噛ませキャラの戦う理由
「拝啓、全略…。あれ、全部省略したら意味なくね?」
人生初めての遺書作成を前に一人三文芝居をしてみるが、全くといっていいほど、気晴らしにもなりゃしない。
「…面倒くせえなぁ、逃げてぇ」
現在、コロシアム控室。ことの発端となった御主人は今頃、あちこちに頭下げに行っている所だろう。恐らく決闘の回避は不可能、選択肢は「大人しく尻尾捲る」か「不様に散る」かの二択しかない。
「(間尺に合わないにも程がある)」
俺の実力は精々中の上、魔力なんて上等なモノは欠片もない。
だってぇのに、相手のお坊ちゃんは全属性持ち+独自開発の意味不明な魔術使用、見たこともない刀剣術使用という世界でも獲るつもりかと聞きたくなる有様だ。
オマケに、こっちは没落貴族出身の伯爵家三男傍付き護衛。騎士どころか非正規雇用人に過ぎないが、相手の坊ちゃんは現在売り出し中の伯爵家次期当主。噂じゃ、数々の事業を成功させ、有力貴族や王族にコネを持ち、伯爵家や公爵家、他国の王族からも求婚を受けているらしい。どこの小説主人公だよ。
そんなの相手に決闘とは、我が主ながら剛毅な人だ。巻き込まれる側としては、堪ったもんじゃないが。普通、そんな男に喧嘩売るか?勝っても負けても、恋に狂った令嬢達からの非難があるだろうに。やっぱりアレか、婚約者奪われたのが気に入らなかったのかねぇ。
――まあ、どうでもいいか。犬はただ命令に従うだけだ。
勝ち目ほぼなし。命の保証なし。得るものなしの史上最悪の三つが揃っているが、戦わない理由にはならない。なにしろ、拾われた命だ。拾ってくれた男に使うのならば、後悔はない。
「入るぞ」
ひと声かけて入ってきたのは、少々太り気味の少年。我が主こと、コーク様だ。
顔色の悪さから察するに、交渉には失敗したようだ。
「当方援軍無し、現戦力を以って事態を収拾せよ。…と、いったところですかい?」
「状況はもっと悪い。オヤジは俺の短慮として、一切の介入をしないと宣言した。当家
以外の有力貴族も、立場的に援護したくとも必要以上に肥大したあの男には関わりたくないのだろう。仲裁を求めたが、暖簾に腕押しだった」
「事実上、主の未来はなくなったと、そういう訳ですかい?いよいよ以って、何のための決闘だか。とっとと詫びでも入れて、元の鞘に戻ります?」
「バカを言え!あの不埒ものに頭を下げろとでも!アイツに頭を下げる位なら大人しく自害した方がマシだ!」
「冷や飯食いになったとしても、生きていて欲しいんですがね。大体、なんだって決闘なんざ申し込んだんですかい?あの坊ちゃん、行き場のない奴隷やら身分低い奴でも、能力さえあれば雇い入れる聖人って話ですが」
ありゃりゃ、青くなったり赤くなってた主の顔が、今度はドス黒くなっちゃっいやしたね。
乱暴に椅子に座る主は普段ののほほんは何処へやら、そこらのチンピラのようだ。
「それが問題だ!あのバカは、他国の人間だろうが、元スパイだろうが平気で雇い入れる。側近共はそれでも忠誠を誓っているらしいが、現状何人の裏切り者を抱え込んでいるか、諜報を担っている当家ですら把握できていない」
「マジですかい?」
「ああ!大体、不用心過ぎる!あのバカは正義の味方を気取っているのかもしれんが、無能な働き者とは、奴のことだ。本来なら、受け皿を用意してから行うハズだった奴隷市の解体を奴が報告なしに行ったせいで、一体どれだけの流民を出したか!」
「それに、農地改革もそうだ!奴め、不用意な大量生産なんぞしよって!おかげで農作物が値崩れを起こして危うく市場崩壊し掛けたのだぞ!さらに普段の言動!自分の価値を理解していないのかもしれんが、使者を通さずに他国との交渉、王族に対する不敬行為、とどめに多くの有力貴族を侍らせる所業!すべて国の品位を落とす行為だと分かっているのか!」
