プロ 街
ゆらりゆられて雲の気分である。いや、家の風鈴か。頭が揺れて首が痛い。
今更ながら、これまで私は人間の格好から大きく逸脱したことがないことを思い出した。他人が化け物になったときも、私はいつもの格好であった。
しかし、今回は私の身体が変わった。とうとう、私の頭もいくところまでいったかと思うと、ビニール袋がないことにも説明がつく。
すると、変身はしていても人間型をやめられないところに私はまた笑った。
それでは、少年となった私は人間であろうとするかわいた欲求と変身欲求が混ざりあったのではないのか。
そう思い、どうでもいいかと思考を止めた。どうでもいいことだ。
ゆらりゆらりと雑草の気分である。道端にある長い雑草に赤いてんとう虫がのっている。てんとう虫がふらふら飛ぶと視界には赤い空が広がった。
その中に黒い星が一つだけ浮かんでいた。いつもの、目に痛いほどきらきらとしている星々の中から目立ちたがりが駆け抜けしたのかと思った。
それにしては黒くて、なるほど、夜空では目立たないから今来たのかとわかった。
することもなく、黒い星をじっと眺める。黒い星もこちらを眺めているのだと思うと、私は黒い星を睨みつけた。少し経ち、行者からいい匂いとこちらに話しかけようとする気配がしたのでそちらを向くと、手にはパンがあった。
行者の目に私がよく見る侮蔑と気遣い、そして一抹の自分が上位者であることへの安心感が混ざった色が見えた。ありがたくパンをもらって空をみると、空はもう黒くなってあの星は見えなくなっていた。
*
暗い中、馬車は進む。寒くて皮膚の感触がなくなってくる。
私は寒さに強い。いや、寒さが好きだ。
空気と自分の身体の境目がわからなくなって、少し安心する。
黒い世界も好きである。
そんな黒い世界を赤い火がむやみに壊す。行者が正面のランタンに火をつけたようだった。躍り出た匂いが我が物顔で黄色く漂う。
ランタンが輝き、私は反対方向を向く。
それでもその小さな光と強烈な匂いが私の世界に波を立てた。邪魔くさい光であったが行者には逆らえない。寝ることもせず、ひたすらに馬車は進む。
数分だろうか。いや、もっと長かったと思うが少し赤みかかった黒い世界に慣れてきたころ、その世界がもっと赤くなっていることに気づいた。
赤に侵食されている。
前を見るとやはり教会だ。教会の前では赤い光があたたかみをもって、揺れていた。邪魔だと思ったが、目的地なのだろう。しかたがない。
行者がそそくさと教会に入り、一人馬車に残される。遠くをみると真っ暗で、そのなかへ走りだしたい気持ちが湧いてくる。私は馬車から降りて、暗闇へ走り出した。