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最愛


殿下に仕え始めたのはちょうど私が18、成人になった年であり、その時殿下は3歳という赤子同然の年だった。


18という世間ではまだ若人と侮られる、実際にも様々な物事に対して経験の浅い私であったが、


殿下を取り巻く環境は、成人した私ですら苦しくなってしまう様なものだとすぐにわかった。


そんな環境で今のように天才だと、完璧だと、言われるようになったのは、


殿下自身の努力によるものである。


天才ではなく『秀才』なのだ。


彼自身の頑張りによってついてきた名声だ。


しかし信じられないかもしれないが、


殿下の幼き頃。皆は、


『出来損ない王子』と馬鹿にしていたのである。


失礼極まりないが、


それを跳ね除け、今に至るまで。


そのきっかけになったのは紛れもなく、


ベラ様との出会いだったのだろう。



殿下が9歳の頃だっただろうか。


高熱を出し、2週間経ってやっと目を覚ました日。


もう少し目覚めるのが遅かった場合、生死を彷徨っていたと言われるほどの大事件だった日。


2週間ぶりに見た殿下の瞳は暗い色をしていた。


殿下は医師の診断を終えると、2週間ぶりの陛下との朝食に向かった。


お食事時でも執事は側で控えている訳だが、殿下が急に「実力のあるべき者が跡を継ぐべきだ」と言葉を漏らした。


それは、殿下の心が限界を超えた事を容易に想像できる一言だった。


私が口を出すことはできない。


まだ少年と呼ばれる年の子供が幼少期からずっと厳しい教育に耐えて、心をすり減らしていた事。


陛下も、自分も。



気付いていないわけはなかった。



あんな小さな体に大きな錘が巻き付いている。



陛下は慰めたり、同情することはなく。


叱責して朝食が途中であるのも気にせず、出て行かれた。


殿下はものすごく絶望した表情をしていた。



私が甘やかす事、声をかける事はできなかった。


それでも他にもっと出来たことはなかったのかと、今更に思ってしまう。


そんなことを思ったところで、殿下の心が救われることはないのに。


そもそも、私が声をかけることを殿下は望んでおられないだろう。


もどかしさと後悔がずっと胸に焼きついていた。






朝食後、殿下は陛下に言われた通り、書庫に向かっているようだった。


執事は一日中一緒にいるわけではなく、朝、お召し物の用意をし、今日の予定を告げ、朝食までは側におり、そのあとは連絡があれば赴き、就寝前に報告に向かう。


今日は2週間ぶりに目を覚まし、忙しなく医師が部屋を行き来していたため、朝食からお側についていたわけだが、


こういったイレギュラーがない限り、それが決まりになっている。


心配でならないが、ついていくことはできない。


私にはどうすることもできず、殿下のことが心に残りながらも、自身の仕事に取り掛かった。








この日は特に連絡もなかった為、次に殿下とお会いしたのは就寝前の報告の時だった。


朝の様子からすごく心配していたが、朝とは打って変わって、


憑きものが落ちたように晴れた顔付きだった。


何があったのか気になったが、聞ける立場でもない。


今日の報告をいつも通り済ませ、下がろうとした時。



「ラダ。

……調べてほしいことがある。」



少し遠慮がちに言われた。


思えば、何か頼まれたのは初めてではないだろうか。


ご自身でやろうと頑張っていたからこそ、頼まれごとをされたことはなかった。


何か心境の変化があったのだろう。


私は嬉しくなって、でも声や表情には出さず、



「なんなりとお申し付け下さい。」



と、膝を折った。


すると、殿下は気まずそうに、



「そんな仰々しくしないでくれ。


ただ…。


妃教育に来ているご令嬢で探してほしい人がいるんだ。」



妃教育。



確かに今、殿下と同い年の御令嬢の方々が妃教育で王宮にいらしている。


どこで出会ったのだろうか。


お互いの邪魔になることを避けるため出会わないように場所を離していたはずだが…。


まぁ、会ってしまって特に不都合があるわけではない。


結局あと数ヶ月したら顔合わせがあるのだ。


特に問題はない。



「どこの家のご令嬢でしょうか。」


「それが名も家もわからなくて…。


ただ。」



殿下はそこで言葉を濁らせ、頬を赤く染め、


先程より小さな声で、




「…強く美しいご令嬢だった。」




と。


私はその瞬間に察した。


いや、相当鈍い者でなければ、殿下の今の表情を見るだけで、


『恋』に落ちたことに容易に気づくだろう。



…もしかしたら、憑き物の落ちたようなスッキリした表情と恋に落ちたことは関係があるのではないだろうか。


殿下に仕えて初めて見るスッキリした表情。


恋に落ちた様子。


気になって仕方がなかった。


彼を救ってくれたかもしれないその御令嬢のことを。



「殿下。」



殿下は「なんだ。」と返事をした。


私はもしかしたらと希望を込めて聞いた。





「明日の朝、お飲み物はお持ち致しますか。」



ラダは心優しく、執事の鏡。

幼い頃から殿下が頑張っていることを知る数少ない人物です。



ラダ目線、もーちょい続きます!

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