永遠に
「お母さま!
お母さまはなんでお父さまとけっこんしたの??」
私が今日の寝る前の読み聞かせの一冊を選んでいた時、
ローズは聞いてきた。
「それはね、私がお父様のことが大好きだからよ」
そう答えるとローズは、
「ろーずね、きょうのおべんきょうできいたの!
『きぞくどうしのけっこんは、せいりゃくてきないみがおおきくて、いろいろなもんだいを、のりこえてけっこんすることがおおい』
って!」
「………………。」
(そういえば、もうこの年にはこういう事も聞かされていたわね....。)
ローズが急に年に似合わない内容を話したことに驚きながらも、
もう、こういうことを習う年になっていることに、時の流れと成長の速さをしみじみ感じていたら、
「お父さまとお母さまもせいりゃくてきなけっこん?とかいろんなもんだいをのりこえてけっこんしたの?」
と尋ねて来た。
私は、結婚までの長く、切ない、それでも幸せな日々を思い出しながら、
「いいえ、お父様とお母様は政略結婚ではないのよ。
いろんな問題はあったけれどね。
政略的に言えば.....
まぁ、最終的には損はなかったわね。」
と、答えた。
ローズはぽかんとした顔をしている。
(ふふっ、そうね、まだわからないわよね....)
「やっぱりまだお子様ね」なんて思って少し笑ってしまったけれど、言ったらふてくされてしまうので胸にしまっておく。
私が笑ってるのを見て、思っていることがなんとなくわかったのか、ローズは少し頰を膨らませていた。
(あらら、おへそ曲げちゃった)
どうしようか考えていると、
廊下から少し早足な足音が聞こえる。
聞こえて始めてすぐに、コンコンッと扉が叩かれる。
侍女が扉を開けるよ、
「遅くなってしまったね、待たせてすまない、ベラ、ローズ」
と急いできたのか髪が少し崩れているジオ。
「お父さま!」
といって、ローズがジオに抱きつく。
ジオは片手で軽々持ち上げ、
「ただいま。」
と笑顔でローズを抱きしめ、額にキスをした。
ベラは微笑ましい2人に目を細めながらも、少し心配そうにジオ、と話しかける。
「おかえりなさい。
そんなに急いで来なくても平気よ?
ローズの寝つきは大分良くなったし、今日は寝るのが早めだから、間に合わないと思っていたけれど…。
来てくれた方が私もローズも嬉しいけど、お仕事も大変でしょ?だから…」
話している途中でベラの口は塞がれてしまった。
ジオの唇によって。
「?!」
突然ことに呆然とジオを見つめる。
するとジオは、クスッと笑い、
「いいかい、ベラ。
急いできたのは、早く2人に会いたいからさ。
仕事が忙しくても、それは急がない理由にならないよ。
勿論、もうベラだけに負担をかけないようにしたい、っていう気持ちもあるけどね。
前みたいに、世界一愛してる奥さんに我慢されるなんて悲しいからね。」
もう一度ベラの唇にキスをした。
熱くなってくる顔を隠しながら、
「そ、そんなこともあったわね...。
ま、まぁ、ジオが早く帰ってくるのは嬉しいから.....」
恥ずかしさのあまり、後半は小声になっていたが、ジオにはしっかり聞こえたみたいだ。
嬉しそうにジオは笑っている。
いつまで経ってもこういったことには慣れない。
ずっとこの人に恋してるんだ、と毎回実感する。
―
顔の熱さも引いてきた頃、
ジオと楽しそうにおしゃべりするローズに、
「ローズ、おいで。
絵本を読んであげるわ、もう寝る準備をしましょう。」
と声をかけると、さっきの事を思い出したのか、ジオの腕の中でそっぽ向いてしまった。
「どうしたんだい?ローズ。」
とジオが声をかけるが、ローズはそっぽ向いたまま。
「?」
何があったの、と困り顔をしたジオにさっきまでのことを話すと、急に、
「わかった!
ローズ、今日は絵本の代わりに少し難しいかもしれないけど、お父様とお母様の今までの話をしてあげよう。」
ジオは内緒だよ、と秘め事を話す様に少しコソッと伝えた。
「…!
うん!!」
ローズはとても嬉しそうに頷く。
まだ難しいんじゃないか、と思ったがそれを察したジオは
「いいじゃないか、ベラ。
仮に意味が分からなくたって、良い話に早く触れていて損はないよ。」
それに、と付け加えて
「ベラとの辛かった事もあるけど、幸せな出来事も思い出す事が出来るからね。」
と笑顔で言った。
私達のお話を『良い話』と自分で言うところは、本当にジオらしい。
まぁ、ローズの機嫌も直ったし、ジオも嬉しそうだし、私もまぁ嬉しいからいっか。
納得したベラの顔を見て、ジオは話し出す。
「じゃあ、まず何から話そうか......」
そう言って、私達は昔の記憶へと足を踏み入れていった。




