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プロロ   新たなる世界へ

森に落ちた。どこから落ちたかはわからないし、おしりは痛い。どうやって森に来たのだろう。それともそういうふうに見えているだけなのだろうか。


とりあえず服は着てるが、立ってみると目線が低い。それでも歩こうと思った。


しかし、はたと一つ気づいた。手にビニール袋がない。今までどんな世界に行ったとしてもビニール袋と供だった。化け物と戦ったときもビニール袋が助けてくれた。絶対にビニール袋は一緒にいたのだ。少しぷにぷにする手を新鮮に思いながら、若くなりたいと思うのは人間だけなのだろうかと思った。



今は昼間に見える。雲の白さに助けを求めた。白はいつも私の味方だった。しかし、それも私を無視した。


まぁ、良いかと歩き出す。それだけで良かった。


緑は特に何もしない。ただ、私を見つめるだけである。黒も同じだ。白が特別で、星が鼻につくだけだ。


ここは管理された森なのだろう。枝に剪定された痕がある。また人かと辟易したが、人でない可能性もあるかと遅まきながら気づいた。


ごわごわした服の生地が歩く度に私の表面を掻く。白くて柔らかいだろう皮膚は赤くなり、ついでに痛みも与える。足も短いせいで一歩が小さい。地面の傾斜がきつい。ここは山だったようだ。思うように進まないが、新鮮な気持ちでもある。ただ、それにも意味はないが。


一人の人間に出会った。腕っぷしの強そうな斧を手に持つ成人男性だ。ひげを生やし、こちらを威嚇しているのか。目を細め、訊いてきた。



「どうして子供がここにいる?」



また、会話だ。そう思った。しかし、応えなければ殺される。そう思った。


しかし、何もしなくても別に良かったようだ。男の白髪が囁いたのだろう。助かった。



「……お前ぐらいの子供を見なかったか?女の子だ」



人の子に「お前」とはいかがなものかと思ったが、それもそうかと心の中で笑った。私には「お前」と呼ばれることに文句を言う権利もない。

首を振った。



「そうか……」



その目に失望が走ったのを見た。そして、私を邪魔と思う気持ちも。その黒い光は私を照らしていた。


だが、それが実行に移されることはなかった。彼の目で女性がそうさせた。



「村に連れて行こう。孤児院があったはずだ」




男は子供の両親の無知を恨んだ。道徳的な意味ではない。この子供がいなければ自分はまだ娘を探していたのにという恨みだ。これで子供でなかったら放置。自分がもっと悪い大人であれば殺人だっただろう。子供の両親もきっと望んでいたはずだ。だが、殺せなかった。


子供には歩かせる。男は、歩いては後ろを振り返り子供が来るのを待つ。そしてまた歩き、後ろを振り返る。それの繰り返しだった。







森を抜けると平地である。空は赤くなり、平地に連なる畑は燃えているようだった。道を進むと家がまとまって建っている。なるほど、これが村かと思った。村では他の誰にも会わなかった。もう暗くなるところだからか。それともただのたまたまか。


進むと教会があった。大きな建物に鐘がついている。これが教会でこれからお世話になるところだと理解した。村民の信心はさぞ高いのだとわかると笑いそうになった。


男が扉を開けると十字架が出迎えてくれた。金色のキャンドルが壁にくっついており、その全ての蝋燭に火がついていた。白色の服を着た、いかにもな神父が祈りのポーズを止め、こちらを向いた。その顔には微笑みがくっついていた。



「おや、娘さんを探していたのではないんですか?」


「……この子を森で拾った。捨て子だ。育ててやってくれ」


「ああ、いいでしょうとも。ここは神の家。誰でもその扉は開いています。異教徒以外ね」



神父がこちらに手をこまねいた。



「ああ、なんて可哀想に。子供を捨てるなんぞ同じ人の行いとは思えませんなぁ。この子は親も無くさぞさみしい思いをしたに違いありません」



男が帰ろうとする。その背に神父が声をかけた。



「森で生きていたなんて本当に運が良かった。神のご加護でしょう。ほら、あなたもこの子をここまでもってきたのです。きっと娘さんは見つかりますよ。神を信じていればね」



ぎいと音を立てて扉が閉まり、神父と二人きりになった。



「異教徒には罰を」






その後、男を見かけることはなかった。神父と確執があるらしいので近寄ってこないだけかもしれないし、死んだのかもしれない。真相はわからなかった。


この間は掃除、洗濯をしていた。一番面倒なのは洗濯で神父と修道士たちの何十着もの服を洗わされるはめになった。手はかじかむし、一部の修道女は私に自分の服を洗わせるのが嫌なのか暴力を振るわれた。さらに一部は性的なことをしそうであったが流石に他人の目があるところではしないようだった。服の白さと会話しながらなんとか終わらせた。


神父や修道士たちは面倒な仕事を私を見つけ次第与えていった。だが、単純作業、雑用には慣れている。子供の身体ながら重労働をしていたが、耐えることができた。もちろん三日だけだったからかもしれないが。


三日すぎると馬車が教会の入り口に止まった。乗っている主なものはワインであった。他にも瓶に入った水が妙に多い気がする。聖水というやつかと思った。聖水の表面には白い雲が入っているかのように見え、なるほど効果がありそうだと思ったが、聖水が馬車から降ろされると黒い地面がよく見えた。なるほど、教会の内情を表しているなと思った。神父と馬車の行者が話している。他人がいる前では私は怒られたり暴力も振るわれないため、私はその場にとどまった。





馬車に揺られる。そごくガタガタするが世界が歪んで見えたこともある私なら余裕であった。ただ、おしりが痛いのはどうにかしてほしい。

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