代償 (宝)
私は、もっと欲しかった。
金、地位、名誉、女
それを得る為には
人を蹴落とし、跳ね除け
人を人と思わずのし上がって来た。
悪事を厭わず
法律ギリギリの
黒でも白でも無い灰色の所で
色んな事業に手を染めた。
不動産、地上げ、
人材派遣、援交斡旋、
50年生きて
ある程度まで行った。
政界や裏社会に顔が効くぐらいまで
行ったが
まだだ
物足りない
私の上には、まだ沢山の
金持ちや権力者がいる。
私が、社長室で煮詰まってる時に
"あいつ"が現れた。
秘書がドアを半分、開け
困り顔で
私の機嫌を伺いながら
「社長、すみません
どうしても、会いたいと言う
セールスマンがいまして....」
臆する秘書に
私は、秘書を睨み付けた。
「今、忙しいだ
そんな奴相手にしてる暇などない!」と
怒鳴り散らしと秘書の後ろに
葬式帰りみたいな
全身黒のスーツ姿の
まるで能面みたいな白い顔の男が
此方向いて微笑んでいた。
「まぁ、そんなに
怒ると、血圧が上って死んじゃい
ますよ」
秘書が青ざめた顔で
振り向き
「困ります
勝手に上がって来ては」
黒服の男が柔かな顔で
両手を胸まで上げて
「まぁまぁ
そう、仰らずに
社長にとって"美味しい"お話を
持って来たんですよ」
「なんだ!
美味しい話とは
私を誰だか知ってるのか?
変な話だと痛い目にあうぞ」
黒服の男は
怯える秘書をするり抜けて
私に臆する事無く近いて来た。
「ご存知ですよ〜
一代で社員を50万人を抱えるまで
会社を成長させた。
経済界に彗星の如く遭われた
"バケモノ"と言われてる。
社長さん
でも
ここまで登りつめても
貴方は、まだ、まだ
上を目指してらっしゃる
そうでしょ?」
黒服の男が私の隣まで来たが
その近づき方が
フラフラと宙に浮いた感じで
本当に歩いているのか?と
疑問に思わせる歩き方で
顔だけがユラ付かず
空中に固定されたみたいに
今迄見た事が無いような
人だか人では無い白い顔が近づいて来る。
数々の修羅場を潜り抜けてきたが
身体が硬直するような
緊張感や寒気を味わったの初めてだった。
怖い
これは恐怖感だ。
私は思わず
黒服の男の顔を背けて
恐怖心がバレない様に
大声を上げた。
「だから
どうした!何しに来た」
黒服の男は
私の耳元に微笑混じりの声で
優しく呟いた。
「私、ここだけの話
悪魔なんですよ」
余りも突拍子も無い事を
言うので、口をあんぐり開けて
黒服の男を向くと
黒服の男の
手には、中世の骨董品みたいな
紙を私の目の前に突きつけていた。
ミミズみたいな
見た事も無い文字が連なり
「この
悪魔の契約書に.....
ごめんなさい
こんなチンケで古めかしい
名前の契約書で
もっと現代に合わせて
考えくれば良かった。
まぁ
それはさて置き
この契約書にサインを頂ければ
貴方の欲しい物、望む物が
考えるだけで全て
手に入ります。」
「それは
本当か?」
私は、少し考え込み
「待ってよ
そんな上手い話など無い
なんか、あるんだろう?」
黒服の男は
歓喜の喜びに両手で大振りに
拍手をした。
「ブラボーブラボー
流石、バケモノと呼ばれた社長さん
そうです
これは、取り引きです。
貴方は、何かを得る
そして私も何かを得る
商談の基本です。」
やっぱりな
黒服の男は、何かを企んでる。
この不気味で味わった事の無い
威圧感は、確かに悪魔だ。
でも、ピンチはチャンスだ。
こんなチャンスは二度無い
私もバケモノと呼ばれた男
ここで怖気つく訳にはいかない
私は、黒服の男に探りを入れた。
「なんでも
手に入るか〜
だったら
それなりの物を差し出さなきゃいけ無いわけだ。」
「そうです、そうです。
私が貴方から
欲しい物.....それは」
「それは?」
「宝です。」
「はぁ?金か!私の財産といことか」
黒服の男は
渋い顔しながら右手を
ヒラヒラと関節が無い
例えるなら、紙の様に顔の前で振り
「冗談じゃない
そんなチンケでくだら無い物」
私は、黒服の男の癇に障る動作にイラつ来ながらも、聞き返した。
「じゃあ
なんだ!私の魂か?」
「違いますよ。
貴方が一番大切にしてる宝ですよ。
人にはねぇ
それぞれに大切な宝物を
持っているんですよ。
社長さんにもねぇ
私は、それがとても欲しいのです。
その宝は、言いません。
言ったら面白く無いじゃ無いですか?
