プロローグ コミュニケーションが嫌いだ
どうして他人がいるのだろう。家族とか、学校とか、会社とか。そうはいってもただの他人。
どうして関わってくるのだろう。価値観が同じわけないのに。
どうして会話してるんだろう。自分一人わかっていればいいのに。
あぁ。気持ち悪い。会話とか、いらない。他人にわかって貰う必要もないし、同意や共感もいらない。あなたは私じゃないし、私はあなたじゃない。会話なんて情報交換だけでいい。うれしいとか、悲しいとかそういう単語が邪魔だ。わかってもらって何なの?ただの自慰だと思う。気持ち悪い。
っとそういう感情がおかしいのかもしれない。自分は狂っているのかもしれない。いや、正気だと思って生きるよりも、狂っていると思って生きた方が幾分かましだ。そう思って生きてきた。
「◯◯さん?大丈夫ですか?」
「……はい。すみません。少し考え事をしていました」
「ああ、それなら良かったです。今日の分のお薬出しておきますね」
ビニール袋に包まれた薬をもらう。
家に帰る途中、電柱にぶつかった。
「あ、すみません」
「いえ、こちらこそ不注意で」
空は朱色に染まり、赤くなってもなお白い入道雲がこちらを向いていた。なんて大きいのだろう。
飛んでいたカラスは実は大きな羽をもち歯がギザギザしていて、一匹の化け物に姿を変えた。つやつやとした黒い羽が赤い空にぽつぽつと落ちていくのがここからでも見えた。
道行く四輪は足となって、恐竜に食べられている人間が見えた。その顔はのっぺらぼうで、少しおいしそうと思った。あたりを見回すと恐竜だらけだ。色とりどりでアメリカのジュースかと思った。
子供たちが集まっている。一人の子供がマンホールを飛び越えて空に羽ばたく。すると途端に雲に食べられて、残った子供は血相を変えて逃げていった。雲から逃げられるはずもないのにと笑いそうになった。
チリンチリンと風鈴が呼び鈴となり、家に招かれた。床に座り、手にもっていたビニール袋を開ける。
中にはこちらを睨む白がいた。
「このままの方が幸せだぞ」
白は今にもこちらに飛びかかってきそうな風だった。
「いや、私は生物上、人間なんだ」
そう言って白の口を開く。中にはナイフ、ルービックキューブと、そしてやはり薬が入っていた。
水を飲むためのコップとそれを持つための腕が必要だと思ったが、いつの間にか腕は生えており、いつものように薬を飲んでいた。
そしてまた、元に戻った。