Last Order 最終任務
人類に下された最後の命令
南極の中央にある直径100キロメートル<大穴>にある薔薇色の地底世界<ネノクニ>には巨人の遺骨が無数に広がっていた。地獄界<ゲヘナ>からの侵略で激闘を繰り広げた巨人族、天界の四大天使軍、人類軍は最後の決断を迫られる。大天使長ミカエルから下された最後の命令を人類軍は遂行する。
「巨人族から<ネノクニ>の封印要請がありました。メガネ君、あなたの部隊でディダラボッチさんの所に行って。最終封印をしてほしいの」
大天使長ミカエルことシスティーナから思念波通信があった。
メガネは肩を落として、自分達の不甲斐なささに唇を噛み締める。
せめて、この最後の任務ぐらいはちゃんとやり遂げようと心に誓う。
「了解です」
人類軍の切り込み隊長として活躍したメガネは天界から供与された全長三百メートルほどの青い天使型機動兵器<天翼の騎士>のコクピットから巨人の屍が広がる薔薇色の地下都市<ネノクニ>を見下ろした。
メガネは眼鏡をかけた二十代のオタクに付けられた雑なあだ名である。
南極大陸の中央にある直径百キロメートルの<大穴>の底にあるその巨大都市は、地獄界の侵略者からの地上の最終防衛ラインであった。
一万二千年前にも巨人族と天界の天使の奮戦と一部の人類によって、その戦いは何とか引き分け、壊滅的な被害を出しながらも、次元GATEの封印に成功した。
今回もどうやら力及ばず、巨人族に頼ることになってしまった。
メガネの青色の天翼の騎士は薔薇色の地下都市<ネノクニ>に降り立っていた。
「デイダラボッチさん、聴こえますか? 大天使長ミカエルから最終封印を頼まれて来ました」
メガネはデイダラボッチこと、全長二キロメートルの手足が長くひょろりとした人造巨人兵器に思念波で話しかけた。
デイダラボッチは昔話にも出て来るが、秘密結社<天鴉>が古代に造った<対巨人人造巨人兵器>であり、いわゆる巨大古墳には巨人族の遺体が祀られている。
たまにそれがゾンビ的に復活して暴走するので、その対策としてデイダラボッチが造られた。
「はい、聴こえますよ。最終封印、請け賜わります」
灰色のデイダラボッチの中から角田六郎の声がした。
彼は人造巨人兵器を操ることができる血脈の古代氏族角田一族であった。
少し禿げた普通の40代の中年の男だが、普段は「巨人伝説研究家」を生業として、時折、古墳や聖山から暴走して復活する巨人を戦略自衛隊と協力して保護し、世論操作ニュースでその事件を誤魔化すような仕事をしていた。
難儀な仕事である。
が、こんな南極大陸の地下都市などに出張させられてる事自体が災難とも言えた。
彼にしかこの仕事は出来ないので仕方ない。
地下都市の空中五十メートル付近に、直径百メートルほどの淡い薔薇色の光の輪が浮いていた。
それは孵ってしまった<ルシファーの卵>であり、その薔薇色の光を放つ輪は次元GATEを形成していた。
デイダラボッチは闇色の無数の触手を次元GATEと融合して、そのまま体内に取り込んでいく。
そして、そのデイダラボッチはアメーバのように融解して地面へと溶け込んでいった。
角田六郎はデイダラボッチと分離して、メガネ隊の副官の夜桜の漆黒の天翼の騎士に乗り込んだ。
そして、百機ほどのメガネ隊の<天翼の騎士>が地下都市<ネノクニ>から浮上して地上へと戻っていく。
だが、眼下では百体ほどの生き残りの光の巨人族が居残っていた。
光の巨人族は自らの身体を呪術の贄として最終封印とし、大地に溶け込んでいった。
一瞬、大地から十枚の光の羽のよう幻影が見えたような気がした。
「最終任務完了」
メガネは大天使長ミカエルに思念波通信を送った。
メガネ隊の百機の天翼の騎士の搭乗員はコクピットで静かに敬礼していた。
また、一万二千年後に。
お題で執筆!! 短編創作フェス参加作品 最終第七回お題「10 羽 命令」