プロローグ
お待ちいただいていた方には大変長らくお待たせしてしまい申し訳ありません!
狂う程の恋心を利用出来たとしたら、に登場したエリザベートの話、やっと書き終わりました……!!
うららかな午後、美しい花々で彩られた庭園の中、お茶会をしている男女がいた。
少女が一生懸命話しかけるのを、少年は困ったような顔で聞き流している。
一方的に話す少女の顔は少し強張っていて、あまりに会話が弾まないため気まずい空気が二人を包んでいた、
そんな中、少年の侍従が緊急の用事だと呼びに来て、あっさりと少年は席を立った。お茶会が始まってからまだほんの少しの時間しか経ってないというのに、少年は助かったと言わんばかりの笑顔を浮かべ、呼びに来た少年と楽しそうに話しながら足早に立ち去る。必死に笑顔を作って見送る少女を振り返ることは、一度もなかった。
残された少女の頬に水滴が伝ったのを、使用人達はそっと目を伏せ見なかったふりをした。
一人の少女が俯きがちに王城の廊下を歩いていた。
可愛らしく飾り立てられてはいるが、少女自身の容姿がおとなしめなせいでフリルやリボンで彩られた衣装に着られている感が強い。その雰囲気は暗く、まるで萎れた花のようだった。
とぼとぼと歩く様子からは生気が感じられず、憂いをおびた表情も相まって付き添いの侍女がいなければ幽霊にでも間違えられたかもしれない。
行きかう人々も少女を避けるように動く為、周りにぽっかり空間が空いている。それを見て少女はため息をつき、その雰囲気は益々陰鬱なものとなっていった。
「あれ、リーザじゃないか。一人なのかい? アランはどうした?」
「ミレナ、様……」
不意に声をかけられ、のろのろと少女が顔をあげる。
燃えるような赤い髪が印象的な女性が足早に少女の方に歩いてきていた。背が高く、がっしりとした体格の女性は騎士のような服に身を包んでいる。心配そうに少女を見る顔は凛々しく、胸の膨らみがなければ男性に間違えられそうな程精悍だった。
「その、ご用事があるとのことで先に戻られましたの」
「用事ぃ? 今日は何もなかったはずだけど……」
赤い髪の女性ーーミレナは不意に口をつぐむと、じっと少女を見る。
よく見れば縮こまっている少女の目のふちは赤くなっている。そして目と頬の化粧だけ不自然に濃い。まるで後から直したように。
ミレナの雰囲気が変わる。気圧されるような覇気が辺りに満ち、慣れているはずの護衛の騎士達まで顔色が悪くなった。
「リーザ、正直に答えてほしい。……交流の為の茶会、アランがすっぽかすのは何度目だ?」
歴戦の強者でも震えるだろう覇気を正面から受け止めても少女は顔色一つ変えなかったが、真っ直ぐな視線には気まずそうに視線を彷徨わせた。俯きがちに視線をやり過ごそうとする少女と眼をそらさないミレナの攻防がしばらく続き、少女は観念したように息をついた。
「……ここ半年は毎回でしょうか。お忙しいようで、お茶の一杯を一緒に出来るかどうかです」
「ここ半年……。あたしの記憶違いでなければ、リーザが婚約者として正式に決まったのは半年と少し前じゃなかったかい?」
「……そう、なります」
「じゃあほとんど全部じゃないか」
何やってるんだあいつは、と忌々し気に吐き捨て、ミレナは大きなため息をついた。その途端覇気が消え去り、周囲の顔色が少しよくなる。
悩むようにガシガシと頭を搔いた後、ミレナはそっと少女に手を差し伸べた。
「どうやら、一度話す必要がありそうだ。あたしで申し訳ないが、茶会の招待を受けてくれるかい? ……エリザベート嬢」
「光栄ですわ。謹んでお受けいたします。ミレナ王妃様」
うやうやしく手を取りながら、少女ーーエリザベートは微笑んでみせた。




