追憶
「入口」
うざったい日差しが
今日も僕らを照らしている
君の無言が少し痛い
風だけが喋って
陽の光は僕らを
避けるように揺れていた
蝶々が横切り
遠くの山で烏が鳴く
口に放り込んだラムネが
甘ったるくて
君にもあげようとしたけど
君は静かに首を振る
そして最後に一言
またね
と呟いた
「アルバム」
今日も日差しが照らす
眠たげな坂道を
蝉の声もない
風の音もない
足音だけ響く
あの日の思い出はもう
霞んでしまって
二度と思い出せないだろう
ひとつ、ひとつ忘れていく
思い出を 君の言葉を
そしていつしか君以外の
人と笑いあっているんだろう
全部アルバムに詰め込めたら
何度でも思い返せるのに
「漂う」
今日も空が青い
蒸し暑い風が吹く
一人で坂を下っている
もうあの青にも風にも
何も感じなくなった
思い出も忘れてしまって
思い出せるのは君の姿だけ
あの日笑ったことも
君が語ってくれたことも
夏の暑さに 溶かされて
雲と一緒に漂っている
いつか風に運ばれて
跡形もなく消えるだろう
音もなく、色もなく。
「じゃあね」
君との別れは
きっと静かに
じゃあね
って伝えるだけが
私たちらしくていいんだ
空の青だけ眺めて
日差しに照らされて
風に吹かれて靡いた髪を
また梳かし直す
雲と時だけ流れて
静かに歩いて 私は
やっぱり、一言だけ
じゃあね
「忘れた日」
うざったい日差しが
今日だけは僕らを無視した
君の無言が心に刺さる
風だけが喋って
陽の光が僕らだけ
光に当てずにいた
蝶々が横を飛び交って
烏が今日も鳴いている
口に放り込んだラムネが
甘ったるかった
君にもあげようとしたけど
相変わらず 静かに手を振るばかり
君が最後に一言だけ
じゃあね
って呟いた
僕も返そうと思ったが
言葉は心の中で止まった
「新しい日」
靴紐を結び直して
懐かしい坂道を下って
店の前で待っていた
駆け寄ってきた君が
誰かに似ていて、
でももう思い出せないから
心の中を渦まくこの感情を
見ないふりをしていた
君の笑顔が 君の言葉が
なにかに重なる
でも いつの日か
それも忘れて
君の笑顔だけ
僕の心に残るんだろう
それが 人生で 世界なんだ