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誠意のある告白


「……サルビア公爵家から婚約破棄を旨とする書類が届きました。」


ラダが何を言っているのか。




いや、わかっている。




しっかりと。




信じられない。




信じたくない。




「…エイプリルフールにしては早すぎないか。」




平然を装っているつもりだが、察しのいいラダにはバレているだろう。


表情も強張っているだろう。


上手く笑えてる気がしない。


ラダは、少しお調子者なところがあり、ベラの計画に加担し、


いつかの4/1に、この手の嘘を吐かれたことがある。


しかし、今は3月の初め。


エイプリルフールは約1か月ほど先。


そして我が執事は、いつもはもっと明るい顔をしているが、


ずっと真剣な暗い表情をしている。






早く「冗談です」と戯けてくれ。






全くラダは口を開かない。


俺は、やっと理解した。








婚約破棄は本当だ。と。


 ――――――――――――――――――――――――――


ジオラスは表情を固くしたまま、ラダに渡された書類を見る。


そこには婚約破棄の正式な書類ではなく、




婚約破棄を望んでいる。


という簡易的な書状であった。




ジオラスは少し安堵した様子で胸を撫で下ろし、強張っていた表情が少し緩まるのを感じた。



それもそのはず。



婚約破棄は両者の同意の上にしか成り立たない。


一方的な婚約破棄はすることができないと法で定まっている。


そのためすぐに婚約破棄になる訳ではない。


しかし、これが送られてくることが婚約破棄への第一歩であることは変わりない。


ジオラスは落ち着くために、ゆっくりと深呼吸をする。


けれど深呼吸はあまり意味を為してない。




婚約破棄の理由。




それを見ると、婚約破棄よりも更に恐ろしいことが頭をよぎったからである。



「病を患ったため療養」



と一文だけ書かれている。




婚約破棄は(王家の場合は特に)簡単にすることは出来ない。


妃教育で教わる内容は機密事項であるものも多いからだ。


婚約破棄は相当なイレギュラー、重病により執務を行えない場合や亡くなった場合などでなければ王家の婚約破棄は行われない。




そしてベラは病を患い療養のため、婚約破棄を望んでいる。




貴族であれば、簡単に王家との婚約を破棄出来ないことは知っているはずだ。


ということは、ベラは、




執務を行えないほどの病を患った、ということになる。





ジオラスはただの婚約破棄ではなく、


永遠にベラを、


愛しい人を失う可能性に気づいたのだ。




ジオラスは今すぐにでも会いに行き、


一時も離れず側にいたい気持ちを必死に抑え、


詳しい内容をラダに尋ねる。


すると、ラダは、




「わかりません。」


と言った。





「…わからない。とはどう言う意味だ。」







自分でも聞いたことの無いような低い声が出る。


きっと顔は恐ろしい形相となっているだろう。


ラダは怯むことなく話す。



「そのままの意味です。


書類を渡された時、王宮郵便より伝言と、ある花を受け取りました。」



その花を殿下に差し出す。



「これは…」


「そうです。


ウツギです。」



ラダは極めて冷静に、しかし少しの嘆きを滲ませながら、



「サルビア家から『後日正式な書状をお送り致します。』と言付かった。とのことです。



ですので、私には、


ベラ様が、


『執務を行えないほどの重病を患い、婚約破棄を望んでいる。』


ということしかわかりません。」




ラダは悲しそうにそう言った。




物語は、着実にそして回り道をしながら進んでいます…。



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