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ジェイドの話とお茶会と

 エリザベートがまず行ったのは、アランの好みの調査だ。

 その為にも本当は乳兄弟であり侍従である少年に話を聞きたかったのだが、どうやらエリザベートは嫌われているらしく、やたらあたりが強いのだ。彼に聞いても正確な情報は手に入らなさそうだと諦め、他に聞くことにした。

 だが、あまり有力な情報は手に入らなかった。どうやら花があまり好きじゃないらしい、という情報が一番の収穫で、他は本当にささやかな噂話位しか手に入らなかった。


 手詰まりになったエリザベートは、駄目元でとある人物に話を聞けないか聞いてみることにした。多忙を極める人だから無理だろうと思っていたが、あっさり許可が出てすぐに会えることとなる。



「我が国の太陽、国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しゅう」


「あぁ、そういうのはいいよ。悪いんだけど取れた時間があまり長くないんだ。さ、座ってくれ」


 カーテシーをし挨拶するエリザベートを制し、国王ジェイドはおっとりと微笑んでみせた。



 柔和な顔立ちで物腰も柔らかい為侮る者も多いが、ジェイドはこう見えてかなりの切れ者だった。

 先の戦争でも瞬く間に兵站を整え武器を搔き集め、ミレナに一切の不自由をさせなかった。それには最高権力者の方が都合がいいからと、突然の戦で混乱する中さっくりと王位継承までこなしてみせた傑物だ。

 優し気に微笑む様子は好意的なように見えるが、エリザベートはずっとプレッシャーを感じていた。


 緊張のあまり表情の硬いエリザベートに、ジェイドは安心させるように微笑みを深めた。


「緊張しないで、と言っても難しいか。安心してほしい。ミレナが可愛がっている子に意地悪なんてしないよ。とっておきの秘密を話すくらい仲が良いみたいだし、ね」


 ぎくりと体を揺らしたエリザベートを、ジェイドは変わらぬ微笑みのまま見守る。

 ミレナと話をしていた部屋には確かに誰もいなかったはずなのに、何故か話したことを把握されている。これは役者が違うと、エリザベートはあっさり諦めてため息をつく。格の違いを見せつけられ、逆に肩の力が抜けたのを感じた。


「お見通し、ですのね。……処罰なさいますか?」


「いいや? 僕はミレナのすることを絶対に否定しないと決めているからね。何もする気はないよ。それに、君は賢い子だからやってはいけないことはやらない。そうだろう?」


 ミレナの話した内容はあまりにも重い物だった。魔女の話も英雄の話も、本来なら婚約者の段階で聞くべきものではない。

 それなのに聞いてしまったエリザベートは、本当なら秘密を守る為にも何かされてもおかしくないのだが、ミレナが気にするからだろう、何もないらしい。

 だがしっかりと釘は刺され、エリザベートは頷いてみせる。元々ミレナが信用して話してくれたのだから、誰にも漏らすつもりはなかった。

 ジェイドはそれを見て満足そうに目を細める。


「さて、悪いんだけど本当に時間がなくてね。聞きたいことがあると聞いたよ。教えてくれるかい?」


「はい。その、不躾で申し訳ないのですが……陛下はアラン様の好みをご存じでしょうか。何でもいいのです。お聞かせください」


「あぁ……、交流のお茶会のことは耳に入っているよ。流石に最近は行き過ぎだと思ってたんだ。僕からも注意しておくよ」


 あっさりとそう言ったジェイドに、エリザベートは慌てて首を振った。


「あ、いえ、別にそれはいいのです。私がこれから努力致しますので。でも、アラン様の好みを知らないと今後の方向性も決められないので、それだけご相談させていただければと存じます」


「そうかい? ……うーん、アランの好み、かぁ」


 ジェイドは眉宇を寄せて悩み始めた。

 しばらく考え込んだ後、少し困ったような顔をする。


「本人から聞いたわけではないんだけど……。多分アランは賢い子が好きだね。それに、努力家を好んでいると思う。アランが自ら選んだ側近達はそういう子ばかりだし。ただ、エリザベート嬢が聞きたいのはアランの異性の好みだろう? そういう私的な会話はそんなにしていないからあまり詳しくないんだ、すまないね。だけど、多分エリザベート嬢のことは好みなんだと思うよ。アランが異性のことを僕とミレナに話してきたのは本当に初めてのことだから」


