茎は折れない。
花弁が落ちても、
トレス、ティナリスが捕まり、ヘリクリサムも証拠として受理された。
事情聴取でなかなか口を割らなかったが、指を踏み、小指の骨を折っただけで、ペラペラと白状し出した。
全てを聞いたジオラスは、殺すしかないと思った。
どんなに訓練している兵士であっても耐えられないほどの拷問を施し、
あらぬ罪を偽装し、苦しめ、絶望に陥れた。
ベラの身体と心を傷つけた此奴らを生かしておくのは罪だと。
ベラの全てを傷つけ、壊した此奴らを殺す以外どうすれば良いのかわからない。
奴らが息をしていることが許せない。
2人の処分は、処刑でほぼ間違いない。
ジオラスが願わずともそうなるはずだ。
ベラはただの公爵令嬢ではない。
彼女は王太子妃なのだ。
次期王妃を殺したとなれば王家への反逆と見做され、処刑となる。
がしかし。
ベラが死んだという確証がない。
遺体が見つかっていないからだ。
殺人と、殺人未遂では罪の重さは大きく変わる。
殺人であった場合、処刑は免れないが、
殺人未遂であった場合、地下で労働や幽閉といった処分になる。
もちろん、ジオラスはベラが生きていると信じている。
こいつらが生きていることは許せないが、
ベラが生きていれば。
ベラがまたジオラスの隣へ帰ってきてくれれば。
また笑顔を見せてくれれば。
こんな奴らの処分なんてどうでもよかった。
それから、ジオラスは必死になって探し続けた。
一連の事件を世間に公表し、ベラが行方不明だと捜索願いを出した。
トレスとティナリスは爵位剥奪、地下幽閉の処分となり、
ロベリア領は王家が管理することとなり、その管理はジオラスが行うことになった。
名目上の、領主である。
ロベリア領は、トレスが領主となってから領民達は苦しい生活を送る様になっていた。
領地・領民の状況を考えず引き上げた税によって、私腹を肥やしていたのだ。
その為、新しい領主が王太子といえど、たった16歳の子供に任せることに、多くの領民が不信感を抱いていた。
失った信頼を取り戻し、領民に幸せに暮らして貰う為、
少しずつ、
少しずつ、
領民に寄り添う。
その効果は比較的早く出た。
領地・領民の暮らしは安定し、領地全体が活気付いてきたのだ。
みんなも笑顔が増え、この国の宝である、花を愛でる余裕も出来てきた。
花を愛でる時間は、とても大切であり、それは日々当たり前に存在する時間であった。
それが出来なくなるというのは、
時間的に、
そして精神的にも余裕が無くなっていたということだ。
それ程までに苦しい生活を強いられていた領民達は、見違えた今の自分達の暮らしに、ジオラスへの不信感なんてもう誰1人として持ってはいなかった。
ジオラスはこのような、様々な業務を怠ることなく、
自身の睡眠時間や、食事を削り、空けた時間でベラを探した。
捜索願いを出したことで、目撃情報などを聞き、
雨でも雪でも馬を走らせ、どんなに遠い場所でもあっても探しに向かう。
それはデマ情報であったり、後ろ姿の似た別人だったりした。
その度、心が折れかけた。
けれどその度、何度も何度も、
ベラの笑顔を思い出し、必死に自分を奮い立たせ続けた。
――――――――――――――――――――――――――
イリスは領民へ直接説明をし、協力を求めた。
もしかしたら生きていないかもしれない、と領民には真実を告げた。
けれど悲嘆せずに、諦めずに、結果が如何であろうと、
ベラや、そして亡くなったスノーク、ラン、ユリが領地・領民を愛していたことを忘れずに、
誇りを持ってそれぞれの未来を見据えて生きて欲しい。
そうイリスは領民達へ願った。
イリスも探し続けた。
領民の協力を得ながら、似た人がいたり、過去にベラと訪れた場所を回ったり、様々な場所を探し回った。
探偵を雇い、常に目を光らせていた。
結果はいつも同じだった。
――――――――――――――――――――――――――
そしてようやく、山崩れによる土砂の撤去が全て完了し、立ち入ることができるようになったのは、婚約破棄が届いてから4年後。
丁度、ジオラス19歳の誕生日であった。
この4年間に、何度倒れそうになったか。
何度、期待したか。
何度、夢に見たか。
何度、失望したか。
何度、絶望したか。
数えるには、何枚の花弁が必要になるのでしょうか。




