないし、そんなことをして良かったことなど一度もない。
死体のポッケからは、盗られてた銃を取り返した。慣れた手つきで残弾の確認をして──舌打ち──から元の位置に戻し、自分の荷物を背負いなおして、中身を確認せぬまま持ち主不在の鞄を前抱えにする。
静かに歩き始めたが、奇妙というか、何とも言い難い違和感があった。
そういえば遺体はあまり冷たくはなく、盗られた銃の残弾が少なくなっていたことを思い出す。
そして、なぜか周りが静かすぎるのだ。
そこからが、必死だった。
走り始めた。
敵性勢力なし、と視覚情報は宣っていた。たしかに周囲に機械人形の姿はいないし、そんな駆動音も聞こえてこない。もちろん同業者もないのだけれど、走った。
あの場所にたどり着いた道、その通りに戻る。
慎重な行動、足跡足音をなくす最小限の行動をとれと、壊れかけの知覚増幅器が警告音を鳴らしているが、湧き上がる直感が足を無理やりにでも動かしていた。
確かに恐怖が心を満たしていたが、理由もない。ただ嫌な予感だけがある。
身体にあんな風穴は開けられる兵器を使うのは機械人形だけだろうが、ではその機械人形は何処に行ったのだろうか。
前に抱えてる鞄の元持ち主は、あそこで倒れてまだ時間はたっていないようだった。なおさら、無意味な想像と思考で恐怖心が掻きたてられる。
地下への入り口を見つけて、あまりにも警告音や視覚情報が五月蠅くて、知覚増幅器を外した。
入り口に駆け込みながら、後ろを振り返ると空気が動く音がする。
顔肌に不気味な風があたるのを感じていた。
立ち止まていると、小さな振動が微かにようやく感じる。扉に身体を隠して隙間から外をのぞき込み続けた。
足裏から感じる小さな揺れ、顔に当たる振動のその先では遠くで木々がゆれ、時より倒れていく。目をこらすと辛うじて、何かがあって動いているのが判った。
巨大な機械人形が光学迷彩を纏ってゆっくりと前進している。
知覚増幅器を被りなおすと検知できなくなった。外して、理解する。そういう技術で、おそらく最新式なのだアレは。
きっと他の機械人形も、知覚増幅器と同じようにあの存在を検知できないだろうと嗤った。一方的な戦いになるだろうと簡単に予測できる、少なくとも今の技術力では敵が何処にいるかなどわからないのだから。
技術屋として魅了されたように眺めていると、透明で巨大な機械人形に見つめ返された気がした。
ぞくりと、戦慄が走る。
機械人形自体にこれまで恐怖なんてしなかったせいもあるだろう。思わず仰け反ると、バランスを崩してすぐ後ろの階段へと転げ落ちた。
機械は人間なぞ気にもしてないと思ったが、それが間違いだったと階段下へと落ちながら理解したのは、突然に眩しい光線が自分がいた場所へと照射された時だった。
一瞬にして辺りが明るくなって、そしてすべてを崩していく。
隠れていた鉄の扉も分厚い混凝土の壁も、地表に現れていた建物と呼べるものは、光線が薙ぐだけでモノの数分いや数秒で瓦礫と化したのだ。
知覚増幅器を外していたせいで、顔が熱を感じる。
転げ落ちた先で粉々なった混凝土と溶け落ちた鉄筋を避けるために、起き上がりながら地下道の方へ走り出す。後ろでは轟音と埃が巻き上がっていた。埃を帯びた風が追い抜いていく。
振り向くことなく、音が収まるまで走り続ける。息が切れても、足が重くなっても走って幾つもの曲がり角をまがった。
坑道はむき出しの土と混凝土の柱と柱同士をつなげる幅の狭い床と天井で出来ていて、人類が住まう地下街への扉に近づくと使えなくなった生活用品や食料品を包んでいた袋が散乱し始める。
ゴミが増えていく通路に段々と帰ってこれたと安堵し始め、ようやく息を整えた。機械は地下には来ないと解っていても後ろを振り返る。あの壊れただろう地上への出入り口は、もう見えない位置まで戻ってきていた。
分厚いだろう扉の前に来ると、壁についてるカメラに顔を近づけた。
扉が開くと、突撃銃を構えた監視員が呆れた顔で「門限は過ぎてる」 と突っかかてきた。
前抱えする鞄から、目ぼしい物を探って、食料品らしき缶詰を幾つかと骨董品だろう目玉の取れかかったクマのぬいぐるみを差し出す。交渉が成立すると、銃口で「Go home」と街の入り口へと指示された。
そのまま一直線に自宅に戻ってベッドへと倒れこんだ。こんな日は誰にも会いたくない。
暗闇の中、誰かに監視され覗き込まれ、胸に穴があく感覚だけの夢をみた。
荒い息のままベッドで体だけ起こして、そこが自分の住処と理解する。一息する間もなく自分の身体をまじまじと確認した。頭痛もなく、関節も痛くないようでへたな感染症、強制回復促進剤の後遺症もないようで、生存欲求からなのか、安堵した。