「い、異性の好みまでお聞きしたいのではなく! その、お好きな花とか、好物とか、そう言ったささやかなものをお聞きできれば有り難いと思いましたの」


 顔を真っ赤にして焦るエリザベートを、ジェイドは微笑ましいものを見る目で見ていた。エリザベートはますます顔が火照るのを感じる。


「好きな物ねぇ……。そうだな、甘い物が好きだね。紅茶も華やかな香りの物は好まなくて、果実などで軽く香り付けされた飲みやすい物をよく飲んでいたよ。後は剣の鍛錬も好きだね。英雄であるミレナのことを尊敬しているらしく、少しでも近付きたいと言って暇があれば鍛錬してるよ」


「……香り高い紅茶は、お好きではありませんの?」


「そうだね。多分アランは鼻がいいんだと思う。強い匂いがあまり好きじゃないんだ。香水の匂いもあまり好いてなかったはずだよ」


 エリザベートはアランに会う時はいつも徹底的にめかし込んでいた。当然いつもはつけない香水も多めに振り掛け、少しでもいい印象を持ってもらおうと努力していた。しかし、逆効果だったらしい。

 顔色を悪くするエリザベートを見て、ジェイドは少し困ったように笑う。


「エリザベート嬢の香りはそこまで強くないから大丈夫だと思うよ」


「いえ、次回からお会いする時は香水はつけないようにします。元々そこまで好きではないのです。香をたいて少し香りを移すくらいの方が私としても好みですわ」


「あぁ、そのくらいなら問題ないんじゃないかな。……申し訳ない、エリザベート嬢、そろそろ時間のようだ。話せて楽しかったよ」


「私の方こそお時間頂戴致しまして、ありがとうございました。とても有意義な時間でしたわ」


 本当にわずかな時間をなんとか捻出してくれたらしい。短い時間だったが、アランの好みが聞けただけで十分な成果だ。

 立ち上がったジェイドに対し、エリザベートも丁寧に礼をした。

 立ち去ろうとしたジェイドだったが、ふとエリザベートの方を振り向く。困ったようへにゃりと眉を下げたその表情は、恐らく素の物だろう。先ほどまでの微笑みとは違い、どことなく人間臭かった。


「最後に一つだけ。エリザベート嬢、ミレナと仲良くしてくれて本当にありがとう。君と会える日はいつもとても嬉しそうなんだ。……彼女だけは、いつでも君の味方をしようとしている。どうか、ミレナの事だけは嫌わないでいてくれると有り難い」


 そういうとエリザベートの返事を待つことなくジェイドは今度こそ立ち去って行った。

 不吉な言葉にエリザベートの胸が騒いだ。ジェイドは独自の情報網を持ち、そして未来が見えるのではないかと思う程の頭脳を持っている。ミレナに聞いた話ではジェイドも英雄に作り変えられたということだ。恐らく頭脳特化型なのだろう。

 そんな存在が発した言葉だ。根拠がないとはとても思えない。


 恐らく、ジェイドはエリザベートが絶望し、ミレナのことすら嫌うような事態になることを予想している。


「……大丈夫、ですわ」


 自分を安心させるように呟く。

 大丈夫だ、もしアランに嫌われても、婚約解消されたとしても、それとミレナが関係ないことは把握している。それに、エリザベートが努力すれば、きっと現状は変わるはずなのだ。

 だが、そう思い込もうとしてもエリザベートの胸のざわめきが治まることはなかった。




 次のお茶会の時、エリザベートは予定時刻より前に到着し、茶会の用意をする侍女に声をかけた。


「本日のお茶会ですが、こちらの茶葉を使っていただけるかしら? 王妃様の許可をいただいておりますの」


「王妃様の、許可、ですか……」


「確認いただいて構いませんわ。毒見も、必要でしたらしてくださいな。あぁそれと、場所も室内に変更してください。ここは花の香りが強すぎますわ。こちらも許可いただいております」


