購入
「それにしても賢い」
露天商は支払いを終えて立ち上がったアインを、驚嘆の眼差しで見上げた。
「その制服、まだ初等部だろうに」
「詳しいですね」
アインは露天商の人のよさそうな顔を見返す。
「ノルク島には何度か来たことが?」
「そうだね。何度も」
露天商は頷く。
「ほかでこんな風には売らないからね」
その言葉にアインは眉を上げた。
「ここでだけ、こういう売り方をしているということですか」
「そうだよ」
露天商は微笑む。
「ほかではこんな売り方はしないさ」
「どうして」
「だって、ここはノルク島じゃないか」
そう言って露天商はアインに笑いかけた。
「世界の知恵が集まる場所だろ?」
「挑戦的ですね」
アインはそう言って微笑むと、しゃがみこんでいるカラーの肩に手を置く。
「決まったか」
「うん、これにしようかな。あと、これも」
カラーが小物を二つ持ち上げる。
「二つも買うのか」
アインが顔をしかめると、カラーは悪びれる様子もなく頷く。
「だって、半額で買えるならどっちもほしいし」
「図々しいな。まあ実に君らしいが」
アインは肩をすくめて、そのうちの一つを受け取る。
「まだいくつか買いますが、いいですか」
念のため、アインは露天商にそう確認した。
相手も商売だ。生活が懸かっている以上、ゲームのような商売をずっとしてくれるとは限らない。
だが、露天商はアインの心配をよそに、柔和な表情を崩すことなく頷いた。
「構わないよ」
それから、冗談っぽく付け加える。
「ここの商品全部、とでも言い出せば話は別だがね」
「その時はどうするんですか」
アインも同じように冗談めかして尋ねると、露天商は目を細めて答えた。
「その時は、私以外絶対に答えられない問題を出すよ。そうして二倍の値段で全部買い取ってもらうさ」
「なるほど」
アインは頷いてカラーを振り返る。
「だ、そうだ。この二つだけでいいな」
「お金があれば全部買うけどね」
カラーは肩をすくめる。
「アイン、出世払いでいいならあなたが立て替えておいてよ」
「いいわけないだろう。僕から金を借りたいなら、実家の親を保証人としてこの場に連れてくるんだな」
アインは答えて、小物を露天商に差し出した。
「それではまずこれを」
露天商の提示した値段を、カラーは身を乗り出して真剣な表情で聞き、頷く。
「うん。その半額なら、買いだわ」
「それじゃあ問題に挑戦します」
アインの言葉に、露天商は頷いた。
「それでは、さっきよりも難しい問題にしようか。あなたは南の歴史には相当お詳しいようだから、中原の話にしよう」
「どうぞ」
アインが平然と答えるのを見て、露天商は苦笑する。
「自信ありそうだね」
「そういうわけではありませんが」
アインは答える。
「不安そうな顔を見せる理由もないので」
「なるほど」
露天商は軽く頷き、声を改めた。
「ヴォルカド王国は知っているね」
「もちろん」
アインは頷く。
「さして何もない山間の小国でしょう」
「その通り」
露天商は頷いてアインを見る。
「あなたの言う通り、ヴォルカド王国は山岳地帯の小国だが、その最高峰、フレウギレ山には別名がある。それは何でしょう」
「フレウ……なんだって?」
フィッケが目を瞬かせた。
「初めて聞いたぜ。ヴォルカドで一番高い山? その別名?」
そう言って肩をすくめる。
「知るわけねえよ。その辺の雑草の名前でも聞かれた方が、まだ知ってる可能性高いぜ」
「どうなの、アイン」
カラーが心配そうにアインの顔を見上げた。
「今月のお小遣い、あなたにかかってるのよ」
「さて」
アインが顎に手を当てると、カラーが、ちょっと、と言ってアインの足を叩いた。
「本当にしっかりしてよ」
「さあ、答えを聞かせてもらおう」
そう言って笑顔で見上げてきた露天商に、アインも笑顔を返す。
「ナトコの白い貴婦人」
「……正解だ」
露天商が吐息とともに答え、カラーが歓声を上げた。
「やった! すごい!」
「すげえ!」
フィッケも目を丸くする。
「さすがアイン! 登ったことあんのかよ!」
「あるわけないだろう。どうして僕がヴォルカドくんだりまで行かなきゃならないんだ」
顔をしかめてフィッケにそう言った後で、アインは露天商に向き直る。
「じゃあ、これは」
そう言って小物を持ち上げると、露天商は鷹揚に頷く。
「もちろん半額でいいよ」
「やったぁ」
カラーが両手を上げる。
「ありがとう、アイン」
「これは参ったな」
露天商は、本気とも冗談ともつかない口調でそう言って、額に手を当てる。
「今日は商売あがったりだ」
「あと一つ買ったら帰ります」
アインはそう言って、カラーに手を差し出す。カラーは、笑顔でその手の上にもう一つの小物を載せた。
「お願いね、アイン」
「これだそうです」
アインは微笑んだ。
露天商の繰り出した三つ目の問題にも難なく解答を出したアインに、露天商は称賛の言葉とともに小物を手渡した。
カラーがほくほく顔で支払いをしているのを見るでもなく見ているとき、アインはまだフィッケがうずくまったまま動かないのに気付いた。
「おい、フィッケ」
アインは声をかけた。
「カラーの支払いが終わったら帰るぞ」
「ああ、うん」
フィッケは頷くが動かない。アインは優しい声を出した。
「帰りにさざ波通りで食事でもしていくか。カラーのおごりで」
「ちょっと、何言ってるのよ!」
カラーがすぐさま振り向いて声を上げた。
「勝手に決めないでよ」
「君は耳はいいんだな。耳は」
アインはそう言ってから、フィッケの肩を叩く。
「ほら、行くぞ」
「うーん」
生返事をしながら、それでもフィッケは動かなかった。
「どうした」
アインはフィッケの隣にしゃがみこむ。
「何か欲しいものが見つかったか。だが、君はもう金がないんじゃなかったか」
「ああ」
フィッケは頷く。
だが、その目は並んだ商品の一点を見つめたまま動かない。
そちらを見て、アインは目を細めた。
「……そうか」
そこに置かれていたのは、精緻な銀の細工がされた髪飾り。
「それか」




