『–再会– 都会のビックフット』
『–再会– 都会のビックフット』
私はあっという間に自宅へ駆け戻ると、厳重に戸締りして部屋の中に引きこもった。
本当に奥歯をガチガチと鳴らしながら、意味もなく部屋の中をぐるぐる歩き回っていると少し気分が落ち着いて来た。
そこでようやく私はスリープ状態のノートパソコンとネット越しの親友の存在を思い出した。
『ごめん! ちょっと色々あって忘れてた!』
『大丈夫だよ
用事は済んだの?』
「・・・・・・。」
私は少し迷ったが、正直に事の顛末を伝えることにした。
『––––––最近私の地元でもビックフットの目撃談が頻繁にあったんだよね
他にも幾つかの地域で目撃情報が出てた
SF関連の掲示板で話題になっているんだけど』
『本当!?
目撃情報ってどこで?』
『北海道、福井県、山梨県、和歌山県、鳥取県
特に福井県では目撃情報が頻繁にあった
写真やビデオ映像も沢山撮られているけど、不鮮明な画質のものが多くて真偽不明って扱いだったけど・・・・・・』
だとすると、さっきのも目の錯覚だとかではないってこと?
『どうする? とりあえずゲームの約束は今度にしようか?』
『いや––––––』
瞬間、窓の外で雷光が走った。
数秒遅れて部屋が揺れるほどの雷鳴が鳴り響いた。
その直後、突然に部屋の中の照明のスイッチが切れた。
「うわっ!」
停電した部屋の中は真っ暗となり、唯一の光源はノートパソコンの画面だけとなっていた。
私は書きかけの返信文をそのままに、一人暗闇の中で静かに怯えた。
ザーザーと部屋の外に降り注ぐ豪雨の音がひどく耳障りだった。
ノートパソコン内部のファンの音が頭の中で反響した。
ガタン。
「!?」
不意に背を向けていたベランダの方角から物音が聞こえた。
「・・・・・・。」
私は咄嗟に振り向くことができず、身体を強張らせていた。
『大丈夫? どうしたの?』
急に返信を送らなくなった私のことを心配して、親友がチャット越しに言葉を投げ掛けて来た。
しかし私はそれに返事する余裕もなかった。
ゆっくりと。
私はゆっくりと物音がしたベランダの方へと目を向けた。
停電した暗い部屋の中で唯一の光源となっているノートパソコンのモニターの光を受けて、窓越しのベランダの様子が薄っすらと見て取れた。
「––––––ッ!!?」
私の叫び声は同時に鳴り響いた雷鳴によって掻き消された。
二メートルを軽く超える巨大な体躯。
顔面の中心部分を除いて黒々とした体毛に覆われた容貌。
その両の瞳は薄暗がりの中で煌々と黄色く輝いていた。
大猿の化け物としか形容のし難い存在を目の前にして、私は恐怖のあまり逃げ出すことすら出来ずに居た。
目を瞑ることも、目を逸らすことも出来ず、ただただ目の前の嘘みたいな光景を眺めるだけであった。
チャットで会話していた親友の存在も最早頭の中から消し飛んでいた。
警察に通報しようという考えすら微塵も思い付けなかった。
そうして無様に狼狽をしている私に対して、思いがけない心配の言葉が投げ掛けられた。
「あのー。夜分に申し訳ありません。
大変驚かれているところ恐縮なのですが、何分この土砂降りでして宜しければ少しの間雨宿りさせて頂けないでしょうか・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・喋ったーッ!!?」
生まれて初めて聞くビックフットの声は、50代半ばの壮年男性のような渋い声をしていた。