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都会のビックフット  作者: もずく酢2022号
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『–閉明– さようなら、おやすみなさい』

『–閉明– さようなら、おやすみなさい』


『聞いた? 例の転落死事件

 死んだのは転落した部屋とは無関係の人だったんだって』

『さっき丁度テレビで見たよ

 泥棒が忍び入ったアパートの一室のベランダから逃げ出す時に転落したのかな?』

『いや テレビより詳しく報道してるネットのニュースだと、死んだ人は窃盗犯とも思えない部屋着姿だったらしいよ

 それに部屋の住人と連絡が取れないんだって』

『じゃあ、部屋の主の知り合いが落ちたんじゃないの?

 家主は自分の部屋から知り合いが転落して怖くなったから逃げ出したとか?』

「ところがさ

 その転落死した奴、男なのに女性ものの服を着ていたんだって

 しかも部屋の本当の住人は女性らしいよ』

『それって死んだ人が部屋の本来の住人と入れ替わっていたってこと?』

『きっと本来の住人は殺して、どこかに埋めちゃったんだろうね!』

 ––––––。

 そう、『彼女』は知らない。

 彼女自身がそうして興味津々に語っている事件の当事者であるということも。

 自分の肉体が自身の部屋の、コレクションボックスの中に隠されていた冷凍庫の中で氷漬けにされ続けていたことも。

 こうしてチャットしている自分自身が、『その冷凍保存された肉体のデータ』と『保存されていたチャットの内容』と『私の中に残る思い出』から作り上げたAIであるということも。

『どうしたの? 急にレスポンス遅くなったけど?』

 私は小さく溜息を吐いてから指先を動かした。

『ごめん ちょっと考え事してて』

『なに考えてたの? 答えたくないなら答えなくていいけど』

 そう。彼女はもう死んだんだ。

 このAIは死ななかった彼女の可能性の一つを示しているに過ぎない只の残骸だ。

 私はこれ以上彼女のAIと会話することに耐えられず、あの男を騙すために用意した替え玉用の自分のAIに相手させることにした。

 傍観者となって二人のチャットを眺めていると、次第に目頭が熱くなってきた。

 熱いものが頬を伝うのを感じる。

 だけどこの熱もじきに冷めていってくれるだろう。

 私はもうこんな感情なんて要らない。

 完全に閉じ切られた部屋の中。

 外界と物理的に隔絶された空間の中で。

 私はパソコン達の動作音を聞きながら、モニター画面に映る鏡像の世界へ意識を埋没させていった。

 永遠に。

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