あなたに出会えた事の心からの喜び
時は過ぎ、
9歳の、
紅葉の葉が落ち始めたある日。
同じ年齢の貴族のご子息達による剣術大会が開催された。
この大会では自分の名隠し、仮面を被り、爵位など関係なく、対等にこの大会に参加する、という決まりになっている。
国王である父も過去に参加しており、準優勝ではあるが、ものすごく強かったらしい。
そのこともあり、僕はとても期待されていた。
期待に応えたいと、そして今までの練習の成果を発揮するチャンスだとも思って、頑張った。
しかし、
「優勝は、ナタス・ローダンセ様!」
「さすがは騎士団長様のご子息だ!」
「全勝らしい。」
「お父様の才を受け継いでおられる。」
「……それに比べて、殿下は全敗らしいぞ。」
「え!国王陛下はあんなにお強かったのに。」
「ナタス様と違って、才を受け継がなかったんだな。」
「お可哀想に…。」
「全敗って…。
どうやったら取れるんだろうな。」
同情する心。
憐れむ言葉。
嘲る声。
見下す視線。
ヒソヒソと話している。
小声のつもりなんだろうが、
無論、聞こえている。
強いと奢っていたわけではない。
手を抜いていたわけでもない。
途中で諦めたわけでもない。
最後の1秒まで絶対に勝つ、と真剣に闘った。
だけど、
今向けられている視線、
話されている言葉、声。
これが、
今まで一生懸命に剣を振ってきた結果だった。
誰よりも努力した自信があった。
遊ぶ暇もなく、勉学と剣術、その他にも沢山することがあった。
でもどんなに忙しくても、毎日素振りをした。
トレーニングだって体調を崩しても、
1日も欠かさずにやってきた。
自分を甘やかすことなく、
厳しく練習してきた。
それなのに、この結果。
とても悲しかった。
けれど、それよりも「情けない」とすごく思った。
国を背負う者として、守られる事しかできない人になることが。
勿論、王は守られる存在だ。
だけど、父上はそうじゃない。
自分で自分を、母上を、僕を、家族を守ることができる力を持っている。
大切な人を守ることができる。
そんな父上に憧れたし、こうなると決めたのだ。
なのにこんな結果を出してしまうなんて、と。
知ってたんだ、本当は。
「勉学もできない上に、剣術もできないのか。」
「国王陛下はあんなに完璧なのにねぇ。」
「しかも、他のご子息よりも劣っているとか…。」
「家の名がなければ、今頃どうなっていたかな、王太子殿下は。」
「国王陛下とは大違いだ。」
「名ばかりの王子が。」
「血筋で王になれるからあんな出来なんだろ。努力が足りないんだよ」
こう言われていたことは。
聞こえないフリをしていたんだ。
僕は父上みたいに天才じゃない。
むしろ、
人一倍の努力をして、
やっとみんなと同じレベル。
でも、きっと、努力したら
みんな認めてくれるって。
信じてたんだ。
だから、大変なことだって、時間がかかってしまうけど、努力を惜しまずに、絶対乗り越えて見せた。
それは、とても大変だったし、何回やってもできない自分に嫌気がさすこともあったけど、努力を重ねれば必ず乗り越えられた。
だから頑張れた。
けど今日、
今まで乗り越えた努力は、
他の人からしたら、
出来て当たり前の事だった。
王宮を歩いていると聞こえてくる、
僕を父上と比較し、愚痴をいい、薄ら笑いする貴族達の声。
今日は聞こえないフリなんて出来なかった。
貴族達の心ない言葉は、幼い僕には、とても強く深く突き刺さった。
勉強が辛いんじゃない。
自分の努力が認められない、
それがものすごく辛かった。




