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お互いに敬い、愛し、分かち合いましょう


それから2週間、今までにない高熱を出し、ずっと眠っていたという。



夢の中で、ずっと、





どんなに頑張っても、

どんなに努力を重ねても、

意味はない。

ずっと、誰からも認められない。




底の見えない暗闇の中、ずっと



そう言われていた気がする。





そんな闇に前触れもなく突然終わりが来て、目が覚めた。


もう熱は引いており、


体のだるさが少し残るくらいだった。


 ―


2週間ぶりに父上と朝食を取った。



2週間も目覚めなかった僕を心配するようなこともなく、2週間前までと同じ様子で、朝食をとっている。


僕のことをどうでもよく思っている訳じゃないことはわかっている。


甘やかされては来なかったが、愛されてきたからだ。


父上の受けてきた後継者教育による、揺るがない心の強さがそうさせているのだと気づいた。


僕とは正反対の、完璧さ。


それを貴族達からではなく、


父上に突きつけられた気分だった。


父上にそんなつもりがないのはわかっているけど、


僕の心はもう折れていた。





朝食を半分食べ終わったくらいの頃。


父上に、



「…実力のある者が王位を継ぐべきだ。」



愚かにもそう言ってしまった。


いや、気づいたら口から出ていた。




すると父上は、


言葉の真の意味を理解したのか、


厳しい顔をし、



「…甘えるな。

自分の運命を受け入れ、覚悟を決めろ。」



そう言い放った。


そして、その言葉を聞いて唖然としている僕に、



「書庫に行け。勉強不足だ。」



と言い残し、出て行った。


ひどく叱責している様だった。


実の父ですら、努力を認めてくれないんだと絶望した。


そこには父上の食べかけた朝食が寂しそうに残っていた。





書庫に向かう道はいつもより長く感じた。


綺麗で美しい庭園が見える。


僕の心とは反対に、明るい未来を感じさせる美しさだ。


庭師のたゆまぬ努力の結果だろう。


思わず目を背けてしまう。


背けた先も、


多くの綺麗な絵画、


これは絵師の努力の結果。


埃ひとつない机、


これは使用人達の努力の結果なのだろう。





今まで、どんなに辛くても


前を向いてきたけど。


初めて俯いて歩いていた。


やはり、床のタイルも


とても綺麗だった。






王宮は、


いや、


世界は、


誰かの努力の結果が現れていることを知った。


じゃあ、僕は?


僕の努力の結果はどこに現れているだろう。




こんなに頑張っても、

足りないというのか。





剣術だけじゃない。


勉学だって、貴族学校に行く前に終わらせなくてはいけない。


その勉強と並行して、


王になる為の教育も受けてきた。


僕は他の人より、劣っているから、


無理をしてでも、頑張ってきた。


睡眠時間を削っても、


怪我をしても、


体調を崩しても、


倒れても、


何があっても、努力する事を辞めなかった。







認めたくない。


それでも、これが現実なんだ。


認めざるを得ない。







気づいたら書庫の扉の前に立っていた。



果てしなく長い、


終わりが見えない道のように感じた。



いつもより重く感じる扉を開け、書庫に入る。


誰もいないが、机の上に一冊の本が置かれている。


惹かれるようにその本を手に取る。


ページをパラパラとめくる。


どうやらサイヴァージ国の歴史書のようだ。


読み始めていき、僕は、


父上が叱責した意味を知った。






過去、サイヴァージ国は、


実力至上主義国だった。


力をつければ身分関係なく、際限なく出世していける。


そういう国だったのだ。


それにより、政治や、宗教面で勉学に励み、出世していく人が沢山いた。


それは構わない。


だが、武力によって力をつけ、恐怖によって人を従えようとする者が出てきた。


その者がクーデターを起こし、国王を殺害。


恐怖政治を始めた。


そこからは逆らった人は殺され、


他国との戦争に騎士団にも入っていない平民達を強制的に戦地へ送り込んだ。


血塗られていく世界。


どれだけ恐ろしい世界だろうか。



こんな歴史を繰り返さない為、


上に立つ者は、後継者教育によって様々な事を学ぶのだ。






考えればわかる事だった。





そして自分の愚かさを知った。




民の為に、国を良くする為に、今より更に幸せに過ごしてもらう為、王になる。


少なくとも最初は思っていた。





けれど、後継者教育を進めていくうちに、


努力を重ねるうちに、


民の為に、国を良くする為に、今より更に幸せに過ごしてもらう為に努力してるんだから、認めてくれ。


そう変わっていたのだ。



みんなを幸せにするつもりが、みんなを言い訳に『自分が幸せになる事』が目的に変わっていたのだ。




父上はきっと失望しただろう。


こんなに愚かになってしまった僕に。




僕は明日から、どう生きたらいいのだろう。



今まで通り、聞こえないフリをして、努力を重ねる?



そんなの無理だ。


はっきりと聞こえてしまった。


突きつけられてしまった。


貴族達から。


父上から。


何より、自分の愚かさに気づいてしまった。




王になる資格はもうない。




それでも、


王子である以上、


たった1人の王子である以上、


必ず、こんな僕が王位を継ぐ日が来る。


来てしまう。


そんな残酷な、


それでいて、


みんなの努力の上に成り立っている


この美しい世界で


どう生きたらいいんだ。


死にたいわけじゃない。


でも、どう生きていいのかわからない。








夕日が見える。


もうこんなに時間が経っていたのか。 


あぁ、なんて綺麗なんだろう。







何も考えたくなかった。


窓に近づいた。


僕の愚かな考えごと、


いや、僕ごとその夕日に溶かしてもらいたかった。







その時。






バシャンッ!






水の音が聞こえ、



窓の下を見ると、



そこには、


グラスを持った女の子1人。


その様子を見て笑う2人の女の子。


そして、


水に濡れた女の子が


立っていた。


ジオラスの苦悩は、「こんなことで」と思う方もいるかもしれませんが、法にギリギリ触れそうなことまでやらされる後継者教育。


大人でも相当の覚悟がないとできないことばかりなんです。




次でようやく出会います!


出会いをすぐにでも書きたかったけど結構時間と話数がかかりました…笑

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