 エリザベートが二コリと笑いながら持参した茶葉を押し付けると、侍女は戸惑いながら受け取った。

 突然の変更に慌ただしく動き始める使用人達には悪いが、彼らの仕事ぶりを見るのも目的の内なのだ。今回だけだから許してほしい。


 エリザベートの側に控えているミレナ腹心の侍女が、鋭く使用人の動きを見極めている。

 エリザベートも同じように見てはいるが、流石にただの御令嬢であるエリザベートに不審な動きをしている者がいるかは見分けられない。ミレナから侍女を借りてよかった、と、そっと息をついた。事情も聞かず頼み事をすべて快諾してくれたミレナに感謝の気持ちが募る。


 ジェイドの話を聞いて、エリザベートは不審に思った事があった。

 アランの嗅覚が鋭いのであれば、お茶会の会場が花園の近くであることも、紅茶が香り高いものが用意されているのも、明らかに不自然だ。エリザベートの好みで用意された、というわけでもない。

 アランの苦手なものばかり用意して、まるでさっさと立ち去れと言わんばかりではないか。明らかに何者かの悪意を感じた。

 それを炙り出す為に、突然の変更を行ったのだ。


「……エリザベート様、この場の責任者が動きました。方向から恐らくミレナ様に確認に行ったのかと思います。こちらは問題ないかと存じます」


「そうね、ミレナ様への確認は必要だものね」


「もう一人動いた者もおりますが、こちらは王太子殿下に近しい使用人です。恐らく場所の変更を伝えに行ったのかと思いますが……」


 少し言いにくそうに口ごもる侍女を、エリザベートは優しく促した。


「わかったことはなんでも教えて頂戴。推察でも構わなくてよ。今は少しでも情報が欲しいの」


「……はい。そうですね。少し、全体的に若すぎるのが気になります。仮にも王太子殿下とご婚約者様とのお茶会ですのに、責任者以外、経験の浅い者ばかりで。これでは有事の対処が難しいかと存じます」


「有事……? 警備兵は別に配置されていてよ」


「有事とは荒事だけではございません。その……仮定ですが、王太子殿下とエリザベート様に何か問題が起こったりした際に適切に動き、直接上に報告出来る者がいないかと」


「そう……」


 つまり、何かあっても握り潰しやすい者しかいないということか。

 ジェイドは問題があることを認識していたようだが、恐らく彼独自の情報網で手に入れた情報なのだろう。アランに何かあれば一緒に報告を受けるだろうミレナが何も知らなかったのがその証拠だ。

 恐らく、今までの報告では全て問題なしとされていたのだ。


「責任者の者も、あまり身分が高いわけではなかったはずです。圧力がかかったとして、撥ね付けられる者はここにはいないように見受けられます」


「……そう、ありがとう。助かったわ」


「勿体無いお言葉です」


 丁寧に頭を下げる侍女に微笑み返し、エリザベートはしばし考えに耽った。

 言われてみれば確かに慌ただしく動く使用人達は年若い者ばかりだ。アランとエリザベートが気軽に交流できるようそうしたのかと思っていたが、もし言うことを聞かせられる者だけを選んでいたとしたら。


「ねぇ、アラン様の従者……そう、デビットと言ったかしら。彼より上の者はこの場にいる?」


「デビット様は王太子殿下の信任厚く、代々続く由緒正しい子爵家のご出身です。長く王家に使えてきた歴史ある家門ですので、あの責任者の方が立場的には上なのですが、実際にはデビット様の命に背くのは難しいかと存じます」


 アランを迎えに来る度にエリザベートを嘲笑うように見てくる少年を思い出す。

 恐らく彼が実行犯なのだろう。問題は、何故そんなことをしているのかだ。


 エリザベートが考え込んでいる間に、お茶会の用意は出来ていた。

 エリザベートは用意した茶葉が使用されているのを確認する。ベリー系の爽やかな風味が微かに香る、エリザベートのお気に入りの茶葉だ。問題なくセッティングされており、部屋に飾られた花も香りが強いものはない。