失った時に気づく
絶望感
なんてエレガントで
ファンタスティック
どうです?
それでも契約しますか?」
私は、少し考えてから
黒服の男から
契約書を躊躇無く奪いサインしてから
黒服の男に渡した
「これで良いのか?」
黒服の男は、不気味な笑みを
浮かべながら
私にわざとらしくお辞儀をし
「流石、社長さん
見込んだどうりでございます。
この契約書の効果が現れるのは
零時からです。
その時は、電話でご一報入れてますね。
それまで
十分に自分の大切な、大切な
宝を悔いが無いよう。
お楽しみなさいませ
それじゃ
失礼致します。」
黒服の男は
まるでシャボン玉が弾ける様に
一瞬に姿が消えてしまった。
秘書が
慌てて泣きそう顔で近ずいて来た。
「社長ーーーー!
大丈夫なんですか?
あんな契約書にサインしてしまって」
「ふん
大丈夫だ。
宝の検討は、付いている。」
そうだ
私にとって宝は
財産でもない
私の命でもない
だとしたら
私には家族だけだ。
私の愛する家内と子供達
悪いが
犠牲になって貰おう。
零時5分前
私は、愛人と
高級ホテルのスイートルームの
ベッドで
契約の時間を迎える事にした。
愛人は、私の腕に
甘ったるい声でまとわりつき
「ねぇ今の話本当?
なんか信じられない〜」と
胸を押し付けて来た。
「本当だとも
もし、お前が良ければ
家族を持とう思う。」
「本当、嬉しい❤️」
そうだ
家族なんて
また、作ればいい
私は、まだ上に行く人間だ
こんな所で終わりたくない。
そう
金も権力も地位も名誉も
全て俺の物に
「あ、零時になる」
愛人が柱時計に指を差し
ボ〜ンボ〜ンボ〜ン
柱時計が零時を迎えた。
これで
俺は全てが手に入る。
念のため
一様確認の為に家内に携帯電話を
かけた。
プルルルル
プルルルル
プルルルル
やっぱり死んだか
少し罪悪感を感じた時
ガチャ
受話器を取る音が聞こえた。
「もしもし〜」
「お.....お前か?」
愕然とした。
家内は生きている。
「あ、貴方
今日、泊まるの仕事じゃないの?
どうしたの
こんな夜遅く」
「い.....やなんでもない
それじゃ」
「もう〜何なのよ〜
仕事、無理しないでね、」
ガチャ
ツーツー
家内は生きている。
どういう事だ?
頭が混乱した。
私の宝は、なんだ?
家族じゃないのか?
あの悪魔が嘘をついたのか?
色々な思考が渦を巻いて時
携帯電話が鳴り出ると
昼間に聞いた。
薄気味悪い声が聞こえて来た。
「どうも
わたくしです。
どうですか?
お望みの物は手に入りましたか?」
「いや.....まだ.....」
「何をしてるですか
さぁ、貪欲なまでに全てを
欲しがる貴方の望みを
考えなさい。
全てを手に入れるのですよ。
さぁ、さぁ、早く
貴方の欲しい物はなんですか?」
私が欲しい物.....
「クックククク」
黒服の男の押し殺した様な
堪える笑い声が聞こえて来た。
そうか
そういう事か
やられた
まんまと悪魔にやれた。
無い
何も無い
私の欲しい物が
まるで
心にぽっかりと穴が空いた様に
抜けてしまった物が
「アハハハッハハハッッハッハハハハッハッハハッハハッハハ」
黒服の男の堪えていた。
笑い声が爆発して私の耳を貫いたが
呆然と聞くしか出来なかった。
「無理ですよね。
そりゃ〜無理だ。
あんたから
"欲望"を抜き取ったんだから
ただのもぬけの殻だ。
人間の原動力はね
強欲なんですよ。
それも
貴方は、すざまじい原動力の
持ち主だった。
貪欲でドス黒く
欲望の塊
ふふふっ 欲望のバケモノ
こんな
最高の宝を貰えるなんて
有り難き幸せ
返品されても
結構ですよ。
あ、すみません。
もう、物を欲しがる
欲望が無いんだった。
大変失礼な事を
もうして申し訳ご.....ざ.....ふふふ
ふふふっ
あはははははははははははははははははははははははははは」
卑劣で醜い黒服の男の声を
聞きながら
心配そうにこちら
見てる愛人の顔を見たが
何も感じ無い。
何も
金とはなんだ
地位とはなんだ
権力とは.....
ただ空っぽの
空虚感だけが私に残されているだけだった。