爆発した。主の怒りが火山の如く、見事に爆発していた。諜報を司る家柄上、感情を殺す訓練を受け、滅私奉公を地で行って来た主が、癇癪を起した子どもの様に色々ぶちまけていた。
「ってことは、何ですかい?今回の決闘も女取られたからではなく…」
「国の為に決まっておろうが。奴があのような並外れた才能を持たなければ、そもそも決闘前に総出で潰しておるわ」
今回の決闘の名目は、主の婚約者であったルプス家の一人娘シェーラが婚約破棄を要求。そこに何故か、あの坊ちゃんが首を突っ込んできたのが事の始まりだった。
「当たり前だが、婚約とは本来家同士のつながりを重視し、本人の意思は介入しない。それは貴族にとっては当然のことで、義務でもある。シェーラの婚約破棄も正規の理由、手続きがあれば何の問題もなかった」
「まあぶっちゃけ、子供が生まれないと洒落になりませんからね。男女問わず、その辺のことは重要ですな」
「ああ。だが、シェーラの破棄理由は私に大器がないという曖昧なもの。さらには、バカと婚約すると言っているのだ。正気の者なら、これを容認する訳にはいかん。愛を求めるなとは言わないが、愛だけでは社会が回らないからな」
「さらに、が続きそうですね」
「さらに真偽は不明だが、奴が粉をかけた娘達が婚約破棄しようと動き出しているとのことだ。大方、此度の一件の後、今回と同様の方法で婚約しようと画策しているのだろう。悪夢だ」
それは悪夢に違いない。一応、決闘においての条件は規定がない。本人の良心、というよりも命懸けの行為を好き好んで行う人間は少なく、常識があればあまり無茶はしないだろうという制定当時の油断があったからだ。
「つまりは何ですかい?上手く行っても種馬争奪戦、下手すりゃ国のトップが異母兄弟ってオチが待っていると?」
「考えたくはないがな。仮に実現した際には、王の首を挿げ替えるしか納める方法がなくなる。流石にその前に、誰かが止めるだろうがな」
何だろう。うわぁ、としか言いようがない。正直、ここまで聞いてしまうと、決闘云々する前に、馬鹿坊ちゃんの下半身抹殺した方が全てが丸く収まる気がしてきた。
「そういう訳だ。お前には悪い事をしてしまったと思っているが、これも国の安寧のため。頼んだぞ」
「あまり期待せんで下さいとは、言えませんな。主には拾ってもらった恩義がありやす。どんな手を使ってでも勝ちにいきやすよ」
そうだ。どんな手を使ってでも勝ちに行く。正直、主は俺に期待していない。億が一の奇跡が起きたとしても、一匹の蟻は象に勝つことはあり得ない。だが、爪痕は残せる。奴が絶対的な力を持つ化け物ではなく、力が強いだけの人間であると証明できれば、後の楔にはなるだろう。
「そんじゃまあ、逝ってきますか」
遺書にはこう書こう、「我が身、国の礎になれたことを誇りに思う」
センチネル家代表闘技者「■■■■■」
対戦者の申し出により、1分間無防備な状態への攻撃許可がおりる。
戦闘開始直後に戦斧よる兜割りを行うも相手のオートガードにより無効化され、戦斧破損。拳による殴打に変更するも、無防備な人間に対して有効打一つ与えられぬ体たらくを披露。1分経過までに数十の打撃を行い、両手を骨折。時間経過後は、終始相手選手の優位に運び、全力を出しながら相手の足元にも及ばず敗北。慈悲による治療を受けたのにも関わらず、恥知らずにも強襲。あっさりと見破られ、四肢を切断される。雇用主であるセンチネル家三男コークは敗北を宣言するも、選手が納得せず試合は続行。以降、致命傷を受けては相手から治療を受ける何とも情けない姿を終始さらし、相手選手が長引く試合を終わらせる為に、穏やかな死を与えられた。
なお、あまりにも惨めなため善意により名前の公開を伏せる。
テンプレ的な反則行為を行ってくるキャラが、負けれない理由があるって設定が好きで書いてみました。
無駄死エンドは噛ませの定番。