 満足げに頷くエリザベート。そこに、アランの到着が告げられた。


 今日は珍しく従者のデビットと一緒に現れたアランは、いつもより困ったような顔をしていた。

 カーテシーをするエリザベートに席を勧め、アラン自身も着席するとため息をつく。後ろに立つデビットは苦々しい顔をしていた。


「エリザベート嬢、直前で段取りを変えるのは皆への負担も大きい。次からは気を付けてくれるだろうか」


「申し訳ございません。今回限りです。アラン様に私の好きな茶葉をお飲みいただきたかったのですわ」


 挨拶もそこそこに苦言を呈すアランに、エリザベートは殊勝に謝罪してみせる。

 エリザベートの好きな茶葉、という言葉に、アランは不思議そうな顔をした。


「今までのはエリザベート嬢の好みではなかったのか?」


「えぇ、私甘くて優しい香りの紅茶が好きなのです。お恥ずかしながら渋みが強いのが得意ではなくて……。たっぷりとミルクを入れていただくのが好きで、家ではよくそうして飲んでおりますの」


「そうなのか? それはすまない。今後はミルクを用意させよう」


 アランの視線が一瞬デビットの方に向けられたのを、エリザベートはしっかりと見た。

 恐らくエリザベートの好みだと言って今までの茶葉を用意していたのはデビットだろう。だがそれを問い詰めたとして、勘違いしていたとでも言い逃れされて終わりだ。この場で追及する必要はない。


「それに、お花は好きなのですが、今が盛りですので香りが強く酔いそうで……。出来れば今後は屋内でお茶会をさせていただきたいですわ」


「確かに、最近は特に香り高くなっていたな……。わかった。今後はそうしよう。今までエリザベート嬢の好みを間違えていたようだ。すまない」


「いえ、私もお心遣いを無為にしたくなくて言い出せず、申し訳ございません。今後は何かありましたらアラン様にお伝えするようにしますわ」


「そうだな、誤解があるといけない」


 頷いたアランの後ろで、デビットは益々苦々しい顔をしていた。

 間違いない。アランの苦手な香りの強い花園でお茶会を開き、アランもエリザベートも苦手な香り高く渋みの強い茶葉を用意していたのはデビットだ。嗅覚が鋭いアランにとっていつものお茶会はさぞかし居心地が悪かったことだろう。


 恐らくデビットはアランをエリザベートとの茶会に長居させたくないのだ。それが証拠に、いつも困った顔をしていたアランが、今日は紅茶を飲みながら穏やかな表情でくつろいでいるのを難しい顔で見つめている。

 ……アランはエリザベートの好意が嫌で逃げていたわけでは、ないのだ。エリザベートはその事実をそっと嚙み締めた。


 それからアランとエリザベートは初めて穏やかにお茶を楽しんだ。


「アラン様のお好きな食べ物はございますか? 次の機会に一緒に楽しめたら嬉しいです」


「そうだな、私は甘い物が好きで、特に揚げ菓子に砂糖をまぶしたものをよく食べるよ」


「まぁ……、私食べた事がございませんわ。どんなものか知りたいです」


「次回用意させようか?」


「是非!」


 エリザベートが微笑めば、アランも微笑み返してくれる。

 それが嬉しくて、幸せで、エリザベートはずっとニコニコ笑っていた。

 だが、楽しい時間が過ぎるのはあっという間だった。


「アラン殿下、そろそろお時間です」


「あぁ、もうそんな時間か。エリザベート嬢、申し訳ないが予定があるので先に失礼するよ」


「……はい。貴重なお時間をありがとうございました」


 デビットに声をかけられたアランは、未練なく席を立つ。ぎこちない笑みを浮かべるエリザベートに微笑みかけると、アランはあっさりと立ち去った。

 いつも通り、アランはデビットと何やら楽しそうに話しながら歩いていく。それを笑顔のまま見送り、エリザベートはそっと手を握り締めた。


(大丈夫、大丈夫よ。いつもより長くお話出来たし、次回お会いした際の約束まで出来たわ。初めてで望みすぎてはいけないもの。大丈夫、大丈夫、きっと、これからもっと仲を深めていけるわ)