今回、ヘマをして死にかけて、幸運が重なってなんとか死に物狂いで走って帰って、ベッドに倒れこんだのだ。埃と泥と汗まみれなのことに気がつくと、段々と気持ち悪さを感じてベッドからはい出した。水しか出ないシャワールームで身体を洗う。
左肩から脇腹にかけて新しい傷跡が出来ていた。顔には擦り傷。右脛にも真新しい大きめの傷。体が正常に動くと解ると、蛇口をひねり水を止め、冷却付き保管庫から水入りのペットボトルを取り出した。飲みながら、ベッドまで脱ぎ捨て外された衣服や装備を拾い集めていく。
確かに来ていた上着部分の一部は切り裂けていたし、入口に落ちていた知覚増幅器も後頭部、右側頭部の外装が割れていた。壊れているものを作業机にまとめて置く。
拳銃の弾倉を装填して、腰のホルスターに戻した。
思わず溜息がでた。
昨日に幾つか拾い集めた基盤や鉄くずなどを取り出して、選別する。使える物、売る物、食えるものや飲めるもの、あとそれ以外。
選別は簡単だ。
物を売って金を作って飯を食うか、それとも壊れた装備の修理費にあてるかが悩んだのが、ため息の理由。気晴らしに電脳でもやるかと思ったが、いつもの眼前じゃないことを思いだした。
作業台に眼をやって、諦めて作業台の椅子に座る。
知覚増幅器の外装はどうとでもなる。肝心なのは内部だった。
損傷したヘルメットを技術手袋で丁寧に解体していく。
外装をはがして分かったが、思ったより基盤やバッテリーの大部分は無事のようだった。
自宅用のコンピュータを接続して、自己診断を走らせて、様子を見る。
が、画面に映し出されたエラーの数々、やはり幾つかの部品を交換しなければならなかった。
故障部分を確認しながら目算をたてる。それらは買い置きや拾い置きしてある部品で何とかなる程度だ。それはいい、何とかなりそうだ。
問題は、取り外した割れた金属繊維を編み込んだ強化合成樹脂だ。これは流石に換えがなかった。いつもの鋳型屋に3Dプリントの特殊依頼をしなければならない。これが金がかかるのだ。
最低限の外装を施した知覚増幅器を装着してのばした線でネットにアクセス、いつもの鋳型屋に連絡する。若い女の声に驚いた。
「人工声帯にしたんだ」と、笑う店主。発注を伝えると、立て込んでいて一週間はかかるとのこと。
しばらくは知覚増幅器は自宅の専用になりそうだ。
ついでに漁った中に売れそうな骨董品があったので引き取ってくれそうな友人に連絡をつけた。
なんとか赤字も最低限になりそうだと、椅子の背もたれに身体を預けた。ふと、夢でうなされたせいだろうか、巨大で透明な機械人形が頭によぎる。
何処の所属なのだろうか、と気になった。汎用の検索型AIを構築して、大海へと飛び込む。
加速するような感覚に情報の洪水だった。
毎秒毎分、いくつものコミュニティ、いくつものミームが乱立して、忘れ去られていく。いや飽きられていくだけか。
慣れた操作で同業者が集うコミュニティにたどり着くと、何人かが透明で巨大な機械人形の話題を興奮気味に議論していた。東陣営だの西陣営だの、”連邦“か“王国”か、それとも”連合“かの所属か。あんな巨大なものをどうやって透明化させてるのかを議論してるグループある。あと五年もすればそんな技術は市場に降りてくるというのが、通例だ。今回もそうなるだろうと、誰かが笑う。
Read Only Memberに徹していると、技術的なことや所属の議論の結論もでないまま、アレの呼び名をどうするかという俗物的な話題になっていく。
「Leviathan」「ベヒモス」「ロタン」「Asmodeus」次々にあがる名前はどれもパッとしない。
Leviathanを強く主張――うるさいくらいに連呼――するアバターは、いかにもな姿だったので、こっそりと視覚情報にお邪魔することにした。一応のⅠ Cはあったが、既製品しかも安物だった。
そのまま彼女の部屋を拝見することしてみると、地下ではなく安全地帯のそれも地上住の典型的な十代の部屋だ。リアルタイムの映像を撮って「Message:半年ROMれ」を添えて送ってやると、ようやくLeviathanは黙った。
そんなことをしてる間に、俗物的な結論は「サンタクロース」という皮肉めいた結論に落ち着く。鼻で笑った。
ネットから抜け出して、知覚増幅器を外す。
アラームが鳴って時間を確認すると、友人に売り物を渡し行く時間だ。
視覚増幅器をして、もう一度腰の銃の動作確認をする。
小さな鞄に売り物を詰め込んで、ジャケットを羽織った。
鼻で笑ったことを思いだして、「メリークリスマス」と呟いて出かけた。




