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全てを諦めるには十分すぎる程に。


最初のうちの拷問はティナリスが殴る蹴るするだけで、なんてない傷だったのだが、


何をしても反応を示さないベラに、怒りは収まらず、


男を呼んで骨を折らせたり、服を切らせたり。


ベラを犯そうとした馬鹿な男達もいたが、


其奴らは、全く手を出す事なく泣きじゃくりながら逃げ帰っていった。


今ベラは服とは呼べぬほど、平民ですら着ない薄い麻布を着ている。




両手両足、鎖骨、肋骨、様々な場所が折れ、


殴られ、蹴られ、切られ、


体はあざと傷だらけのなっていた。



ベラは朦朧とする意識の中、あと少しだろうか。と考える。


すると、足音が聞こえてくる。


やっと、とベラは思う。


ベラは連れて行かれる寸前、アーシア家に自分の血を使って、伝言を残していたのである。


アーシアの言っていた通り、敵は南の訛りであることから、この地方に伝わる、特有の文字をきっと読むことはできない。


それは、一見ぐちゃぐちゃな赤子が書いたような文字に見える。しかしこれこそが、習っている者でなければ解読が不可能なこの地方に代々伝わる文字である。


それをオーラリールーカの人々は子供の頃に、公用語と共に教えられるわけだが、


吸収の早い子供のうちに身に付けなければ習得は不可能と言われる程難しい言語である。


そのため、アーシアは9つの時この村に来て、習い始めたため、完全に読むことはできない。


が、アーシアの妻や子供達は読むことができる。


しかし、言語とわからなくとも、何でバレるかわからない。


伝言を残していることに気付かれるわけには行かない為、目立たない場所に残した。


いつ気付くかも、まず気付いてもらえるかも賭けであった。


そしてさすがのベラも、いつまで持つかわからない、と死神の気配を感じ始めた時。


足音が聞こえてきたのだ。


扉が開き、そこにいたのは、イリスだった。


イリスは真顔である。


しかし、ベラにはわかる。


イリスは今にも泣きそうな表情をしている。


必死に抑えているのだ。


ベラ以外にはそう見えてないだろう。


イリスがベラに近づこうとするが、リーダーらしきあの男に銃を突きつけられる。



「動くな。」



そう言われイリスはピタリと止まる。


そして男はそのままイリスと、ゆっくり部屋の中央まで移動する。


そこでトレスとティナリスが部屋にやってきた。



それはそれは嬉しそうな表情で。


トレスは一芝居打ちながらイリスに話しかける。



「あなたとは初めましてだ。


どうもご機嫌如何かな?


イリス公爵。


…どうだ?


姪っ子がこんな酷い姿になっているのは。」



イリスは冷静に話す。



「お初にお目にかかります。


トレス伯爵。


あなたのお噂はかねがね。


()()()()をきっかけに領地が立ち行かなくなったとか。」



煽るようにトレスに話す。


トレスは怒らない。全く。


それは自信の表れだろうか。



「おや、まだイリス公爵はご自身の置かれている状況に気づいていないようだ。」


「私が説明してあげるわ、お父様!」



ティナリスは笑顔でそう言い、イリスとベラに話し始める。



「ベラ。あなたはどんなに拷問を受けても絶対頷かないから、こうすることにしたわ!


…初めからこうしとけばよかったかしら?」



ティナリスは一輪の花を持っている。



それは【ヘリクリサム】。



この花は録音、と呼ばれる会話を残すことができる希少で高価な花である。


その花から聞こえてくるのは、




悲鳴。


絶叫。


哀願。



老若男女が叫んでいる地獄だった。



ベラはそれを聞いた瞬間、


最悪の未来になってしまったと気付く。


そこから聞こえるのは間違いなく、ここオーラリールーカの領民達。


一人一人と交流し、たくさん優しくしてくれ、たくさん愛情をくれた人達の命の最期が遺されていた。


ベラの表情は、この世の誰よりも絶望で歪み切っているだろう。


しかし、まだ終わらないと言った様子でティナリスはもう一輪のヘリクリサムを取り出した。




女性と、少女だろうか。




助けて、と叫ぶ声が聞こえる。




そして、




「イリス!」




と叫んだ。




その瞬間、イリスの顔はベラと同じ。


絶望で歪んだ。


ベラはイリスの妻【スイ】と娘【モモ】だと気づく。


ベラはいつぶりかの恐怖を感じる。


拷問を受けた時も、どんなに骨を折られた時も感じなかった、




『恐怖』を。




領民の全てを奪ってしまった。


そして、


イリスの全てを奪ってしまうかもしれない。





イリスに家族を亡くす。


そんな悲しみをもう受けてほしくない。






幼い頃に逃げ出し、慣れない地で苦労してやっとの思いで手に入れた幸せ。



きっと、それを壊してしまえば、


ベラは胸を張ってジオラスの隣を立つことは出来ない。


いや、もう領民を守ることが出来なかった時点で、その資格はない。


私自身を殺さない選択をさせてくれたイリスさえも壊してしまえば、もう立ち直ることは出来ないかもしれない。


ベラはずっと毒を吸い続け、拷問に耐えるしか出来ることはなかった。



出血もそれなりにしている。



毒や頭を殴られた衝撃で、ずっと意識は朦朧としており、どうにか保っている状態だ。



ベラの様子にイリスは気づいている。



絶望でいっぱいの2人にトレスはニンマリ笑って話す。



「前に言っただろ。


『君は自身の置かれてる状況をわかっていない。』


って。


さぁ、全てをわかった今。



婚約破棄を受け入れてもらえるだろうか。」



ベラは憔悴し切っていた。



もう、どうすることもできない。


逃げ出すことも、


泣き喚くことも、


助けを乞うことも。


何もできない。


する資格はない。


したら自分を許せず一生生きることになる。


領民の命を守れなかった時点で、公爵を継ぐなんて、はたまた王妃になんてなれない。




ジオラスの隣は、




あんなに私を想ってくれて、努力家で、優しい彼の隣は。




今の私に似合わない。




こんなに領民達の血が塗られたこの手で、




彼の温かい手を握ることは出来ない。





何より。


もう全てが手遅れだった。



ベラにはこの状況を収める為に考えられることはたった1つだけ。




この選択をせずに、全てを解決できると思っていた愚かな自分を殺したい程恨んだ。





そのせいで大勢の命が散った。




今も危険に晒されている。







罪多きベラが今出来る選択はこれだけ。






「…王太子殿下に婚約破棄を申し入れます。」





ティナリスは今まで見せた笑顔で1番嬉しそうに笑った。


彼の隣はもう似合わない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


2話投稿出来ました。

投稿遅れないように頑張ります…。

相変わらず不穏です。 

みんなで耐えよう…!


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