 アランの滞在時間はいつもに比べれば格段に長くなった。彼が多忙だということも知っているから、例えお茶会の時間が小一時間に満たなくても、文句なんて言ってはいけない。

 それに彼の好物まで聞けたのだ。今までのエリザベートが一方的に話すだけの物に比べれば、素晴らしい進歩といえる。だから大丈夫だとエリザベートは自分に言い聞かせる。

 その行為自体不安がなければするはずないということには、必死に気付かないふりをした。



 ーーエリザベートのそんな努力も虚しく、次回のお茶会では、いつも用意されている無難な菓子しかなかった。


「あれは淑女に食べさせるようなものではないらしい。美容によくないそうだ」


 震える声で揚げ菓子のことを確認するエリザベートに、アランはなんでもないように言い放った。


「……私はかまいませんわ。アラン様の好物を、一緒に食べてみたかったのです」


「いや、無理をしないでくれ。令嬢はそういったことには敏感だと聞いている」


 ちらりとアランがエリザベートの身体に視線を走らせたのを感じて、エリザベートは屈辱に頬を染めた。

 エリザベートは別に太っているわけではない。折れそうな程華奢な姉と比べれば確かに太いのだが、鍛えているエリザベートはしなやかな筋肉がついてはいるが令嬢の平均より細い。

 だが、思春期になるにつれ大きく膨らんだ胸が好きではなく、目立たせない為にあえて腰を絞らないデザインのドレスを着ているせいで少し着膨れしてる感は否めなかった。

 それでも少しくらい揚げ菓子を食べたとして、なんら問題はないのだ。

 それを伝えても、アランは少し困った顔をするだけで、結局有耶無耶になってしまった。


 確かにアランがお茶会にいる時間は増えた。

 だが、それですべて解決とはいかない。時間が増えただけで、アランが途中で切り上げるのは変わらないのだ。

 どれだけ楽しく話せたと思っても、デビットが呼びにくればそれで終わりだ。

 あまりにも緊急の用事が多すぎなのではと思い調べたが、一応全部本当のことらしい。エリザベートからしてみれば緊急性が低いのではと思うものもあったが、まだ知らされてない事情などいくらでもあるのだからそれ絡みだと言われればどうしようもない。

 それでもエリザベートは少しでもアランを楽しませられるように、色々手を尽くした。

 しかしどうしても二人の距離は縮まず、一定のところで線を引かれて踏み込ませてもらえないようで、エリザベートは次第に疲弊していった。


「エリザベート嬢、教師陣が褒めているのを聞いた。とても優秀だ、未来の王妃に相応しい人物だと。君は本当に努力家だな。その勤勉さを僕は本当に尊敬しているんだ。僕も負けていられない。より一層励むことにするよ」


 だが、アランが微笑みながらそんなことを言うだけで、エリザベートの恋心はすぐに息を吹き返し、ますます燃え盛った。


(大丈夫、大丈夫。アラン様に嫌われているわけではないもの。お互いに忙しいのだから、時間が合わないだけ)


 アランに任せられる仕事がどんどん増えているのだと、お茶会で本人から聞いた。

 誇らしげに、嬉しげに話すアランに、聞いていたエリザベートも嬉しくなったものだ。

 それでお茶会の頻度が少し減ったのも仕方ないと、諦められた。


(本当に? ただでさえ少ない交流の機会が減るのを、諦めてしまっていいの?)


 自分の心が発する問いには、気付かないふりをした。そんな気付いてもどうしようもないことなんて気付きたくなかった。

 いつまでも近づかない距離にとっくに心は限界だなんて、知りたくなかった。



 自分の悲鳴には気付かないふりをして騙し騙し交流を続けていたエリザベートだったが、ついに決定的な出来事が起こってしまった。


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